生きているということ
*リタとユーリ
乾いた風が、動脈を往く。
肌を撫でるのは戦場独特の緊張感。突き刺さるのは射殺すような視線。
それらすべてを受けてなお、平気で敵を睨み返すことができる。
それは、数々の魔物や人間と、言葉通り死闘を繰り広げた過去があるからだ。
遠くはない過去。ほんの数か月という単位。
互いに背を任せる仲間がいて、その信頼に応え、自分の成すべきことを成す。
当たり前でいて、それまでの自分ならあり得なかったその関係が、今の自分を構築していた。
黒髪の背を追う様に帯が宙に翻る。
気まぐれの蝶のような動き。道化師のような身のこなし。独自のアレンジと慣れによって生み出される技。
剣ではなく刃を使い、片刃のそれをまるで水のようにゆらりと揺らし敵を切り裂いていく。
かと思えば、地についた右足に力を込めて蹴りを入れる。
突然繰り出される、不意を突いた様な殴り技もあれば、持ち替えた刀がいつの間にか胴体を一閃。
敵の断末魔を聞く暇もなく次の敵へと標的を移す。
流れる様な戦術の合間を縫うように、ファイアーボールとロックブレイクが敵の隙を突く。
盛り上がった地面が跳躍の足場となり、ユーリの刃が更に魔物を沈めた。
反撃に繰り出される爪を握りこぶしほどの間を開けてかわし、眉間を風と化した斬撃が襲った。
一体一体はあっけなく地に沈んでいくため、魔物の残骸がそこらに広がる。
衛生上良くないそれを、高位魔術のクリムゾンフレアが焼き尽くす。
この場はあらかた片付いた。後は、街の反対側にいるジュディスとレイヴンとカロルが終わるのを待つだけ。
ユーリは戦い足りないのか、鞘に収めることなく抜身のままの刀を肩においている。
「カロルたちの加勢、行く?」
「いや、大丈夫だろ。これくらいだったら、たぶんそろそろ終わってる」
ふうとため息をついて、ようやく鞘に納めた得物を手にこちらに向かってきた。
黒髪は相変わらず風に揺れて鬱陶しそうだ。
「ん?」
「な、なによ」
「いや、別に」
ユーリが不思議そうにこちらを見た。
訳が分からない。何か言いたいことがあるならば言えばいい。
しかしユーリは会話を続けるつもりはないらしく、リタの隣に来たかと思えば、くるりと背を向けてあたりを見回した。
先ほどまで、視界を覆う様に埋め尽くす魔物の姿は、跡形もなく消え去っている。
思えば、魔物の相手など慣れたものだ。ずいぶんとたくさんの戦闘経験を積んだが、先ほどまでの魔物の群れはその中でも中規模程度。
自分とユーリの二人だけで相手にできるのだから、そこまでの脅威ではない。
自分たちにとっては、の話だが。
エアルに代わる代替のエネルギーは現在はマナに依存している。
技術自体は進歩しているが、それが生活の中に浸透するまでの汎用性と利便性を確立する段階には至っていない。
戦闘には、自分が開発した、魔核と同等のエネルギー変換を行うマナの魔導器があるが、今はまだ試用運転を開始したばかりの代物だ。
もちろんユーリには渡していないので、以前は使えたほとんどの技は使えない。
それなのにこの強さは、以前よりも格段に上がっている。
風は煙硝の気持ち悪さを運び、浚っていく。
どこまでも暗く、先の見えない将来。
果たして、新たなエネルギーとしてマナを利用する道は間違っていないのか。
その自問自答は変わることなく存在し続け、その度に、答えを返すのだ。
間違っているなら、その時に直せばいい、と。
少なくとも、自分が守りたいものを守っていることに変わりはない。
その力も知識もある。
隣でユーリは、まるで誰かを探すようにどこか遠くを見ているようだった。
彼の背中を守る力がある。ここにはいないが、大事な大事な友達を護る術がある。
それこそが、自分を形作るもの。
「…行きましょう。もうここは問題ないと思うわ」
「そうだな」
魔物の脅威に怯える人々は、対抗する術を持たない。
世界の英雄なんて窮屈なものになるなんて真っ平御免で、欠片も望みはしない。
研究を続け、必要ならば戦い、そして生きる。
それが自分の生き方であるのは、今も昔も変わらない。
ただ一つだけ変わったことと言えば。
「リタ?どうかしたのか?」
「…なんでもない。今行く」
誰かに信頼されたいと望み、誰かを護りたいと念じ、誰かの背を任せられているという安心感。
他者の存在に自分の生き方が左右されているというのに、不快に思わない。
そんな人たちに出会えたということ。
今この手にある、宝物のような、大切な仲間。
「ねえユーリ」
「なんだ?」
「此処が片付いたら、近いしザーフィアスに寄っていきたいわ」
「エステルもいるしな」
「うん、久しぶりに会いたいと思って」
ユーリ!とカロルの呼ぶ声に二人して振り返る。
小さな体が飛び跳ねて手を振っている姿の後ろには、ジュディスとレイヴン。
大きな怪我もなく、むしろジュディスに至っては戦い足りないといった風情だ。
まったくもって、傍目でわかるほどの戦闘狂の戦闘マニアぶりには呆れてしまう。
ユーリが、視線だけで行こうかと合図をするので、その後ろに続いた。
眩しい背中と、仲間たちの姿。
これが、私が生きている証。
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なんかこう、突発的にこんなお話が書きたくなりました。
芯の強いリタ姉さまが好きです。