愛してるが届けばいい
急に息苦しくなって、目が覚めた。
ベッドサイドに手を伸ばし、引出を開けて取り出したのは魔核の欠片。
淡い光を放つ金色のそれを握りしめて、大丈夫だと心を落ち着かせる。
想い人を連想させるその色は、正しくその人からの贈り物としてユーリの心の支えになっている。
こんな夜遅く、誰もが寝静まった時刻に突然起きる発作の時。
人を呼べないほど呼吸が困難になってしまった時。
滲む視界の中、握りしめる手に食い込んでくる時。
贈られたその日から、ユーリにとって大事なかけがえのない、宝物の一つ。
「………―ッ」
噛み締めれば脳に鋭い痛みが走るから、なるべく体の力を抜いて深呼吸を繰り返す。
しかし、吸った息が肺に入る前に吐き出されてしまうほどに、息苦しさが涙を誘う。
普段ならば、少しすれば収まる発作だ。
これくらい自分で対処できなくてはという自戒の念が強い事もあって、ユーリは極力助けを呼ばないようにしている。
アレクセイにもフレンにも、最悪の事があってから遅いのだといつも怒られるけれど、ユーリはその姿勢を曲げようとはしない。
「……う、く……」
横になった体を折り曲げて、掌の魔核を額に当てる。
早く収まれ、早く収まれと念じながら。
―苦しい、と心の中で呟いた
「ユーリッ…!」
部屋に飛び込んできた姿に、手に持つそれと同じ色を見た気がして、ユーリは顔を上げる。
惑うような気配はなく、すぐに駆け寄ってきた人影はユーリの手を取って身体を仰向けにする。
開けた視界と目尻を零れた涙が滲んだ視界に焦点を戻して、目の前に立つのが想い人であると気付く。
「フ…レ…」
名を呼ぼうと思ったけれど、掠れた音は大した声量にはならなかった。
フレンの優しい手つきが体の緊張をほぐしてくれる気がして、不思議だなと思った。
「ユーリ、息が苦しい?どこか痛むか?」
前半の質問には肯定を、後半の質問には首を横に振ることで答える。
フレンはてきぱきと治癒術を唱え始め、胸元に充てられた手からじんわりと暖かな波動が広がって、一気に呼吸が楽になった。
―ああ、また一人ではどうにもできなかった。
「大丈夫?」
そんなユーリの思いも知らず、フレンは心配そうな顔を隠すことなく訪ねて。
ああ大丈夫だ、と言えば、良かったと心底ほっとした表情で返すのだ。
ありがとう、と心の中で伝えて、悪い、と言葉で謝る。
「寝てたんだろ?」
「君のためだったら、いつだって飛んでくるって言っただろ?」
「おせっかいだな、ほんとに」
「君も、もうちょっと僕を頼りなよ」
その魔核じゃなくて、と眉間に皺を寄せながら不貞腐れるものだから、面白くてユーリは思わず笑った。
「これに嫉妬してどーすんだよ」
「君の一番傍にいるのは、僕で在りたいからね」
「今でも、十分」
「君が嫌な事はなるべくしたくないけど、別に嫌じゃないだろ?」
「……嫌だって言ったら?」
ユーリの意地悪な問いかけに、フレンは、とてもとてもきれいに笑った。
「それが本心じゃないと知ってるからね」
愛してるよユーリ、と。
頬に寄せられた唇に、目を閉じた。