それでも恋する他人同士

*なんだかフレユリ結婚式話
*2人が結婚するわけではありません
*しかもフレンは最後まで出てきません(汗)
*オリキャラも登場します





ギルドの仕事は年中無休。
休みなんてあって無い様なもので、仕事がなければ休みかと思えば突然の依頼にも対応しなければならないため首領は皆の居場所を把握していなければならないし、かの最大人数を誇る『天を射る矢』のような巨大ギルドの、100分の1にすら及ばない人数で活動を続ける『凛々の明星』はその機敏さと移動範囲の広さからほとんど休みなんて考えられないような生活をしていた。
頻繁に寄せられる依頼の中でも、魔物退治などの戦闘類は主にユーリとジュディスの管轄。バウルでの送り迎えもジュディスがいなければできない。リタは帝国直属の魔導士の称号を棄てたとはいえ、エステルに会いに行くために以前には考えられないフットワークの軽さで帝都に赴き、新型魔導器開発にいそしむ毎日。
首領は戦闘面で活躍しつつもその知識を活かした人探しや物探しに精を入れて、治癒術の使えない今、薬草などの勉強もしているようだ。
頭があがらないな、と言えばいつものように照れながらも調子に乗った受け答えにリタが冷たい言葉を浴びせてみたり。
休みがないとは言え、切羽詰ってはいない心の余裕がある。それがとても心地良く、以前の自分では到底考えられなかった仲間という存在が、自分の中で大きくなるのを感じていた。

そんな中、届いたのは一通の招待状。


「ユーリ、お手紙届いてるよ!」

まるで童話に出てくるような郵便配達人がぴったりのカロルの声に振り向いて、ユーリはそれを受け取った。
白い封筒、薔薇を模した封印。表面に『ユーリ・ローウェル様』と書かれているだけで、差出人らしき名前は記されていない。
普通に考えたら依頼の手紙だが、どうもそれとは装いが異なっていた。
依頼には、ここまで上等な紙を使わない。それにもしギルドへの依頼ならば『凛々の明星』宛てになるであろうし、ユーリ個人に宛てたならこんな上品な書き方をする必要はない。
そもそも差出人不明の手紙はどんな仕掛けが施されているか分からないため、無闇に封を切ったりはしない。念のためリタに仕掛けの有無を尋ねてみたが、そんな様子もないようだ。
ユーリは封を切り、中に入っていた一枚のカードを広げた。

「拝啓、ユーリ・ローウェル様……」

――この度、私フラン・ルイズの結婚式にご招待いたしたく、お手紙を差し上げました。

「結婚式?」
「ユーリ、知り合いなの?」
「フラン…フラン、ねぇ」

思い当たるのは、まだ下町に住んでいた頃、近所の3歳年上だった少女の面影。
溌剌とした少女で、確か近辺の少年少女を集めて蹴り玉や鬼ごっこなどの遊びをしていた。
もちろんユーリとフレンも一緒に遊んで、女性とは思えない足の速さによく負けて、悔しくて再戦を申し込んだり自分が勝てる遊びを要求したり。
ああ、考えてきただけで恥ずかしくなってきた。幼いって無邪気だけど恥ずかしい。

「確か、下町で近所に住んでた奴だ」
「へぇ、やっぱりユーリって下町の人気者なんだね」
「ただ単に覚えてただけでしょ」

感心するカロルに冷めた意見を告げたリタは、もう手紙への興味は薄れたのか手に持っていた本に視線を戻す。

「お前、女ならもうちょっと結婚とかにときめかねぇの?」
「私には関係ないし。結婚とか興味もないわ」

普段から明言するとおり、魔導器の開発と研究に全てを捧げるリタにとって結婚など二の次どころか思案の範疇外。
そうばっさりと切り捨てれば、なんだか夢を壊されたと口を尖らせるカロル。そんな彼も、結婚と言えば思い浮かぶのは想いを寄せる少女であり、脳内にその姿を浮かべるだけで一人であたふたしているのだ。
ジュディスも結婚に興味がありそうでいて、ある意味一番その可能性が高いのではと思うが、本人がどう思っているかは定かではない。
カードを興味深そうに覗いているその視線が最後の一文に辿り着くと、あら、と少し驚いたようにそこを指した。

