温もりを感じた
*フレユリフレでED後
*シリアスで微甘。
がちゃり、と、扉を叩くことなく開けて入ってくるような人物は、普段ならまずいない。
フレンは目を通していた書類から視線を外し、自分の目の前で立ち止まった人物に声をかける。
「お疲れ様、ユーリ。こっちの書類もお願いしていいかい?」
「へーへー了解しましたよ。ったく、何回パシれば気が済むんだ?」
「取りあえずこの書類が終わるまでだよ。説明が必要なものは僕が直接持っていくから…」
自分の隣にある各部署に持っていく書類の束を数え、フレンは無邪気な悪魔の笑みを浮かべる。
「ユーリにお願いするのは、あと十回くらい」
「……」
文句を言いたくても言えないのは、自分は持っていくだけで実際に面倒臭い処理をしているのはフレンだからだ。
そして、持っていく事に対する文句よりも今の自分の格好の方に文句があるユーリは、寧ろそっちに焦点を置く事にした。
「これ脱ぎたい」
「駄目だよ」
「別に普通の騎士の服でいいじゃねぇか」
「駄目だよ」
「…お前、楽しんでるな」
「まさか」
十分に楽しんでいます、と顔にしっかり書いてあるが、「こりゃ何言っても駄目だな」と呟くとユーリは大人しく机の上の書類を手に取った。
「…何も言わない君も、なんだか気持ち悪いな」
「それもっかい言ったら、この書類投げ捨てるからな」
「それは困るな。いってらっしゃい」
明らかに適当にあしらっていると分かる態度を呆れ混じりに眺めると、ユーリはちらりと時計に目をやる。
何故ユーリがこんなことをしているかと言うと、もちろん善意などではなく、純粋な依頼だった。
その依頼主は、依頼内容よりもっと純粋な、ある意味ユーリには最も断れない相手――エステルである。
ギルドの仕事が一段落し、久しぶりにザーフィアスまで足を運んでみると、待っていたのは彼女。
相変わらずふわふわした笑顔でユーリの手をとると、「では行きましょう!」と言い放ち、混乱する彼をそのままフレンの執務室に連行した。
フレンも実のところ何も聞いていなかったらしく、部屋に戻ったところにユーリがいた事に驚いていたようだが、正直に言えば猫の手も借りたいほど忙しかった。
これ幸いとばかりに(何故か部屋に用意してある)自由聖騎士の服を着用させ、そして今に至る、というわけである。
昼まではまだ時間があることを確認すると、もう一度フレンに視線を戻す。
とりあえず、既に書類に没頭しているようで。
「……よし」
ユーリは書類を渡しに行くついでにソディアを探した。
ふう、と一息ついて時計を見れば、もう昼の時間を過ぎていた。
そう言えば最期にユーリの姿を見たのは何時頃だっただろうか?
