支え合う腕
*リタ+ユーリでED後そんなに経っていない頃
*リタは、ギルド凛々の明星には加入していない設定です
薄暗い部屋の中。本に埋もれた床。殊更丁寧に飾ってある魔導器の数々。
今は動くことはないはずだが、相変わらず彼女の魔導器崇拝は変わっていないらしい。
リタらしさを作る部分だからこそ変わる必要は特にないが、今や魔導器に代わる新たな発明の最先端を手掛ける彼女の興味は、おそらく現段階では違うところに行っているに違いない。
ハルルの街外れ、花びらが変わらず美しく咲き誇っている片隅に、その家はあった。
いや、家ではなく、彼女流に言えば「研究室」か。
ラピードを連れ、ユーリは風に長い髪をなびかせながらその家の前に立つ。
呼び出し音らしきものはないため、一応ノックはしてみる。
返事がないのは分かっているため、前に一度ノックをせずに入ったら、同行していたエステルにこっ酷く叱られた記憶が蘇る。「女性の家に、ノックなしに入るなんていけません!!」と拳を振り上げて怒るため、さしものユーリも「分かったよ」と頷いてしまった。
そう言えば最初はノックどころか不法侵入だったな、とたった数年前の記憶を懐かしく思いながら、ユーリはもう一度ノックをしようと手を挙げた。
すると、
「はいはい、どちらさま――」
予想外に開いた扉は、当たり前だが中の住人が開けたわけで。
薄暗い部屋の中から這い出るように出てきた頭二つは低い小柄の少女が、ユーリを見て目を丸くする。
「よっ久し振り」
ノックのための手を挨拶の形に変え、ユーリは口の端に笑みを浮かべた。
「あー不覚。あんたって分かってたら開けなかったのに…」
「酷い言いようだなおい」
「ワンッ」
犬は外で待ってろ!というリタの怒号も虚しく、ラピードはユーリにくっついたまま離れない。
相変わらず飼い主にしか従順じゃない犬だ。
ぐるりと部屋を見渡して、ユーリは再びリタに視線を戻す。
ぶつぶつと独り言ならぬ恨み事が漂ってきて、ユーリは思わず一歩下がった。
「ったくこの前渡した魔導器代わりの剣だって壊して帰ってきたしその前だって…」
「…だから、悪かったって言ってるだろ」
「謝るくらいだったらもっと壊れない使い方しなさいよ。あんたの武器ひとつ作るのにどんだけ労力費やしてるか」
「あーはいはい悪かったよ。肝に銘じとくから。新しいの作ってくれたんだろ?」
「誠意が感じられないわ」
リタの口調からどうやら今回ばかりは手強いらしいことを悟ったユーリは、仕方ないとばかりにため息をついて居住まいを正す。
「…この前の剣は、ちょっと帝都近郊の魔物相手にてこずったんだよ。壊したのは、悪かった」
「…はぁ…ま、今度は気をつけてよね。簡単に作れるもんじゃないんだから」
はい、と手渡されたのは、どことなく以前持っていた剣に似ているようなシンプルな剣。
いや、刀というべきだろうか。研ぎ澄まされた刃先から鋭い刀身、長剣よりも短く、しかし軽くてユーリのような身軽な戦闘スタイルに合わせたように作られているようだ。
ユーリは、部屋に積まれた本を切らないように注意しながら、軽く素振りをする。
満足げに眺めている様子を横目に、リタは「相変わらず戦闘好きねぇ…」と心の中で呟く。
「マナを媒体とした術式を剣に組み込む構築式はまだできてないから、どっちかって言うと切れ味と耐性を優先してるわ」
「十分だよ。ありがとな」
満足そうに笑うと鞘に納め、ユーリはリタに封筒を差し出した。
「ん?何?」
「エステルからだよ」
簡潔に告げられた名前に反応し、リタは急いで封を切る。
食い入るように字面を追い、既に背後のユーリなんて目に入ってないようだ。
やれやれと肩をすくめると、ラピードと視線が合う。どうやら、彼も同じことを思ったらしい。
目当てのものは貰ったしもう帰るか、と踵を返そうとした瞬間。リタはかさりと手紙をたたみ、
「あんた、ザーフィアスまで行くの?」
「え、ああ、別に決まってねぇけど」
「じゃ、途中でジュディスとカロル拾って行くわよ」
「また唐突だな」
リタはひらひらと手紙をそよがせ、腰に手を当て、
「エステルが皆に会いたいらしいわ。ついでに帝都に設置したマナ変換器の様子も見てきたいし」
「へぇ。機械の様子見は『ついで』なんだな」
からかうようにユーリが言うと、リタは何を今更と言わんばかりにじと目でユーリを睨んだ。
むしろその反応が予想外だったユーリは驚く。
「当たり前でしょ。あたしだってエステルに会いたいのよ」
以前の彼女からは想像できないような台詞。
本当に、この少女は初めて会った頃と大違いだ。
ユーリはリタの視線が逸れたところで、彼らしからぬ柔らかい笑顔を浮かべる。
エステルにとってリタという存在は大きいだろうが、リタにとってのエステルはおそらくそれ以上だ。
「ほら行くわよ!」
「ここら辺のモン、このままでいいのか?」
「別に大丈夫よ。捕られるものなんて無いし、必要な情報は全部頭の中にあるから」
さすが天才少女。ユーリは苦笑すると、退出すべく扉をくぐった。
すると、目の前にずんとリタの腕が突き出される。思わず仰け反って「なんだよ」と苦情を言うが、リタはお構いなしにユーリの手に何かを乗せた。
「…なんだこれ」
「ご、護符よ。あんた、怪我ばっかしてるらしいじゃない。危なっかしくて聞いてらんないわ」
照れ混じりにぷいと背を向けられ、ユーリはまじまじと手の中のネックレスらしきものを眺める。
どうやら、彼女が作ってくれたものらしい、が。
「…忙しかったんじゃないのか?」
「心配させるあんたが悪いのよ」
「……さんきゅ」
「………ど…どういたしまして……」
ユーリは翡翠に輝くその護符を首にかけると、リタの肩をぽんと叩いた。
わざわざ作ってくれたそれは、おそらく本当にユーリの身を案じてくれたもの。
嬉しい。嬉しくないわけなんてない。
だが、殊勝な自分というのも似合わない気がするから。
「よし、早速効果を試してみっか」
「…また壊したら殴るわよ」
怖い怖い、とふざけ混じりに笑って、ユーリは歩き出した。
リタもそれに続く。
ザーフィアスまでの道のりは、前より遠いけれど。
一人だった頃とは違う温かさが、ユーリの心に根付いていた。
*****
何が書きたかったのかよくわからない話になりました(初っ端からそのコメントはないよ自分)
リタは仲間のことがとても大事で、その一番はエステルかもしれないけど、もちろんユーリだって大好きです。そんなこと口では言いませんが。
ユーリは本編ではみんなを引っ張っていき、途中で引っ張られ、最終的には導いていきました。
そんなユーリをある意味一番サポートできるのはリタで、ED後の世界では尚更。特に戦闘面。
どうしても子供と大人、という面が目立つ二人ですが、仲間=対等だと感じている二人のはずですから、そんな雰囲気を出したかったんじゃないかと思います。
結局ユーリもリタも照れて終わったような話になりましたが。
本編プレイしてないボロが出てるんじゃないかとひやひやしながら書きました…
あ、あくまで二次創作ってことで・・・楽しんでいただけたら嬉しいです。