「どうも、悩み事もあるみたいだわ」
「へ?」
「ほら、ここ」

ジュディスの細い指が指し示す箇所。視線をやれば、追伸、と書かれた欄にその一文は悩ましげな雰囲気を醸し出していた。

――追伸:この結婚に関して、少し困ったことがあります。相談にのってはいただけないでしょうか?

顔を見合わせた一同は、リタは除いてだが、小さく頷いた。



* * *



ザーフィアス城下町、市民街の一角が、フラン・ルイズの住所のようだ。
結婚はまだのようだが、どうやら既に相手方の家に住んでいるらしい。
屋敷の大きさは、それほど豪華というわけではないが、庭もそこそこ広くて何より手入れが行き届いている清潔感が良い。
貴族ではないようで、突然現れたユーリ達に嫌そうな視線一つ寄越さず淡々と取次ぎをこなした執事の人柄も好印象。
一般人の、未だギルドに対する印象の低さを考えれば、驚愕に値する程には柔軟な思考の持ち主が、この屋敷の主のようだ。

「…ユーリ!」

玄関に通され、響いた声に上を向けば、颯爽と纏った服を捌いて階段を降りてくる栗色の髪の女性。
美しく整えられた髪の毛も、濃くない化粧も、幼い記憶とは似つかなくてユーリは目を見張る。
十年近く会っていないのだから容姿が変わるのは当たり前だが、どちらかと言えば幼い頃から面立ちに変化がないユーリにしてみると、フランは別人のようだ。
伸ばされた両手がユーリの手を取り、ぎゅっと握りしめられる。

「久しぶりだわ。本当に来てくれるなんて」
「おう。正直、忘れてた」
「ユーリ、女性に対してそれは失礼だわ」

ジュディスに咎められ、バツの悪そうな顔をするユーリにくすくすと笑う。
紹介する、と言ってギルドの面々をフランに紹介すると、フランも背筋をピンと伸ばしたまま軽くお辞儀を返した。

「今日は、本当にありがとうございます。せめてユーリだけでも話を、と思っていたのに、皆様にも来て頂けるなんて」
「この依頼は、ギルド『凛々の明星』が請け負うよ。…あ、でももしユーリにだけってことだったら、もちろんそれで構わないけれど」
「ありがとう。実は、ユーリにだけお願いする予定だったから、申し訳ないけれど、まずユーリにだけ話をさせてもらえないかしら?」
「わかった。じゃあ、僕達は外で待ってるから、必要があったら呼んでね、ユーリ」

せっかくだからお茶でも、との執事の言葉に、じゃあと返している仲間の背中を見つめ、ユーリは眩しそうに目を細めた。
扉のがパタリと閉まり、その場にはユーリとフランの二人だけになる。

「…良い仲間ね、ユーリ」
「ん?」
「昔は、フレンだけで良いって言ってたのに」

随分印象が変わったわ、とフランは微笑んだ。とても優しい、包み込むような眼差しだった。

「俺、そんなこと言ってたっけか?」
「よく覚えてる。皆と一緒に遊んでいても、あなたはいつもフレンしか見ていなかった」

それは、尊敬や嫉妬の織り交ぜられた、色々な感情だった。
3歳年上で、少しだけ視野の広かったフランは、ユーリがフレンに向ける直接的な感情を間近で見て感じていた。フレンは意外に泣き虫で、よくフレンとフランの名前が似ていることを揶揄して「フランとフレンって名前つけ間違えたんじゃないのか」と笑って、フレンを励ましていた。
フレンの隣には、いつもユーリがいる。それが、おそらく下町の全員の共通意識だろう。離れてしまっても、それは変わらない。
だからこそ、ユーリに将来、心を許せる友達ができればいいと思っていた。
フレンだけじゃない、ユーリの世界を広げてくれる、友達が。

