可能性は、裏切りか了承か
*オールキャラ
多くの人が、ドンの存在を心に刻んでいる。
死んでしまった後も、ずっとずっと。
最後に託された想いも、願いも、人の数だけ違った意味をもって生き続け。
献花台に捧げられた花の彩の向こう。
どこか遠いところから、それでいいのだと笑っている気がした。
ダングレストの黄昏が、星瞬く夜へと姿を変える頃。
橋の上、街を見上げるその位置で、ユーリは柵に背を預けた。
この場所は、全ての始まりだ。
選ぶ道を決め、選んだことを後悔しないように。
心のうちに問いかける。
人殺しの罪。フレンの正義。自ら手を汚す事。ユーリの正義。
自分だけの道で、自分だけの問題。
だが、ドンは待っていると言った。
この自分が、あちらでドンと同じ場所に立つことを、『ドンが望んだ』。
拳に力を込める。
いつ見ても闇に溶けそうなこの手を掴んでくれたのは、仲間たちだった。
裏切りも、否定も、全て一人で背負うなと力尽くで信じさせてくれて。
ああ、これ以上の幸せは無いと感じる。
仲間がいる事を、誇らしく、自分にはもったいないと思った。
ドンは云った。
てめえの足で歩け。仲間を大切にしろ。
ユーリは、すでにできあがった人格と、意志の強さを持っていた。
そんなユーリへのドンからのメッセージ。
それは…
「ねえ、ユーリ」
思考に沈んだユーリを、カロルの声が引っ張り上げる。
一年で、だいぶ頼もしくなった芯のある声。
なんだと目線だけで問えば、ぐい、と拳が突き出された。
思わず、組んでいた手を外して背を伸ばす。
「僕の夢は、ドンの跡を継いで立派なギルドを作って、ドンに恩返しする事だった」
「…そうだったな」
「今でもそれは変わらない。でも、今の僕にとって、ドンが目標じゃないんだ」
カロルの声は静かだった。
静かな中に、熱意があった。
「僕には、僕にしかできないことがある。僕一人で出来る事もあるし、無理だったら皆と一緒に頑張りたい」
「……」
「ユーリにはユーリのすべきことがあって。でもそれは、ユーリに託されたけどユーリだけが背負うものじゃない」
「……」
「ユーリは、弱いところとかあんまり見せてくれないけど。僕は、ユーリの苦手なものも、弱いところも、ちゃんと知ってる」
言葉は、何も出なかった。
ユーリはただ、カロルの声に耳を傾ける。
「ユーリと一緒にギルドができて本当に良かった。だって僕は、ユーリに託されたものを、一緒に頑張る事ができるから」
「…カロル、お前」
「僕は…僕は、まだ弱いし、判断力もないし、ちゃんと首領できてない部分もたくさんあるけど」
「……」
「でも、ユーリが託されたものが、ユーリ一人で背負うものじゃないってことくらいは、分かるんだ」
「……」
「だから、これからも一緒に頑張ろう!」
宵闇に紛れる髪が風に揺れ、少しだけ顔を隠す。
カロルは、ユーリに向かって突き出した拳をそのままに。
ユーリは、それに返すことなくただ眺め、思案して。
ふと、詰めていた息を緩めた。
拳に、軽く拳が返される。
「カロルは、十分立派だ」
オレなんか足元に及ばないくらい。
心の中で付け足した。言葉にはしなくても、その眼差しが語る。
「結局、駄々をこねてたのはオレだけ、か」
「そうそ、あんた一人で帝国の橋渡しとか、危なくて仕方ないじゃない」
「ユーリには、私たちがついてます」
「仲間だもの。ユーリばかりに良い顔はさせられないわ」
「おっさんはほどほどにね〜」
「うちの力も、存分に使ってよいぞ!」
「わおん」
いつから聞いていたのか、カロルの後ろには凛々の明星の姿、そしてエステルとレイヴンとパティ。
皆がそれぞれ、彼等らしい言葉でユーリの背を押す。
見えないそれは、しかし確実にユーリにとっては大事な、大事な。
「…ははっ」
つい、声に出して笑っていた。
それくらい愉快で、皮肉で。
これ以上ないほど、優しく心強い言葉だ。
「そうだな」
仲間の顔全員を見渡して、ユーリは一つ頷いた。
「オレ一人じゃ、ないもんな」
***
ユニオンの盟主は、ハリーと決まった。
彼はユニオンとしての形を保つためにも、ドンとは違う施策を講じた。
まず、盟主は一人と決まっているが、各ギルドから首領、もしくはそれに準ずる者を幹部とする。
つまり、ユニオンを無形の機構から体制をきっちりと定めた組織へと変えた。
所属する全ギルドは、ユニオンにその活動の報告を行う。それがいかなるものであっても、基本的には介入しない。
しかし、秩序を乱すと判断されるもの、わざと帝国との諍いを起こすと判断するものは、ユニオンの監視下に置く。
相互補助というユニオンの信念に、相互監視を新たに設けた形になった。
この制度が、うまくいくかは分からない。
しかし、やってみなければ始まらない。
亡きドンに志を伝えるハリーの姿に、後悔や挫折は無い。
レイヴンは、それを頼もしく、眩しく感じた。
――ああ、これこそが時代だ。
「見てるかい、ドン。イエガー。アレクセイ」
かつての旧友へ、尊敬する人へ、捧げる。
世界を見届けることはしんどいだろうけれど、自分には身に余る褒美だ。
この土産話を、楽しみにしていてほしい、と。
ハリーの後ろにユーリの姿を見つけ、口元が苦笑に変わる。
フレンもまた、どこか姿は見せずとも、続くハリーの演説を聞いているのだろう。
ドンの献花台に花を添えるところまでは見たから、おそらくどこかに。
世界が変革の時を迎える。
時代は移り、新しい世代へと継承され、そして新しい芽吹きが訪れる。
決して優しくは無い世界で、それでも生きていることを誇りに思う。
*****
お付き合いありがとうございました!