結構前だとは思うのだが、もしかしたら自分が気付かなかっただけで一度や二度は顔を出してるかもしれない。
そう思いつつ、フレンが席を立とうとすると、扉を叩く音が部屋に響いた。
「はい」
「失礼します」
入ってきたのは副官のソディアで、片手に持っているのはどうやら書類ではないようで。
「フレン様。本日の昼食は、こちらにご用意させていただきます。よろしいですか?」
「え?ああ、構わないよ」
「だそうです、ユーリ殿」
「おう」
話の流れについて行けずフレンが固まっていると、今度はユーリが扉から顔を出した。
その両手には、がらがらと音を立てて押されるカート。
その間にも、ソディアがてきぱきと手に持っていた白いものをテーブルの上に並べる様子を見て、なるほど書類ではなく布だったのかと納得した。
そうして呆然としているフレンに、にやりとユーリは笑む。
「ほれ騎士団長。昼飯の準備すっから、さっさと座れ」
「それではユーリ殿。私はこれで」
「おうサンキューな」
いえ、と丁寧にお辞儀をして去っていくソディアの後ろ姿を眺めながら、相変わらずの堅さにユーリが辟易していると、フレンはやっと口を開いた。
「…これは、どういう事?」
「ああ。副官のねーちゃんに頼んで厨房借りたんだ。流石王宮だけあって、いい食材(もん)揃ってるな」
フレンの聞きたい事に、いまいちズレた方向へ返答したことに気付かないユーリは、さっさとカートの上の皿をテーブルに並べる。
その手際の良さと、並べられた料理の豪華さの両方に驚きながらも、フレンはユーリから視線が離せなかった。
「これ、もしかして、君が作ったのかい?」
「おう。夕飯じゃないから、大したもんじゃないけどな」
「いや、十分豪華だよ。ありがとう」
目を輝かせるフレンに、「どういたしまして」と苦笑する。
普段から良いものを食べているだろうフレンは、きっと下町の料理が恋しいだろうと思って作ったのだが、思った以上に喜んでもらえれば満足。
席について、「いただきます」と一口食べたサンドイッチに、フレンの顔も綻ぶ。
「相変わらず美味しいね、君の料理は」
「そりゃどーも。王宮には敵わないけどな」
「そんなことないよ。やっぱりユーリの料理が一番」
素で嬉しい事を言ってくれる。
何度も繰り返されているやり取りではあるが、やはり何度言われても嬉しいものだ。
「それにしても、どうして急に?」
無邪気な問いかけに、ユーリはどう答えようか一瞬迷ったが、とりあえずは何も繕わず、
「お疲れの騎士団長様には、堅苦しい食事よりも下町の懐かしさの方がマシかと思ったんだよ」
暗に、自分の隣の方が楽だから、と廻りくどい気遣いの言葉に、それを正確に読み取ったフレンの目元が嬉しげにユーリに注がれる。
疲れているつもりはないが、ユーリの目にはそう映ったのだろう。
そうして何も言わずともフレンの体調を気遣ってくれて、尚且つ食事まで作ってくれて。
感謝しても、しきれない。
「…ありがとう、ユーリ」
その言葉に、ユーリは何も答えない。答えずとも、弧を描いた口元が応えだ。
ポットの中の紅茶が飲み頃になると、ユーリは席を立って淹れる準備をする。
フレンに背を向ける格好になり、必然顔が反対側を向く。
ゆったりとした時間が流れる中、紅茶が淹れられるのを待っていると。
「…無理、すんなよ」
ぽつりとユーリの口から洩れた言葉に、フレンはじんわりと心が温かくなるのを感じた。
彼からの本音は、珍しい。いつも、どちらかと言えば発破をかけられる方が多いから。
でも、こうやって極稀に言葉をかけてくれる。決まって、お互いの顔が見えない時だ。
フレンは、その時には返答しない事にしていた。聞こえないふりをしているのではない。
聞こえていて、それがユーリの心からの想いだと分かっているから。
顔を合わせていれば「ユーリの方が無理しないで」と自分は言う。
だから、顔を合わせていないときは何も言わない。
それで、いい。
ちゃんと分かっているという、フレンなりの意思表示だった。
暖かな日差しが降り注ぐ午後、二人は確かにこの瞬間を幸せと感じていた。
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始めてちゃんと、フレユリっぽいものを書いた気がする←
これくらいの距離がちょうどいいと思っています。
離れててもお互いの事を心配してて、でもお互いに意地っ張りなので本音をそのまま言うのは恥ずかしいけど、時折ぽろりと出てしまう、みたいな!!(同意してくれる方大募集)
どっちにしても、好きとかそういう言葉にとらわれないで、もうデフォルトでお互いの事想いあってればと良い。
ソディアは友情出演です。
ソディアが苦手なユーリですが、やっぱりフレンの事を心配する者同士、意見は合いそうなので。
感想頂けたらスライディング土下座で喜びます。