「そう言えば、フレンには招待状送ったのか?」
「流石に騎士団長にはね…と言いたいところだけど、送ったわ」
「……さすが」

背も高く綺麗になったとはいえ、性格の根本はどうやら揺るぎなく健在のようだと、ユーリは呆れ半分賞賛半分の眼差しを送った。
今や知らない者はいないと言える騎士団長にまで招待状を送るとは。来るか来ないか分からない、むしろ来ない可能性の方が高いのではないかと思うが。

「来てもらわなくてもいいわ。ただ、知ってもらいたかっただけ」

自分は幸せになって、これから更に幸せになるのだと。
フランはそう言って、嬉しそうに笑った。
幼少の闊達さや純粋さを想起させる笑みに、ユーリは懐かしさを覚える。
それと同時に、結婚とはそんなに幸せを感じるものなのだと驚きを覚えた。
あまり実感が沸かないと言うか、そういった恋愛対象で女性を見たことがないユーリは、どうもその手の感情は得手としていない。
むず痒いような感覚を覚えるのも事実だし、何より結婚という概念の持つ相手を縛るような印象が嫌で。

ユーリは、別に結婚をしたいとかしたくないとか、願望をもったことはない。
それはある意味時の流れが決めるものであるし、自分には「しなければいけない」という枷もないから、自由で良いと思っている。
でもフレンは、きっと。騎士団長として、将来誰かと結婚することになるだろう。
貴族の娘か、そうでなくても、身分の高い女性か。堅物だから結婚は義務だとか考えて、自分の意志よりも対外的なものを優先するだろう。
皇帝とは違い血を残す必要はないから、案外フレンとエステルとかの方が色々穏便にすんで良い気もする。
そうしたら、いつだってフレンに会いにけるのに変わりはないだろうし。
(…何でフレンに会うのが前提になってるんだよ、俺)
はあ、と自分自身に突っ込んで溜息をつくと、どうやら聞こえていたらしい。
含みのある笑顔でフランはユーリを見つめていて、その視線がいやに探りを入れるような鋭いものを含んでいて、思わず後ずさる。

「フレンの事、考えてたでしょ?」
「…別に」
「隠しても、バレバレよ」

分かりやすいんだから、と言われ、ユーリはがしがしと頭を掻く。
なんだか居た堪れないような空気を変えようと、そう言えば、相談があると言うから来たのではなかっただろうかと思い至る。

「相談って、なんだよ」
「ああ、あれね。相談っていうとおおげさなのだけど」

フランはふぅと物憂げな芝居のかかった仕草を見せる。

「警護をお願いしたいだけなの。式の最中、私と新郎の」
「警護?なんでまた」
「ここのおうち、当主のお父様も私の旦那もすごく良い人なのだけれど、周りがうるさくて」

つまりは、下町出身の女性と婚姻を結ぶなど野蛮だと騒ぐ輩がいる、のだという。
相変わらずそのあたりは昔から根付いた偏見のようなものがこびりついていて。新しい考えや柔軟な思考を持つ若者が増えている中で、形式やかつての慣習と偏見にとらわれる古い人たちも多い。くだらない、と一蹴してみても、そこはどうしても越えられない壁。

