青空が消えた日
*ユーリ幼少捏造
*「昔話をしよう」の続き、または補足。短かめ。
*幼少語り、という感じです。明星メンバーが居ます。
ざあざあと雨が降る。
いつでも綺麗な青空を纏ったあいつは、その日、俺の前から消えたんだ――
きっかけは、なんだっただろうか。
窓際に腰掛け、ユーリはふと思案した。
部屋の中では、話に花を咲かせるギルドのメンバーたち。ちょっとした依頼を片づけてすぐにダングレストに帰る筈だったのだが、突然の大雨に足止めを食らっている状況なのだ。
ユーリはメンバーからは外れ、一人外を眺めつつ、半眼になる。
ジュディスの「ユーリが泣く所なんて想像できないわ」という台詞か。その前にリタが、「あんたって泣かないわよね」とか言っていたかもしれない。流れを作ったのは、カロルの「僕、玉ねぎ切ると涙が出てくるんだよね」だろう。いや、もっと遡れば、レイヴンの「今日の料理は何にしようかしら」が原因だろう。
それならば、この理不尽というか人を肴に盛り上がる談笑の大元はレイヴンだ。おっさんなら遠慮なく殴れるな、とユーリは決心する。殴ってこの話を止めさせる。
すると、7、8歳くらいの2人組が、土砂降りの道路を駆けていく姿が目に留まった。
どちらも男の子だろうか?雨のせいで詳しくは分からないが、どうやら一方がもう一方を追いかけているようだ。
転ばないといいけど、と思いつつ、ユーリはその2人から目を逸らせずにいた。
懐古の情、と言えばこの感情は正しいだろうか。
容姿も違う、もしかしたら性別も違うかもしれない2人は、不覚ながらも幼いころの自分とフレンを思い出させた。おそらく、背後で「ユーリは昔から泣きそうにないよ」とか言っているカロルたちの会話が聞こえているせいもあるだろう。
ユーリはそっと瞼を閉じ、幼い頃の自分を思い描く。
「ユーリはよく泣くよね」、とフレンに言われたのを、よく覚えてる。
それにカチンときて、「もう泣かない!」と対抗心を燃やしたのも。
フレンは、子供の頃はあまり泣かなかった。今思うと、それほど感情豊か、というわけでもなかったと思う。
それはユーリも同じことで、むしろ親という愛情を知っていたフレンの方が、ユーリよりも内に秘めていた感情が多かったのかもしれないが。
ユーリは、ある意味「他人」にばかり囲まれて生きてきた。もちろん、親代わりに面倒を見てくれた下町の人々に感謝を忘れたことはないが、愛情と少し違うのではと思い続けてきた。
本当の「愛情」がどういうものなのか、自分にはわからない。
――それらしきものを注いでくれた偉大な人は、もうこの世に居ないから、確かめることもできない。
だから、「泣く」という行為は、ユーリにとって自衛本能の大部分を占めていたのだ。幼い頃は。
怖いもの、気持悪いもの、嫌いなもの、すべて、泣けば誰かが解決してくれると勘違いしていた。
(それを真顔で、しかも不思議そうに、「ユーリって何で泣くの?」なんて聞いてきやがったんだ、あいつは)
その時の事を思い出し、苦々しく舌打ちする。
雨はまだ止まない。
雨の中追いかけっこをしていて、転んだ拍子に泣き出したユーリを、急いで宿屋に運んだフレンは、そう尋ねたんだった。
痛くて泣いてる奴に、泣いてる理由を聞く。
それに驚いて、ユーリは泣くのを止めてポカンとフレンを見つめた。
痛かったら泣く、それはユーリにとって常識だったから、フレンの言葉が不思議だった。
ぴたりと泣きやんだユーリを見てフレンは何を思ったのだろうか。自分に知る余地はないが、「男の子なんだから、泣いちゃダメだよ」とフレンが続けて、それにも驚いたのだ。
自分の中の常識を、覆してきたから。
それを契機に、ユーリが泣きそうになると、フレンは「何で泣くの?」とか「よく泣くよね」と直接言うようになった。嫌味でも何でもない、ただの純粋な疑問。
今度は逆に反発したくなってきたのは、おそらくユーリの性格からだろう。
言われるたびに、泣かない、と思い込むようになり、怪我をしても転んでも泣かないようになった。
そんな自分が涙を忘れたようになったのは、確か、フレンがいなくなった日。
いや、正確に言えば、フレンと一緒に飼っていた猫が死んだ日。
雨が降っていたから、そればかりが視界を覆って、空気の汚れた下町を駆けてフレンの家に走ったのをよく覚えている。
死んでしまって、悲しくて、泣きながら、フレンに言おうと思ったんだ。
それなのに、フレンは何故か家にいなくて。
…それから、泣かなくなった。泣いたら、大事な人も居なくなってしまうのだという、思考が溢れたから。
(今思うと極端だよな、昔の俺…)
恥ずかしいことこの上ない過去である。まぁ、それから「死」や「喪」に対して感情があまり動かなくなったのは事実だが。
この話は、誰にもしていない。一生蓋をして墓まで持っていく予定だ。
これを聞く人は居ないだろうし、ましてやフレンの耳にでも入ったら、何をどう勘違いするか分かったものではない。そういう面に関して、想像の斜め上へ思考を広げる男なのだ、フレンというやつは。
とりあえず、話の矛先が自分に向く前におっさんを殴っておくか、とユーリは離れて仲間の元へ。
2人の子供の姿は、もう見えなかった。
*****
ユーリ、泣かなくなった日を回想。
いやぁ楽しかった。こういう独白みたいなのを書くのが好きです。
このあたりは、墓まで持っていくつもりだったのに、いつの間にかフレンに悟られていると尚美味しい。
短めですが、あんまり長くするつもりもなかったので、これにて。