04... 生きる証

*オールキャラ








黄土色の彩る町で、一人の少年と一人の少女は、いつも通り水浴びをしていた。
砂漠にぽつりと浮かぶ湖を囲む町に、結界は無い。
一年ほど前に突然効力を失った魔導器は魔物の侵入を許し、オアシスをめぐる争いに発展しかけた。
しかし、街にはその前より常駐する騎士たちがいた。
横暴で横柄という印象しか無かった騎士の印象とは全く異なる、青い隊服を纏うフレン隊。
キュモールという圧制者に代わり、町を守護する事となった彼らは、結界無き後も変わらず街を守った。
大人たちは言う。フレン隊のおかげで、この町は解放されたのだと。

だが、少年と少女にとっては違った。
彼らの両親を助けてくれた命の恩人は、ギルドだった。
ピンク色の髪の人と、紫色の羽織を着たおじさんと、ゴーグルをつけたお姉さん。
自分たちと少ししか背が違わないのに、大きなカバンを持ったお兄さん。
長い黒髪で、怒られたから少しだけ怖い感じのする、お兄さん。
両親を助けてくれると約束して、ちゃんと約束を守ってくれたクリティアのお姉さん。
二人にとって、今でもガラス玉は宝物だ。
オアシスの水の中で、太陽の光を浴びてきらきらと輝く。
ペンダントにしてもらったそれは、二人で交代で付けていて、お守り代わりのようなものだ。
魔物が襲ってきたときも、ペンダントを握りしめていれば、あの人たちが助けてくれているような気がした。
二人は、ギルドの名前を知らない。だから、父親に聞いてみた。
そうしたら、とても誇り高い、素敵な名前なんだよと言って、教えてくれた。
ギルド『凛々の明星』。世界を守る、一番星の名前。










地面を踏みしめる。ざくざくという音は、帝都の作られた歩道の音とは違う、自然そのものの音。
太陽の日差しに、身体全体が焼け、内側は溶けてしまいそうだ。
ラピードも、隣で苦しそうに体温調節をしている。
はやいうちにすべき事を済まそうと思ったが、できればその場にいるのは自分だけがいい。
宿で待っていてもらうか、とそちらへ足を向けたところに、背後から声がかかった。
どこかで聞いたことのある、子供の声。

「お兄ちゃん?」
「ん……お前ら、確か」
「あの時のお兄ちゃんだ!」
「アルフとライラ、だったな。元気にしてたか?」
「うん!」

元気な挨拶に、ユーリの双眸も優しげに和らぐ。
二人とも、少しだけ背が伸びたようだ。
出会ってすでに一年経っているのかと思うとなかなかに感慨深いものがあるが、今のユーリにとって二人との出会いは偶然の幸運だった。

「久しぶりに会ったところ悪いんだが、ラピードが涼める場所ってないか?」
「ぼくたちの家、きなよ!」
「じゃ、お邪魔させてもらうかな。俺はちょっと寄るところがあるから、後で迎えに行く」
「ワフッ」

心得たとばかりに一鳴き。
お兄ちゃんもあとでね、と妹の方にせがまれ、軽く手を振っておく。
二人につれられるラピードを見送って、ユーリは一人、『例の場所』へと歩いた。
ゆっくりと、宿屋からそこまでの、決して長くはない距離を。


耳に、未だに残るアイツの声。
砂漠にのまれる断末魔。
足元のロープを懇願する表情。
最後の最後まで、腐った人間の吐く台詞とはこんなものかと冷静に感じていた。
まだアレクセイの方が、『分かってしまう部分』があった。
しかし、アイツは違う。殺してやりたいと思ったことを、何度でも『繰り返す』。
殺せると思ってしまえる。そこに、後悔が無い。
それは人間として、あってはならない思考だろう。
息をしていることが許せない。
存在していることが許せない。
罪もない人を、とか、自分勝手さが、とか。そんな理由ではない。
『必要だと思った』


人が落ちないように、しっかりと柵がされている其処に立つ。
剣を握りしめる手が、汗を帯びる。
身体のどこかが、軋む音がした。
同時に、フレンの声が頭の中で再生される。待ってる、そう告げた声が。
夜の帳と湖。水面が揺れ、心も揺れる。
明るい太陽の下でも蘇るあの日の事。
それ以上でも、それ以下でもない。変わらない事実が再生されるだけだ。
よろしく、と差し出された手を握り返した。
罰を受けようと言うカロルに、完敗した。
そう、ユーリの中に何かが起こったのは、かけがえのない仲間たちがユーリに罰を与えたからだ。
人を頼るという、それまでの自分とは無縁の、罰を。

「おにーちゃーん!」

その時、遠くからライラの呼ぶ声が思考を遮った。
後ろを向く。駆けてくる笑顔にどうしたと尋ねる前に、顔面に思いがけない攻撃が来た。

「ぶっ!?」
「おおおお姉ちゃん!?」

不意打ちで顔面から上半身にかけて、ずぶ濡れだ。
かなりの勢いで飛んできた水は、結構痛い。

「あら、水浴びよ」

犯人は、事も無げに言い放った。

「ジュディ…とりあえず事情を説明してくれ」
「こんなに暑いところまで迎えに来させないで欲しいわ」
「あー…悪かったよ」

水浴びは勘弁してほしいものだが、と思いつつ服の水を絞る。
わたわたと二人を交互に見るライラに大丈夫だという意味を込めて手を挙げれば、胸をなでおろした。

「そろそろ帝都に行きたいのだけど、いいかしら?」
「…ああ、ラピードは」
「もう入り口で待ってるわよ?」
「…手際の良いことで」
「そう?これでも待っててあげたのだけど」

例の場所を指されて、ああかなわない、と苦笑する。
どこから見られていたのだろうか。

仲間は、自分に甘すぎる。
罰だって、結果的にこんなにも自分を許してしまっていて。

「いいのかよ、ほんとに」
「あら、何か言ったかしら?」
「いーや別に」
「あなたが、何を気にしているのかは分からないけど」

青い髪が、黄色い街に、さながら風のように舞う。
ジュディスは、淡々と言った。

「私たちは、そんなあなただから此処にいるのよ?」