烏が道化の仮面を被る
*レイヴンとユーリでED後
*殺伐。捏造設定あり。
*おっさんが別人と化している危険が
結界の消えた帝都の城壁。
背には巨大なザーフィアス城がそびえ立ち、眼前には魔物が徘徊する森が広がる。
夜の闇に潜むように、濃い紫の羽織が音も無く降り立った。
「…で、おにーさんはどうしてこんな所でたそがれちゃってるのかしら?」
声を出さなければ、おそらく普通の人間には気付かれなかっただろう。
その証拠に、気配そのものはまだ消えたままだ。声だけが響く。
だがそれは、共に旅をした上にお互いの気配まで知り尽くした『凛々の明星』の面々にはあまり意味はないだろう。
(もしかしたら、首領は気付かないかもしれないな)
気配を読むことに長けていない最年少は、まだまだこれからだ。
そんな取り留めのないことを思いながら、夜の闇にぼんやりと浮かぶ人影に顔を向けた。
座った自分の位置からは見上げる必要がある、少しばかり猫背なその体躯。
「……たそがれるって時間じゃねーな」
一見無防備で隙だらけに見える人物は、気配を消すのをやめたようだ。
顎に手を当て、闇の中でもはっきりと認識できる眠たげな笑みは、相変わらず胡散臭い。
「おっさんこそどうしたんだよ、こんな時間に」
それは両者に言える疑問だったが、あえて切り出した。
おそらく、いつもの9割は信じられない口調と内容を返してくるのだろう。
そう思って適当にあしらおうと考えていると。
「―昨日、反帝国派の大規模集会があった」
予想外に重みのある内容がその場に沈黙を落とす。
何も言わない。発さない。続きを促すサインだ。
「ちょっくら潜入してみたけどね。…物騒なこと、この上ないわよ」
驚きはしない。情報自体は、掴んでいたから。
黒髪が、森にす込まれるような風を受けて視界を覆う。
少し伸びた前髪をかきあげ、ユーリは睨みつけるようにどこかを見つめていた。
ギルド『凛々の明星』は、帝国と深く関わりを持つギルドである。
そのメンバーに、次期皇帝候補であったエステリーゼが加わっていたこともあるが、何より皇帝と騎士団との個人的な関係が両者を繋いでいた。
良く言えば、ギルドと帝国の橋渡し。
悪く言えば、どっちつかずのならず者。
前者は、市民やギルドの多く、そして皇帝自身が認め頼りにしている部分である。未来を象徴する、などと呼ばれることもあるし、それを苦に思うことはない。
だが問題は、後者。ギルドとしての信念を、ある意味「正しく」受け継いだギルド…すなわち、帝国の抱く矛盾と規律に縛られることを望まなかったかつてのギルドの中でも、特にその傾向が強かった者たち。彼らにしてみれば、帝国は騎士団長が倒れたり騎士団が崩壊したというだけで、貴族の圧政は変わることもなく最悪なことに忌むべき皇帝が誕生してしまったのだ。これに対して嫌悪感を抱いても、仕方がないと言えるかもしれない。
ただ、その被害は『凛々の明星』の面々にも少なからず向けられていた。
ギルドと帝国の融和などという絵空事の象徴とされる小さなギルド。結局は以前と何も体制が変わらないにも関わらず、奴らのせいで魔導器まで失われてしまった……それは、一般市民にはまだ広まっていない、しかし確かにある黒い染みだった。
「決行は十日後。数自体は少ないけど、それでもプロの戦闘集団よ。今の騎士団じゃ、ちょーっと厳しいでしょうね」
「なるほどね。それ、フレンには言ったのかよ?」
「もちろんよ――って言いたいところだけど、実はまだなのよね」
レイヴンはおどけた様に肩を上下させて、静かにユーリから少し離れた所に腰を落ちつけた。
月が、その横顔を照らす。
「正直、本当に今の騎士団に片づけられるとは思えないわ。だったら」
「だったら、やるべきことは一つ」
ユーリはレイヴンを遮り、長刀の鞘を握り直す。
横目でちらりとレイヴンを見て、口の端を少しだけ持ち上げた。
その表情に、瞳に、暗く重く冷たい空気が身体を貫くをの感じながら、レイヴンは「ちょっと待ちなさいよ」と困ったように苦笑いをした。
「あんさん、一人で行くつもり?」
「『俺の』仕事だろ、こういうのは」
闇にまぎれて人を斬ること。それは自分の道の中にある一つの選択肢で、それを選ぶことに抵抗はない。
フレンやエステルを狙っているのなら尚更だ。自分の持つ剣が何のためにあるのか、ユーリは分かっている。
だがレイヴンは、ユーリの内心を知ってか知らずか、漂漂とした笑みを浮かべた。呆れたように。
「そりゃ流石に、色々と問題でしょ。暗殺は、誰がやったかばれないようにやるもんよ」
「…それを助言として受け取っていいかは別だな」
「あらつれない。まあいいけどね。ちょっと待ってなさいって」
レイヴンは立ち上がり、森の奥、その向こう…ダングレストがあるであろう方向をちらりと見て、ユーリに向き直った。
「情報収集と工作は、プロに任せるもんよ」
「…おっさん」
やめろとは言わないんだな、とユーリは少しばかり驚いたようにレイヴンを見た。
「ユーリなら後れを取る心配なんてしないけど、流石に終わった後に死体が転がってました、じゃねぇ」
「……」
「ま、せめてあと2日は我慢しなさいな。いろいろやっといてあげるから」
その『いろいろ』には何が含まれるのか――すべてを察することはできなかったが、ユーリは一つだけ頷く。
「じゃ、帰るわね。また来るから」と言葉少なに去ろうとするレイヴンの背に、ユーリは、
「おっさん」
「ん、何?」
「…レイヴンって名前、おっさんほど似合うやつはいないぜ」
「あら光栄」
「だけど、それがおっさんの本質じゃないってこと…忘れんなよ」
レイヴンは、その言葉には何も返さなかった。
ユーリを一瞥したかと思うと、すぐさまひらりと踵を返す。
足音も立たない歩き方で気配を消すと、ユーリの視界からあっという間に消え去った。
「レイヴン、か…」
ユーリは呟く。闇はまだ色濃く、しかし月の光が眩しく世界を照らしている。
目を細め、ユーリも城壁から飛び降りた。
「本当の烏《レイヴン》は、どっちなんだろうな…」
言葉はただ漏れただけ。闇にまぎれ、消えて行った。
*****
レイヴンとユーリの関係は、これくらい殺伐としてても良いんじゃないかと思う。
飄々とした二人の化かし合いみたいな会話も良いんですが、ちょっと黒い部分というか、暗い部分を共有している二人というのも好きです。
レイヴンなりのユーリへの配慮と、ユーリなりのレイヴンに対する想い。色々と裏を見てきたレイヴンだからこそ動ける部分と、裏で動こうと思っても実はあんまり裏になりきれていないユーリ。だったらまさしく「裏」で動いてもらうために場を整えることができるのは、レイヴンだけ。
本編の二人がこんな黒いこと思ってるかどうかは分りませんが、私としてはそれくらいドロドロした部分を担わせてもそれはそれで面白いんじゃないかと(お前最低だな!)
リクエストありがとうございました!遅くなってしまいすみません。
なんかこれ書いてたらいっそのこと続きも書いてみたくなったので、もしかしたら書くかもしれません笑
でもそれは、フレユリ敵同士のネタとして置いておくかも…