マジック・ルーム 4
*フレユリinハリポタ
*クィディッチの話 後半
*ジェシリ+ユーリなくらいこの3人しか出てきません
**3人以外の人物名は適当、練習場所も適当。原作に則っていません。
「よっ、ユーリ」
かけられた軽い声にそちらを振り向くと、建物の死角にある塀に腰かけたシリウスが手を挙げていた。
他にも生徒がちらほらいる中、シリウスが一人その場所に居るため、ユーリは不思議そうに尋ねる。
「なんでこんな所で見てるんだ?」
「朝っぱらから罰則くらっちまってさ。今日の練習は謹慎」
「…お前、確か4日位前にも同じこと言ってなかったか?」
「あー…ほら始まるぜ」
どうやらこれ以上この話題を続ける気はないらしい。シリウスが指す方向を見れば、本当に練習が始まったらしく次々と箒に跨った選手達があちらこちらに飛んでいた。
運動でいう、ウォーミングアップというやつなのだろうと、ユーリは物珍しげに選手を目で追いかけた。
選手というだけあって、箒を自由自在に扱い空を駆ける彼等を追うのは普通の生徒では難しいが、ユーリは難なくジェームズの姿を見つけて、彼の取った行動に苦笑する。
どうやら彼のファンらしい女子が手を振っているのにわざわざスピードを落として応えているあたり、彼の気障っぷりというか人気が伺えるというものだ。後方からそれを注意しているキャプテンらしい上級生もいるが。
まさしく『魔法使い』ならではの光景に目を輝かせるユーリを傍目で見つつ、シリウスは呆れたように言った。
「お前、本当にマグル出身なんだな」
「あ?そんなに変か?」
「いや、変とかじゃなくて…そういう感じがしない」
「ま、少なくとも俺は、つい最近まで自分が魔法使えるなんて考えたこともねーけどな」
それはもっと変だろ、とシリウスは思ったが口にすることはなかった。
練習試合が始まる音が響き、どこからか、空飛ぶボールらしきものやら羽根の生えた小さいピンポン玉のようなものがものすごいスピードで選手たちに迫ってくる。
思っていたより荒々しい様子に加え、そのボールを投げたり打ったり追いかける選手に目を丸くして、
「…なんか、すごいゲームだな、クィディッチって」
「試合はこんなもんじゃないぜ?観客席の真上、真下、場合によっちゃ雲の中だって飛び回る」
「それはまた、随分激しいな」
「普段の授業みたいな生ぬるい飛行速度なんてつまらなくなるほど癖になる!つーわけでユーリ、飛ぶぞ!」
「は?飛ぶって何が…」
突然すぎる宣言に、選手を追っていた顔がシリウスへ向く。
ユーリは意味が分からないのと、一抹の不安を覚えすぐさま距離を取ろうと構えるが、そこはシリウス・ブラック。並大抵の反射神経をしていない。寧ろ予想通りの反応と言うべきか。
がっちりとユーリを掴んでいる腕とは逆の手には、いつの間にか箒が握られていた。
「お前っ、今日謹慎なんじゃなかったのかよ!?」
「罰則なんて破るためにあるんだぜ?」
「知るかっ!俺を巻き込むな!!」
「お前だってクィディッチやってみたいって言ってたじゃ」
「言ったけど違うだろ!お前絶対俺を巻き込んで楽しむためにやってるだろ!」
ユーリの叫びに、その通りと言わんばかりのシリウスの笑み。
ハンサムで頭脳明晰で記憶力も良いシリウスの意地の悪い性格は、間違いなくジェームズが絡んだ時に発揮されるものだ。もしかしたら、今日シリウスが飛行禁止になってユーリと一緒に練習を眺めるように計画されていて、このタイミングでユーリを巻き込むのもジェームズの計算のうちかもしれない。
(あり得る。こいつら二人なら絶対にあり得る!)
