青空の唄 9

*フレユリで現代設定
*素で恥ずかしい人たちです





暗い、場所。
昔から見ていた夢。最近よく見る夢。
でももしかしたら、現実かもしれない。
ずっと自分はこの場所で、一人で、漂って。
夜の闇よりも静かな此の場所こそが、自分の居るべき場所なのかもしれない。

(…―リ)

その時、どこからか、微かに声が聞こえた。
自分しかいない筈なのに一体誰が、と思うと、途端に恐くなった。
こんな場所、知っているのは自分だけでいい。
特に、彼には――知られたくない。こんなに弱い自分を。
彼と対等な自分でいたい、彼の隣にいたい。

フレンの笑顔が、自分を、勇気づけてくれるから。



「ユーリ」

暗闇の中から突如光が飛び込んできて、一度開けた目を瞑る。
ゆっくりともう一度瞼を押し上げれば、ぼんやりとした光だった世界が形を成していった。
見慣れた景色に、ああ病室か、と息を吐いて身体の力を抜く。
そう言えば、今声が聞こえた。名を呼ぶ声。冷たいはずのこの場所に響く、暖かな声が。
視線を横にやれば、整った顔に安堵の色を浮かべたフレンが、じっとユーリを見つめていた。
驚いて後ずさりしそうになるが、ここはベットの上。
ばさりと上半身だけ起こし、しかし身を乗り出すことなく硬直した。
言葉を発することができず、息を呑んでフレンを見つめ返す。
フレンも、何も言わない。ただ、黙ってユーリに物言いたげな目をするだけ。

直観的に、フレンは怒ってるのではないかとユーリは思った。
突然倒れて、困らせて、いつもみたいに「呆れた」と呟いて説教をされて。
それだったらまだいい。でも、もし「もういい」とか言われて去って行ったら、耐えられない。
自分を支えてくれていた存在がいなくなったら、自分はもう――

「ユーリ」

何も言わぬまま数分が過ぎていて、思考の渦に漂っていたユーリを引き上げたのは、再び発されたフレンの声。
あげられた右手にびくりと身体を竦ませ、叩かれるのではないかと目をぎゅっと閉じる。
…身体を襲った衝撃は、頬や頭を叩かれるものではなく、荒々しく抱き込まれるもので。
フレンの金髪が視界を覆う。

「フ、フレン?」
「……」

ユーリの困惑した声にも、答えはない。

「え、あの……」
「……」
「…わ、悪かった…心配、かけて」

素直に謝っても、フレンから言葉が発されることはない。
ただ、もう一度確かめるように、腕の力を強くしただけ。
どうすればいいのだろう、とユーリは戸惑う。
フレンの言葉が無いと、なんだかとても不安になってしまう。
心配してくれて、こうやって抱きしめてくれて。嬉しいのに、不安。

「…怒ってるのか?」
「怒ってなんかない。怒るわけない」

今度は言葉が返ってきた。震えている、絞り出したような声が。

「フレン」
「良かった…っ、君が、あんな風に…居なくなってしまうんじゃ、ないかって」
「…悪い」
「悪くない!僕に謝る必要なんてないんだ」
「どうして、君は自分の事を悪くしか思えないんだ!君はっ、僕にとって、君だけなんだ!」

抱きしめていた両腕が解かれ、今度は肩を掴まれる。
覗き込むように細められた瞳は、澄んだ青ではなく深い蒼。
苦しげに寄せられた眉に、何故フレンがそこまで苦しむのだと疑う。

「そんな顔、するな。私だって、フレンの傍にいられれば嬉しい」
「違う!君は、どこかで諦めているだろう?『どうせこんな身体だから』と…」
「それは…」
「僕は、それが嫌なんだ。ずっと、ずっとユーリと一緒に居たい。ユーリの身体を少しでも良くしたい」
「…っ!」
「僕は諦めたくないんだ。君の事を。君の隣を。その為に必要な力を持ちたいんだ」
「フレン…」

どうして、どうしてそんなに想ってくれるのだ。
幼馴染、親友、家族。そんな関係なだけだった筈なのに。
なのに、どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。フレンの偽りない言葉が、心に突き刺さる。
じわじわと沁み込んでいくような、濁流のように侵食するような。
真っ直ぐに向けられる、想い。

「わ、私だって…フレンと、一緒にいたいんだ」
「ユーリ」
「でも、どうすればいいんだ!?どうしたってこの身体は治らない!」
「……」
「治せるなら治したい。フレンとずっと一緒に居たい!そんなの、私だって…同じだ!」
「ユーリ。どうして、僕を頼ってくれないんだ?」

え、と呟いて、ユーリは冷静な面持ちのフレンを見つめる。
そこにあるのは、純粋な疑問のような、歯痒い葛藤のような、揺れる表情。

「もっと頼って甘えてよ、ユーリ。対等な関係に君は拘るけど、それはお互いを頼りにしちゃいけないってことじゃないよ」
「…」
「ユーリは気付いてないかもしれないけど、僕はすごくユーリを頼りにしてた。いつもご飯だって作ってくれるし、君の傍にいるとすごく落ち着く。君に励まされれば何だって出来る気がするし」
「それは、私だって…!」
「だからさ、ユーリ。少しぐらい君の身体の不安、僕にも教えてよ」
「……!!」

ユーリは息を呑む。
今まで封をしてきたものが、すべて曝け出される気がして、防衛反応からか、咄嗟に俯く。

「君の不安を、知りたい。君が苦しんでいる原因を消してしまいたい」
「フレン…」
「だって僕は、」

そこで、言葉が切れる。
続きがないまま数秒が経って、ユーリはそっと顔を上げた。
目の前には変わらず、フレンの顔。両肩を掴まれた掌が、熱い。

「好きなんだ、ユーリ」






(ずっと伝えてこなかった想いを口にする)
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