青空の唄 3

*フレユリ現代設定
*フレンの苦悩、ユーリの病気
*ちょっと暗いです





暗い、場所。
夢だ。昔からよく見る、夢。
自分ひとりだけがこの暗い場所に立っていて、声も何も聞こえない。
そっと手を伸ばすと、掌に当たる冷たい透明な壁。
見えないけれど、それは自分を囲んでる。
此処から出ようと試みるけど、無理だと分かってからは焦らなくなった。
夢だから、覚める。

だが、今日は少し違った。
透明な壁に圧迫されるような息苦しさを感じて、胸を押さえる。

(ああ、もしかして夢じゃないのだろうか)

このままこの暗闇に取り残されてしまったら?
目が覚めなくなってしまったら…

(…いやだ、)

それは嫌だ。
こんな暗闇を、自分に焼き付けて死にたくない。
だって、最後に見るのは…見たいのは………



「ローウェルさん、気分はどうですか?」

白い、天井。
視界の端にカーテンが揺れ、淡い桃色の制服を着た女性が頭上で何かをしていた。

(…ああ、そっか)

「悪くは、ないです」
「吐き気とか痛む所は?」
「大丈夫」
「では、20分くらいしたら点滴を換えに来ますね。ゆっくりお休みください」

てきぱきと必要な事を済ませ、看護婦は部屋を後にした。
ユーリは、緊張していた身体をベットに沈ませ、深く息を吐く。
知らず力が入っていた。さっきの夢のせいだろう。

今日は、学校を休んで検査だった。
一週間ほど風邪をひいていたため予定より遅れたが、半年に一度の定期検査。

腕に刺さった点滴の針を抜かない程度に身体をずらし、窓の外に目をやった。
広がるのは、彼の瞳のような、青空。

(フレン…)

あの夢に、フレンが出てきたことはない。
いや、誰も出てきたことがない。
出てこないで欲しい。自分の心が、完全には弱っていないと証明してくれるから。
良くも悪くもならない、自分の身体。
すうっ、と息を胸に送ると、先ほどの夢の延長だろうか、ずきりと痛んで思わず呻く。

「あぁ、もう……」

――自分が、情けない。





ユーリが検査で寝ていたとき、フレンは普段通り登校していた。
冬期休暇も近いため生徒たちが集中力を切らす時期だが、フレンは変わらず生徒会の仕事と勉強を両立している。
が、今日は少しばかり気にかかる事があった。

今日は、ユーリの検査日だ。
できれば、学校が終わればすぐにユーリの家に行きたかった。
検査の結果も知りたいし、ユーリの顔も見たい。

「…さっさと話を終わらせて、帰ろう」

フレンは、纏めた書類を封筒に詰め、職員室へ行くべく立ち上がった。





フレンは、学校において文句なしの優等生。
進学校ではない高校だが、進学率は決して悪くない。
それ故に、教師たちの注目の的であるフレンは、その将来も期待されている。
つまりは、フレンの知らないところで変な思惑や迷惑極まりない期待があるという事で。

「……」

職員室から退室した途端、表情が険しくなる。
それはいつものフレンからは想像できいないほど、苦しげで。
先ほど教師に言われた言葉が、彼の中で木霊する。

『シーフォ君は、法学科に進むのかい?』

『いえ…まだはっきりとした進路は決めていません』

『君の成績なら、どこでも狙えそうだね』
『奨学金希望書には、法学系に進みたいと書いてあるけれど』

『それは…入学した時点ではそう思っていましたが、今はちょっと…』

『まあ、まだ焦ることはないがね。君なら推薦する事もできる』

『はぁ…ありがとうございます』

分かってる。
でも、分からない。
幼いころからの夢と、今の自分の想いが食い違う。

(ユーリは…)

最近、いつもユーリの事を考えている。
彼女の隣が心地良くて、そこにいれば幸せになれる気がして。
だから、それ以外を考えるのが億劫になっている。
自覚はあるけど、けれど。

(…帰ろう)

帰りたい場所も、帰る場所も、ユーリの隣がいいのに。
ユーリに残された時間は、どれくらいなのだろう。




(二人の想いはすれ違うのに)
*****