06... 全てが無くなったわけじゃない

*オリキャラ有り注意
*オールキャラ







手紙を開くと、書き出しは「ロザリス殿」。
差出人は、ユニオンの次期トップ。
丁寧に畳まれた手紙を、慣れた手つきで開封する。
そこに毒などの仕掛けは無いと信じているから、自らの手で。

青年は、まだ年若い20代後半だ。
先代の跡を継ぎ、皇帝一族に仕える貴族として政治を担っている。
短く切りそろえられた黒髪と、そこそこの長身。
容姿は普通の部類に入ると本人は思っているが、一応はそれなり、と評判だ。
彼の一番の良さは、その若さからくる発想だ。
凝り固まった思想の貴族とは異なり、積極的に自ら帝都の外に足を運ぶ。
ハルル、アスピオ、カプワ・トリムにカプワ・ノール。
更にはヘリオードまで、星喰みの騒動の際には赴いた。
貴族としての家柄は位が高くとも、青年はまだ政治のトップを担うには若すぎる。
その理由から、執政官として各地へ派遣されることは無い。
だからこそ、世界の状況を自分で見たいという欲求に従い、それを難なくやってのけているのだ。

大胆さとやり遂げる力、そして悲観的にも楽観的にもならない思考。
とても重要な能力であり、傍に欲しいと思う人材だと、ヨーデルは彼に目をつけていた。
ヨーデルが皇帝となった時、騎士団の統制はフレンに任せれば問題ない。
貴族を蔑にしていないと示すためにも、能力如何に関係なくある程度の権力者を周囲に置く必要はある。
しかしフレンとは別に、自分の下で柔軟に動ける誰かが必要だった。
そこで白羽の矢を立てたのが、ロザリスという若い貴族の青年。
目まぐるしく星喰みの事件の処理を行っている中で、自然と評議会に顔を出すまでに地位を上げ。
ヨーデルの計らいや、フレンと親しい事もあり、騎士団の評判も上々。
作り上げられた、固められた権力の中でも、そうと見せない人当たりの良さと世渡りの上手さ。

何より、あのユーリ・ローウェルをして、「お前みたいな貴族様もいるんだな」と言わせたのだ。
これは使えると、ヨーデルは思った。人の上に立つからこその思考だった。
――帝国側の、ギルドへのパイプ役として。










手紙を読み終え、封筒に戻す。
大方予想通りの内容に返事を書くべく筆をとった時、来訪者を告げるノック音に顔を上げた。

「はい」
「失礼しますね、ロザリス殿」
「ヨーデル殿下!」

驚きつつも、来訪を歓迎するかのように腕を開く。
立ち上がり一礼するロザリスの前まで来ると、ヨーデルは平時の穏やかさで話始める。

「突然すみません。フレンが発ったようですから、あなたはどうしているのかと思いまして」
「私がダングレストに直接赴くことはまだ難しい事。仕方がありませんが、もどかしいものです」
「お互い、想いとは裏腹になかなか身動きが取れませんね」

その通り、とロザリスも頷く。

「だからこそ、彼らの…凛々の明星の手助けになれれば、と思っています」

決意と覚悟を秘めた瞳に、ヨーデルも思わず引き込まれてしまうものを感じた。
この青年は、貴族という身分でありながらその特権に自惚れることなく、錯覚を起こすこともない。
彼の視点では誰もが平等であり、自らの感覚に従って事を為すだけの『感の良さ』を備えているのだ。
もしかすれば、あのユーリ・ローウェルをしのぐものがあるかもしれない。

「あなたは本当に…彼等に期待しているんですね」
「期待…そうかもしれませんが、同時に向こうにも期待してもらわなければいけませんから」
「なるほど」
「全ての貴族が、ラゴウやキュモールのようではない。彼らの価値観で、貴族を纏められては困りますから」

ロザリスの言葉には、欲のない誇りがあった。
それがヨーデルにとっては眩しく、自身では抱けない発想である事を頼もしく思っていた。
ロザリスは、ユーリという人物を把握しながらも真っ向から対立する気概を持つ。
フレンは親友の立場がどうしても先行してしまう場面がある。それを補足する形でも、ロザリスの立ち位置は重要だ。

ヨーデルにとって、ユーリは命の恩人であり、施政者として申し訳ない事をしたという気持ちがどうしても沸いてしまう。
本来は切り捨ててしまわなければいけないことも理解しているけれど。
そのぶん、ロザリスの言葉にはっとさせられることも多い。

