dear my lord
*ユーリ皇族パロ。フレンは一騎士。
*二人が出会ってから間もないころ
少し暑いくらいの日差しが降り注ぐザーフィアス城の一角、騎士訓練場。
入団2年目までの騎士が日々鍛錬を重ねる場には、毎日のように剣のぶつかりあう音が響いている。
その様子を、少し頭上にある窓――ザーフィアス場内の一室から眺めている影があった。
ユーリ。本名は、ユリアス・クロウ・ヒュラッセイン。
名が示す通り、皇帝の血筋を受け継ぐ列記とした『皇族』である。
流れる黒髪を下の方で纏め、赤い宝石がちりばめられた髪留めが輝いている。
彼はしばしの間訓練場を眺めた後、軽い足取りで窓を離れていった。
「フレン」
訓練が終わった後でも剣を持ち素振りをしている中、フレンはかけられた声にぎくりと背を強張らせた。
本来なら、ここで聞くのは可笑しい声。
「ユー…ユリアス様!?」
思わず愛称で呼びそうになるのをこらえて本名で呼べば、ユーリは嫌そうに眉を寄せた。
「ユーリって呼べよ」
「いえ、でも…」
「敬語もやめろ」
「ですから…!」
「今、誰も周りにいねぇじゃねーか」
「そうですけど」
食い下がっても敬語をやめないフレンに、ユーリは寄せていた眉を下げる。
途端、憂気な雰囲気を纏ったユーリに、波のような罪悪感がフレンを襲う。
「…お前には、敬語使われたくないんだ」
「う…わかった、わかったから」
よし、と背後の手が握りこぶしを作ったのは残念ながらフレンには見えない。
ユーリは、半分本気、半分悪戯に目を輝かせ、にこりと笑った。
同性とは思えない華やかで可愛らしい笑みに、フレンは目を奪われる。
ユーリの笑顔は、心臓に悪い。
「じゃあ、さっそく…」
「早速どうなさるつもりですか?」
突然背後から響いた声に、ユーリは微かに背を震わせる。
それは目の前に居るフレンにしか分からない程度だったが、すぐさま表情を引き締めたユーリは、振り返って腰に手を当てた。
「…これはこれは。リーディア伯、こんな所に何の用だ?」
「窓からユリアス様のお姿が見えましてな。こんなつまらない場所よりも、お部屋で書類を見ていられた方が今後の為かと思いまして」
暗に騎士団なんかと関わるなと言いながら気持ちの悪い笑みを浮かべる伯に、ユーリは内心舌打ちする。
「ご忠告ありがたいが、今日の分はもう終わらせた。どこに居ようと俺の勝手だろ?」
「…まったく、我儘もたいがいにして頂きたい。それに、下町出身風情と貴方様が関わっているなど、皇族の恥ですぞ」
思わずそのもの言いにカチンときたフレンだったが、それ以上に頭に血が上ったのはユーリの方だった。
フレンには見えなかったが、怒りに染まったユーリの瞳は鋭く伯を射抜き、まるで剣でも持っていたら斬りかかっていそうな雰囲気を纏う。
「…リーディア伯。本気で言ってんなら、流石の俺も容赦しねえぞ」
「私の孫でも紹介しましょうか。そこにいる輩よりも遥かに教養もありますし、貴方様のお話相手には下町風情よりよほど実りあると思いますが」
「…っ!?てめぇ、もういっぺん言ってみろ!!」
「ユーリ!」
今にも殴りかかりそうなユーリの拳を牽制し、フレンは首を横に振った。
あまりにもユーリが怒るので、当の本人は逆に冷静になったようだ。
「ユーリ、落ち着いて」
「っお前の、事なんだぞ!?」
「僕は、大丈夫だから」
ね?と安心させるように笑うと、ユーリは幾分か冷静になり、思考を働かせる。
こんな所で言い争ったって、フレンが自分の知らない処で処罰されてしまう可能性だってあるのだ。
下手に評議会の人間に手を出せないのも分かっている。
自分にはまだその権限が無いし、何よりフレンと一緒にいたい。
自分の言動しだいでフレンの昇進に関係することだってあるのだ。
ユーリは落ち着こうと一度深呼吸して、再びリーディア伯に向き直った。
「下町とか、そんな事は関係ない。フレンは俺の友達だ」
「…まあ、お遊びもほどほどに」
「どうしようもない」と言わんばかりの如何にも見下した様子で伯はその場を後にした。
ユーリが忌々しげにその後ろ姿を睨む。と、フレンが尋ねた。
「いつも、あんな感じなのか?」
「ああ。あの野郎、下町の事何も知らない癖に…」
「じゃなくて、あの人の、ユーリへの態度」
「は?俺?…まぁ、別にあいつに限った事じゃないしな」
なめられてるのは分かってるし、とユーリは苦笑するが、そこに含まれる悔しさを見逃す程フレンの目は節穴ではなかった。
それでもこうやって強がって見せるのは、もちろん彼の強さでもあるし、弱さでもある。
それを支える人が――ユーリには、いるんだろうか。
「ったく、あいつのせいで時間が…」
「そう言えば、何か用があったの?」
こくりとユーリは頷き、再びフレンの腕をとった。
「今日、エステルに菓子もらったんだよ。で、作ってた茶葉が飲み頃でさ。どうせならフレンも飲もうぜ」
普通、皇族からこんなお誘いを受ける騎士も居ないし、受けたとしても断るのが通例だ。
だが、フレンはユーリの誘いが『友人として』だという事を理解しているし、断ってユーリががっかりするのを見るのも嫌だった。
――何より、先程のようなユーリを見て放っておく事はできない。
おそらくは、事あるごとにフレンと仲良くしているユーリを貴族が詰っているのだろう。
皇族らしくないだの、下町風情だのと言って。
その度に、きっとユーリは嫌な思いをして、それでもフレンや下町の為に怒ってくれている。
フレンにはそれが嬉しかった。そして、大事にしてくれるユーリを、心から敬愛していたし大切に思っていた。
一騎士と皇族という立場ではなく、友人という対等な関係を築いてくれた彼を。
フレンは、ユーリの誘いに「ありがとう」と了承の意を伝えると、彼の背を追った。
その背を守れるくらい強くなって、願わくば、彼の隣に立てるくらいの、力が欲しい。
彼を支え、彼と共に歩む事ができるように。
そう、心に誓って。
*****
フレンの方が一つ二つ年上のつもりで書きました。
皇族パロ。書いてみたかった…
フレンとユーリは幼馴染ではありませんが、下町に遊びに行ったユーリと出会ったフレンがお友達になるというエピソードも脳内ではできています。
書くかは分かりませんが。
しかし皇族パロ。他サイト様のを読むと萌えるのに、自分が書くと妙にシリアスに突っ走って
雰囲気が出せません。むぅ…難しいな。
甘いのよりシリアスが好きです。そんなあなたへ。