昔話をしよう

*ED後でフレユリ前提ソディア→フレン
*ソディア嫌いな人は見ない方がいい…かも?



5年前、自分は信頼と盲信を履き違え、彼の隣には自分だけが居れば良いと思っていた。
隊長を補佐し、頼られるまでの存在になるために、日々鍛錬を積んだ。
実直で真面目な隊長は、貴族たちの標的になることも多々あったが、決して弱音を吐かないその姿勢に、
いつか自分が彼を支え隣に立つ存在になるのだと思っていた。
女である自分を侮らず、副隊長に命名された時は、歓喜で震えたのをよく覚えている。

それなのに、突然現れた男が、全てを粉々に砕いた。
隊長の表情を見れば、声を聞けば、分かった。隊長の隣は、既にあの男のものなのだと。
弱音を吐き、時に慰め時に叱咤する。互いを支え合っているのは、傍から見れば当然の事。
それが、悔しかったのだ。自分こそが彼を支えているのだと思っていたのに。
見も知らない男を、隊長が心配している。お互いが大切なのだと、雰囲気が伝わってくる。
それは、彼が自分に向ける感情ではなかった。
悔しい、悔しい……憎い。
隊長の隣は自分の場所だ。あの男は、隊長の隣に相応しくない。隊長のためにならない。
隊長は、いつか騎士団長になる方。その時自分が傍にいなくても、心は変わらない。
いつか隣に立ち、彼を支えるためならば、何をしたっていい。
そのためには…今隊長の隣にいるあの男が、邪魔なのだ。
あいつが居ては、隊長は迷ってしまう。道を間違えてしまう。そんなこと、許せない。
そうなる前に、自分があいつを―――!!

(ああ、私は愚かだった)

残ったのは、後悔ばかり。懺悔の気持ちばかり。
しかも、殺しかけた相手に、諭されて。
自分が情けなくて…仕方なかった。

それでも自分は、フレンの隣を譲れない。





「閣下は、ユーリ殿に甘いです」

そして5年後。隊長が騎士団長に就任してから、4年。
月日が経つのは早いもので、世界の変化に対応していくだけで精一杯の時間が過ぎた。
フレンは相変わらず眩しいまでの金髪、温厚な表情ながら鋭い視線に更に深みが加わって、騎士団長としての貫禄が付いてきた。
書類を片手、判子を片手に細かい処理をしていたフレンは、ソディアの突然の発言に驚いて顔を上げる。

「突然、どうかしたのかい?」
「いえ、すみません…気にしないでください、独り言です」

独り言にしてはフレンに話しかけるような音量だったため、フレンは首をかしげて質問を続ける。

「私はそんなに、ユーリに甘いかな?」
「いえ、ですから、気にしないでください」
「特にそう言うつもりはないんだけどね…まあ、多少の小言を言っている自覚はあるけれど」

どうやら話をやめるつもりはないらしい。
ああもう何て事を言ってしまったんだ、とソディアは自己嫌悪に陥る。

「ソディアは、まだユーリが気に食わないかい?」

フレンが団長に就任してすぐに、ソディアはフレン隊の隊長を任された。
女性隊長は帝国内では初めての事で色々な問題があったようだが、様々な雑音をフレンは無視し、ソディアの任命を取り消すことはしなかった。
そして4年後、ソディアは騎士団長補佐として、フレンの直下で働いている。

「……いえ」

答える声が堅くなるのは、未だ自責の念が多少なりとも残っているからだ。
フレンにとってユーリが何よりも大切な人物だと知っているのに、それを認められず先走ったあの時の事は、忘れることはできない。

「もう、ユーリ殿の事をどうこうとかは…ただ、私自身が区切りをつけていないだけです」

フレンにもユーリにも、あの時の事はもう気にしていないと言われた。おそらく、それは事実で。
まだ引きずっているのは、自分だけだ。でも、それは当たり前と言えばそうだ。
彼女こそが元凶と言えば、そうなのだから。
ソディアの葛藤も分からないではないフレンは、自分の中で整理がついていない彼女に何も言ってこなかった。
おそらく、彼女なら自分で乗り越えるだろうと思っているから。

…だから、袋小路にハマってしまっている彼女に、少しだけ昔話をしてみることにした。

「私がユーリに甘いのは、おそらく昔からだと思う」
「…幼馴染と、聞きました」
「ユーリにはね、ご両親が居ないんだ」

両親が居ない。始めて聞く内容だ。ソディアは息をのむ。

「ユーリと会ったのは、5歳くらいだったかな?下町の友達と遊んでたら、ある日ハンクスさんに紹介されてね。まず、5歳なのに僕たちよりもしゃべれない。細くて女の子みたいだし、よく泣くし」
「泣く!?ユーリ殿がですか?」
「あはは、やっぱり驚くよね。今では考えられないけど、ユーリはその頃、とても泣き虫でね。人見知りも激しいし、仲良くなるまでかなりてこずったよ」

ソディアの驚きに声をあげて笑った後、フレンはそっと目を細める。
柔らかい笑顔は、そこに昔の光景が広がっているのを見ているようだ。

「…そう、ユーリは、よく泣いて…でも、自分の親がいないことで泣いたのは、一度だけだ」

まあ僕の知ってる範囲だけど、と付け足す。
声をあげて泣くような性格ではないが、とにかくユーリはよく涙を流した。
もっと感情豊かな子供だったのだ。もしかしたら、フレンよりも。
泣かなくなったのは、いつ頃だろう。少なくとも、ユーリと別れてしまうまでの間ではない。
きっと、フレンが引っ越してから…お互い、色々とあったのだ。

ソディアはそれを聞いて、自分のユーリに対する印象が多少なりとも変わっていくのを感じた。
もちろん、あくまで子どものころの話だ。今現実にいる彼とは関係ないと言えば関係ない。
だが、過去の意外な話を聞いて、フレンがどうしてユーリに対してそんなに構うのかも、何となくだがわかる気もした。
要は、二人とも「ほうっておけない病」。

「…閣下の言うことは分りました。しかし、依頼の書類提出を怠ったり、勝手に報酬を決めてしまうのは認められません」
「うん、ソディアはそれでいいよ」

にこやかに、フレンは言った。
自分は、もう『ユーリだから』で済ませてしまうところがあるが、真面目なソディアはそれが我慢ならないのだろう。
しかし、実際書類提出を怠ってるのは事実なので、そのあたりのことを怒っているのなら、むしろ歓迎すべきなのだ。
ソディアがかつて抱いていた憎しみは、おそらくもう湧かない。
フレンはそう信じているし、二人がもっと良い関係を築いてくれればと思っている。
だから、やはりソディアの好きにさせておいた方がいいのだ。


ソディアにとってかけがえのない人の隣にいる、彼は。
いつしか、ソディアの心も掴んでしまっていることだろう。





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最初の方はすらすら書いたんですが、最後の方とか難産でした…
ソディアについては、いろんな解釈をする人がいますし、「大嫌い」って方もいると思いますが、私は嫌いじゃないですね。むしろ、ED後からユーリをどこか尊敬している部分とか出てくれば良いよ。
ソディアにとってフレンはおそらく至上。
ある意味、あの話において一番人間味のある人。
いや、あの話のキャラクターはみんなが各々人間味がありましたけどねっ。
ソディア→フレン→ユーリです。ユーリがどう思っているか?それは皆様のご想像にお任せ☆