「大丈夫だとは思うけれど、前にも一度いやがらせをされたから」
「そっか。たいへんだな」
「そうね。確かに大変かもしれないし、これからもきっと。でもね」

フランはくるりとユーリの正面に立つと、とてもとても幸福に満ちた表情で目尻を下げた。

「私は、あの人に出会えたから、それが一番の幸せだと思ってるの」

その言葉は、なぜかユーリの心に重く響いた。



* * *



式は滞りなく行われ、心配されていた妨害も紀憂に終わった。
花嫁衣装のフランは、その表情と相まってユーリが見てきた中で一番綺麗だった。
可愛いだけでも、美しいだけでも、ない。本当に、世界中の人間に祝福されているのではないかと思うほど幸せそうで、綺麗だった。
新郎も、フランに向ける眼差しが優しさと愛おしさに満ちていながらも、彼女を抱く腕は自信と、これからを支えるために決意した男のもので。
二人は、巡り合い愛し合って、結ばれたのだ。

カロルは二人に誰を重ねているのか顔を赤くしていたし、興味がないと言っていたリタは釘付けだ。此処にエステルがいたら、二人して大騒ぎだったかもしれない。ジュディスは相変わらずの笑みを浮かべていたけれど、眼差しは祝福に満ちていた。ジュディスだって一人の女性なのだから、憧れがないとは思えない。

祝いの列に参加することなく、少し遠巻きに人の集まるのを見ていたユーリは、一瞬だけ仰いだ空の青さに目を閉じた。
瞼の裏に焼きつくのは、空の青さと澄んだ蒼瞳。
いつもその二つは重なって、どちらを見ても両者を思い出すくらい、ユーリの中で結びつけられている。

「ああ…綺麗だ」
「そうだね。とても綺麗だ」

呟きになぜか言葉が返ってきて、受け流しそうになってしまう自分を引き留めて声の主を探す。
ぎゅっと首を横に向ければ、金髪は隠すことなく晒され、なぜか眼鏡と普段着のような服。
まごうことなく、帝国騎士団長フレン・シーフォだった。

「はっ!?ちょ、お前なんで……」
「しーっ。せっかく誰にも気づかれないように来たんだ。静かにして」

いや、金髪隠してない時点でばれているだろうと思わないでもなかったが、あえて突っ込まないことにした。フレンの感覚が少しだけずれているのはいつもの事だ。
そんな失礼なことを考えつつも、此処で騒いで式を台無しにするわけにはいかないと冷静な思考が判断して、黙る。
フレンの存在に気付いている者はどうやら居ないらしく、式は最後のブーケ投げまで進んでいるようだ。
わいわいと女性陣が群がる。どうやら中にリタとジュディスはいないようだ。

「…いいね、二人とも。すごく幸せそう」
「ああ」
「あんな風に好きな人と結婚できるって、幸福なことだと思う。良かった、フランがそれを手にできて」

言外に、僕はどうなるだろう、と微かな不安を読み取って、ユーリは眉を寄せる。
そんなくだらないことを考えていては、せっかくの式が台無しだろうとわしゃわしゃとフレンの前髪を撫でた。
やめてくれと視線で訴えられるのを無視して、ユーリはぽんぽんと額を叩く。

「お前は、お前が幸せだと思う道を進めばいいんだ。最初から決まってることなんてないだろ?」

それこそ、下町出身の女性が貴族に近い男性と結婚するなんて、今までありえなかった。
お金がすべてとは言わない。フランは、その人柄と存在を、彼等に好かれて手に入れることができた幸福なのだから。
そして、祝福してくれる人がいる。新たな門出を迎えるにあたって、これほどの僥倖があるだろうか。

フレンはきょとんとしてユーリの言っている意味を図りかねているようだけれど、構わず微笑む。


澄みわたる鐘の音色が、青空に響いた。





(結婚ってあながちめんどくさいだけじゃないんだな)
*****
フレユリ結婚式開催に乗じて、結婚をテーマに書いてみました。
間に合わせる予定はこれっぽっちもなくて、どちらかというと結婚式に行ってインスピレーションを受けて書いた話です。
フレユリ要素とか…皆無に等しいけどね…
甘くはないけれど、他人の結婚式を見てどう思うんだろうなーって。
オリキャラが結局出張ったけど、フレンとの過去を語る上で、テッドとかじいさんを除くとだいたいがオリキャラっていう ね!