ホグワーツに通うようになって一ヶ月。『悪戯仕掛け人』と呼ばれる彼らの本領を見たことはまだないが、おそらくシリウスとジェームズにとっては他愛もない遊びのひとつなのだろうと予測はついた。
そして彼らがユーリを巻き込み始めたということは…恐ろしいことに、きっと防げない。
「大丈夫だ。お前を落とすとかそんなことは無いから」
「流石にそりゃ無いだろうが、問題はそこだけじゃねーだろ」
「つべこべ言うな。ほら、捕まってろよ」
「だから俺は乗るなんて一言も…うわっ!?」
ジェームズに比べて、シリウスの方が短気というのも間違いなくユーリにとって不幸の一つだ。
問答無用で箒に跨ったシリウスは、ユーリの腕を掴んだまま空を飛び立つ。
慌てて箒の端を掴み、ユーリは腕の力だけで仕方なくシリウスの後ろに跨る。
これはもう飛び降りるしか離脱の方法はなく、流石に地面までかなりの距離のある高度で飛び降りれるほどユーリは命知らずではなかった。結果、シリウスに任せるしかない。
ぶつぶつと悪態をつきつつも、もう仕方ないわと諦めの気持ちが強くなり、もういっそ楽しもうと切り替えることにした。
強引に誘ったにしては意外とユーリの事を気にかけているのか、速度は他の選手よりは遅めで高度も高すぎない。
変なところで紳士というか、なんというか。
その配慮はもっと前の段階で発揮してほしかったな、とユーリは心の中で呟く。
「どうだ?意外と乗り心地いいだろ?」
「おう…色々と後が怖いけどな」
「罰則なんて他のとこで取り返せばいいんだよ。それよりほら、今は楽しめって」
箒のスピードが、ぐんと上がる。目の回るような景色の流れに、しかしもともと動体視力も運動神経も抜群に良いユーリは自然と気分が高揚するのが分かった。
「すごいな…いつもこんな速度で試合やってんのか?」
「試合なんてこれの比じゃないくらい早いぜ?そうだな…しっかり掴まってろよ」
びゅん、と風を切る音が響き、ユーリの髪が舞う。急降下の前に感じるふわりとした感覚にユーリは身構えて、次の瞬間襲ってきた風の波に、押されないようぴたりとシリウスの背に自分の背をくっつける。
風の抵抗から風の軌道に乗ったシリウスの飛行技術に、周囲から感嘆の声が上がっているらしく、きゃあきゃあといった女子の黄色い声が特に風に乗って聞こえてきた。
青い空が遠くなるような近くなるような、不思議な感覚に陥りながら、ユーリは目を閉じてみた。
(…気持ちいい)
きっと、マグルの世界では得られない恍惚感。空を飛ぶのは、こんなにも楽しい。
ああ、この世界に来られて、良かった。
「ユーリはご満悦みたいだね」
ふよふよと箒に跨って浮かぶジェームズは、塀の上に座るユーリを見ながらにっこりと笑った。
「いいだろ、クィディッチ。試合は試合でまたすっごい盛り上がるしさ。どうだ?ユーリもやってみないか?」
「シリウス。お前は謹慎処分中に何をやってるんだ!!」
がんっと痛そうな音が響いて、ユーリはびくりと身を竦ませる。
同じく箒に乗っていたシリウスの頭にげんこつを落としたのは、グリフィンドールのチームメイトらしき大柄な人物。
シリウスの目から火花が散るような、そんな盛大な音に、痛すぎて言葉も出ないのか蹲る。
「えーっと…」
「キャプテンのライナーだよ」
ライナーと呼ばれた彼は、シリウスを放ってユーリの前に飛んでくると、片手を差し出した。握手をする。
「グリフィンドールキャプテンの、ライナー・グリーグだ。君も災難だったね。この問題児どもの悪だくみの被害を受けるなんて」
「あはは…」
「ライナー先輩酷いよ!」
「煩い。どうせまたお前も一枚噛んでるんだろう?まったく、教師がいなかったから良いものを」
どうやら今までにも何かあったらしい。
ユーリは乾いた笑いを浮かべて、とりあえず教師に見つからなくて良かったようだと胸をなで下ろした。
今度は試合を見に来てくれと誘われ、是非行くよと返してライナーと別れる。
また後で、とジェームズも飛び去って行った。
「…シリウス、大丈夫か?」
「……」
「……あぁー…ありがとな。乗せてくれて」
とりあえず礼を言うと、シリウスは箒から降り立ってユーリにじっと視線を送った。
「…楽しかったか?」
「ああ、すごく。ま、今度は普通の時に乗せてほしいけどな」
そう言えば、シリウスも満足したのか、「よし、今度は二人で飛ぼう」と箒を片手に校舎に入って行った。それに続こうとしたユーリを振り返り、シリウスはまたもや意地の悪い笑みを浮かべた。
「今度俺の箒に乗る時は、悪戯仕掛け人の一員として乗せてやるよ」