プレリュードで踊りましょう
*ED後、ユーリ・ジュディス・レイヴン・フレン
*「黒衣の断罪者」から派生した妄想話
**流血表現注意
ぱたり、と黒衣が地に着いた。
右足側に垂れた服が血を含んで、足に絡みつく。
それに多少の動き辛さを感じながら、5歩ほど正面で蹲る人影を見下した。
冷え切った空気は、気温だけではない。
其処等中に固まってこびりついた赤が、本来の温もりを取り戻すことができないほど冷え切って、この場を包み込んでいる。
気持悪い、と思う感情さえ消えてしまうほどに、充満した鉄の匂い。
「…派手にやっちゃって」
「あまり感心しないわね」
レイヴンとジュディスは、彼の姿にため息をついて声をかけた。
黒衣でははっきりとしないが、剣を握る左手には幾筋もの裂傷。所々切り裂かれた服と、不揃いな髪。
右手にはめられたグローブからは、断続的に雫が零れ落ちている。
ゆっくりと二人の方に顔を向けたが、ユーリはそのまま立ち去ろうと踵を返した。
「一緒に帰ろうと思ったのだけど」
「遠慮しとく」
ジュディスの誘う声にも短く返し、今度こそユーリは夜の闇に身を溶け込ませた。
その残像に向けるのは、悲しみ、諦め、惨めさ。
己の道に進むが故に、抜け出せない暗闇に足を突っ込んで、もう足掻くことすらやめてしまったのか。
レイヴンは動かない表情のままそんなことを考える。
頼られていない。頼る必要すら感じていない。
あの服を纏ってしまったユーリは…まるで感情が欠落してしまったかのように、自分を「その道」へと囲い込んで、暗いどこかへ行ってしまうようだ。
「…おじさま、もう行きましょう」
ジュディスの声に我に帰る。どうやら、死体の山に酔ってしまったようだ。そんな繊細な心だとは思わないが、これを築いたのが自分の信頼する仲間の一人だと思うと、寒気も吐き気も襲ってきそうだ。
そうだな、と頷いてジュディスの背に続いた。
――日が昇った後に、どうかここに誰も来ませんように、と願いながら。
夜が明けたと同時に、覚醒した。
酷い頭痛が眩暈を伴って視界を湾曲させる。
くそ、と低く呻いて、ユーリは再びベットに逆戻りした。
血のついていた服も髪も、どうやら昨日のうちに綺麗にしたようだ。あまり記憶がないので、無意識のうちにやっていたのだろう。首に巻いて口元を隠しているマフラーは、ご丁寧にも干してあった。
湿った匂いの中に、つんとくる錆の匂いが混ざっていて。昨日の光景を思い出して、深く重い息を、肺が空っぽになるまで吐く。
黒衣を脱ぐと、正気に戻る。否、正気に戻るのではなく、狂気から解放される。
狂気でもないかもしれない。人を斬らなくていけない衝動は、間違いなく自分の信念から来る筈のものであるのに、黒衣を纏って剣を握ったとき、自分でも気持ち悪くなるほどの冷静さと人を斬る感触を忘れていた。
昨日のアレも、評議会の人間が雇ったならず者の集まりだった。
下町を襲わせて、騎士団の監視不行届を議題にあげて予算の成立を遅らせるつもりだったらしい。
そんなくだらないことで、足を引っ張って。何より、下町を襲うなど許せるはずもない。
――気が付けば、身体は動いていた。
「…気持悪ぃ…」
胸を押さえて、吐き気をやり過ごす。
身体を丸めれば、少しだけ落ち着いた気がして。
そのまま、深い昏い眠りに、身を任せた。
ノックすることなく、フレンは静かに扉を開けた。
一人分の部屋には必要最低限のものすらないのではないかと思うほど物がなく、小さなテーブルに、ベット、洗面所、キッチン…普段ここに住んでいない彼の事を思えばそれは当たり前なのだが。
フレンは、鼻につく嫌な匂いに、驚くことはしないが不安が湧きあがり、ベットで静かに寝息を立てるユーリの元に走り寄った。
どうやら、部屋に残る匂いのもとは、ユーリではなく、洗った後なのか適当に広げられた黒衣らしい。
シーツをきつく握りしめて身体を丸めて眠るユーリは、寝ていると言うのに全身を緊張させていて、それなのにフレンの気配に目を覚まさない。
それほどまでに自分に余裕がないのか…と呟いて、フレンは膝をつくと、顔に張り付いている彼の髪を指で梳く。起こさないように、気配まで消して。
ふと視線を横にずらすと、見慣れない剣と、赤いマフラーが淡い太陽の光にあたっていた。
剣は、おそらくユーリが新調したものだろう。普段使うものと、「こういった状況」で使い分けるための。
マフラーは…先ほど見た、黒衣と併せて着るものだということを、知っている。
ユーリがそれを着たところを実際に見たことはない。だが、何度かレイヴンに聞いたことがある。
『知っておいた方がいい』と、硬い口調で切り出して、『黒衣の断罪者のことを』。
黒衣の断罪者、となぞるようにフレンは口を動かした。
ユーリが、陰で何をやっているのか。ユーリの口から直接聞くことはない。問いただすことは、まだしていない。
問い詰めても、返ってくる答えに予想がついてしまうから。
もどかしさに、何度、壁に殴りつけた拳から血を流したか分からない。
黒衣なんて、断罪者なんて、そんな称号、彼には似合わないのに。その称号を背負ってしまうのは、自分の背を任せているからだという自責がフレンには在った。
「ユー、リ」
微かな息に乗せて紡いだ名前は、自分でも聞き取れるか分からないほどのもの。
シーツを握る手にそっと自分の手を被せ、包む。
「すまない…」
止められない情けない自分。
その行為に助けられている自分。
…こうして、ユーリの意識がない所でしか、謝罪と感謝ができない自分。
(愛してる、ユーリ。本当はもうこんなこと、してほしくないのに)
*****
黒衣の断罪者っていう称号にキュンキュンした結果、出来上がった作品。
前に書いたレイヴン+ユーリとは、全く別の話です。
最初に出てきた二人は、ギルドの中で、ユーリが「断罪者」であると知っていて、それでも自分たちは仲間だよっていうことを言いたくて、でも伝わらなくてもどかしい、そんな感じです。
フレンは言わずもがな、自分のせいだと思ってるけど、それに助かっている部分を少しでも感じてしまって、ユーリを責めるに責められなくて、というもどかしさ。
どっかにこういう部分を持ってるだろうなって思って。特に、大人組は。
ユーリの行動の意味もわかってしまうから止められないけど、本当は止めなくちゃいけない。その挟間。
新年から暗い話ばっかり書いてる気がする。
も、もっと明るい話を…!