青空の唄 10

*フレユリで現代設定
*これにて本編終了です





ずっとユーリの事が好きで。それは、家族としての好きだと思っていた。
血の繋がりも、戸籍上の繋がりもない。二人でお互いの事を、家族みたいだと言っていただけ。
その関係が心地良かった。
身体が弱いユーリを構うのも、稀に甘えてくるのも、全部、彼女に関わることを厭うことなんてなかった。
だけど、それは違うと誰かが言う。
一緒に居られる時間は有限。その中でもユーリは、短い可能性の方が高い。
傍にいるだけでもいいと思っていたけれど、大人になるにつれて、ユーリの病気を治すことはできないかと考え始めた。
一度だけ、「生きたい」と告げた彼女。
その言葉は、それからずっと心の中の一部を占めていた。
だから、約束をした。「お互いがお互いを助け合う」ことを。
本当の意味を、ユーリは分かっていなかったかもしれない。
だがフレンにしてみれば、それは決心だった。ユーリを、助ける。
たとえ彼女がそれを拒否しても、自分の心が決めたことだから。




――好きだ、と告げられたフレンの顔は、今まで見たことがないくらい真剣だった。
甘い優しさ、暖かい、いつもの台詞とは違う。強くてこちらの心を揺さぶるような…そんな声と、表情。
いつもと違うからか、「当たり前だ」なんて言葉は出てこなかった。

「…ユーリの事が好きだから、一緒に生きたいんだ」
「フ、レ…ン…」
「教えてユーリ。君の不安を。君が思っていることを」

じんわりと、ユーリの胸にフレンの言葉が納まっていく。
促されているのに、ゆっくりでいいよと言わんばかりの瞳が、柔らかい光を伴ってユーリを包むようだった。
おもむろに口を開いて、するりと息が漏れる。

「ずっと…怖く、て」
「うん」
「いつもフレンの負担に、なってるんじゃ、ないかって」

うん、そんなことないよ、と。呟きに相槌が打たれて、言葉が続く。

「だんだん、フレンの傍にいるのは、だめなんじゃないかって」
「どうして?」
「足を、引っ張ってる気が、した。私に構ってるよりも、フレンは、優秀だし…」
「そんなことない」
「…優しさが、辛かった。いつか、別れるのに、フレンの人生を、縛りそうな、自分が、嫌で」

ポタリと落ちた雫に、フレンはすっと目を細める。
想いを言葉にするのに精一杯で、ユーリは気付いていない。
だからこそ、フレンは知った。今の想いが、ユーリの闇。

「フレンと一緒に居たいのに、それじゃ、フレンの……フレンの、将来を、壊しそうで」

相槌の代わりに、手を握る。
フレンの拳に、ユーリの涙が落ちた。

「それなのに、私のためって…嬉しいのがっ、信じ、られない」
「…信じられないのは、僕が?」
「違う…自分が、矛盾してる」

フレンの手を、握り返す。
その時、初めて自分の目から零れ出るものを認識して、急いで袖口をあてる。
泣くなんて思ってもいなくて、力任せにこすろうとするが、フレンの指先に止められた。

「ありがとう、ユーリ。言葉にして、伝えてくれて」

優しい手つきで拭われているのに、次から次へと涙が頬を伝う。
フレンの顔がぼやけて、よく見えない。

「泣いていいよ。泣いて、我慢しないで、教えて?」

誘う声に導かれるままに、ユーリは手を伸ばした。


***


結局ユーリはそのまま入院することとなり、通常どおり授業に出たフレンはいつもと変わらず授業を聞く。
昨日の騒ぎを知っている生徒からユーリの容体を聞かれることはあったが、それ以外はいつもと同じく生徒会の仕事をこなし、あっという間に放課後を迎えた。
面会時間ぎりぎりまで、あと一時間。少しくらいなら顔を見せられるだろうかと帰りの支度をして生徒会室を出ると、特徴的な青髪が視界に入った。
ぺこり、とお辞儀をして退出する背に、ジュディスは探るような視線を向け、そして優しげに微笑む。

「…それで、どうするのかしら?」

声に立ち止って。
フレンは、迷いなく応える。

「自分の望む道を、いきます」

そう、とジュディスは踵を返した。
フレンは顔だけ振り返り、再び歩き始める。

二人で決めた、お互いの道を、いくと決めた。
だから、自分の望む道を。








(好きだという貴方に、好きという言葉を返せる日を)
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