「私は、帝国側のギルドとのパイプの役割を。彼等は、ギルド側の帝国とのパイプを。それが理想でしょう」
「ロザリス殿…」
「ぱっと出の私に、古狸共が色々と画策しているのは承知していますよ」
「…ふふ…あなたが居てくれなくては、困りますよ」
「殿下にそう言っていただけるのは、身に余る光栄です。今後も、殿下に尽くすことをお約束します」
「それがひいては、帝国のために」
「帝国という守護を持って、弱き民を守るために」



***



酒場を出て行ってしまったユーリとすれ違いに、カロルが扉の向こうに現れた。
三人の顔を見て、すぐに駆け足でやってくる。

「フレン、もう着いてたんだね」
「ああ。カロルも忙しそうだね」
「凛々の明星には、色々と顔を出しておいて仕事をくれる依頼者を見つけなきゃだからね!」
「はは…君は本当に頼もしいな」

エステルもレイヴンも、同様にカロルを見下ろした。
この一年で背も伸び、エステルより少し下、というくらいだ。
目線の近くなったエステルは、嬉しそうに笑う。

「えっと…それで、さっきユーリが出てっちゃったみたいなんだけど…」
「もしかして、彼に用事があったのかい?」
「まあ一応、ハリーに呼んできてとは言われてるんだけど」

無理そうだよね、とフレンの顔を見れば、軽く肩をすくませた。
レイヴンも仕方なさそうにため息をつくので、やはりそうかとカロルも肩を落とす。
十中八九、ユーリが半ば逃げ出した理由を察することができてしまうためだ。

「ダメかなぁ、やっぱり」
「いやいや、首領が諦めちゃってどうするのよ」
「でも、その様子だとフレンも説得したんでしょ?で、駄目だったんじゃないの?」
「説得、ってわけじゃないよねフレンちゃん」
「そうですね…喝を入れた、という所でしょうか」
「それでもダメそうなのか」

突如、割って入る声に全員がそちらを振り向く。
ハリー、と名を呼ぶレイヴンに手を挙げて、そのまま腰に持っていく。

「ユーリって男を買いかぶり過ぎたか」
「…アイツも、本当は分かってるはずなんだ。それでも渋るのは、只の子供の癇癪と一緒だよ」
「フレン、結構きついね…」
「でも、それくらい言わなければユーリは揺らぎそうにないわね」
「あ、ジュディスにリタ」
「うちもおるぞ!」
「パティ」

凛々の明星、ユーリを除いて全員集合という図だ。
酒場の中でも目立つが、本人たちは気にせず言葉を続ける。

「お友達が言っても、ユーリはまだ折れなかったのね」
「ってか、もう我儘の域じゃない。別にアイツ一人で全部やるわけじゃないんだし」

ジュディスとリタの言葉に全員が頷くも、ハリーは腕を組んでレイヴンを見やった。

「…俺は、立場上どうしても親帝国を掲げるわけにはいかねえ。そのあたりの調整は、古株のレイヴンに任せるのが妥当だろ」
「でも俺様も、一応騎士団のアドバイスも頼まれてるんでそのあたりは両立が必要っと」

レイヴンが続き、エステルも口を開く。

「貴族側は、ギルドと手を組むなんてという人はまだ多く存在します」
「ドンの存在は、未だに良くも悪くも帝国にとって大きいからね」
「ドンが死んでもまだ続いてるんだよね…」
「騎士団にとっても、オルニオン建設の折りに創設した混合部隊が今になって差別意識を生む原因になっています」

フレンの言葉に頷く。ハリーの目は鋭いまま。

「だからこそ、その溝を埋めるための存在が必要だ」
「ドンが担っていた象徴を、欠落させたままではいけない」
「その通りだ、レイヴン。帝国騎士団長と親友であり、帝国という勢力に取り込まれず、圧倒的な強さを持つ」
「どうしてもユーリを担ぎ上げたいってわけね」
「リタ…あからさま過ぎるよ」
「事実でしょ」

ユーリが最も嫌うもの、それが自分という人格を他者に決定され、『押し付けられる』事だ。
他人が自分の事をどう思ってもいい、それが相手の認識だと割り切っている彼にとって、理想の押し付けを極端に嫌う。
それは、かつて自分がそうでありその理想が廃れたことも原因の一つ。
自分の力で立ち上がることを信条としている彼だけれど。
その姿勢が時に人を救い導くことを、理解していながら違うと思い込む。
あくまで、『自分の力で』そうなったのだと。
――それこそが、ユニオンの立て直しに必要なのだ。

「アイツだって、分かってますよ。でも、おそらくドンの事を考えればおのずと答えは出てくるはずです」
「喝を入れた親友的には、どんな感じだ?」

ハリーの問いに、フレンはそうですね、と少しだけ視線を泳がせて。

「後は、仲間次第です」