それは遠い未来のお話

*オールキャラでフレユリ死ネタ
*薄暗いようなほんのり淡い感じ
*死にネタ駄目な人は注意





ほんの数十年前、人々は魔導器という文明を用いて、暮らしを豊かにしていました。
ずっと守られ、何も知らずに生きてきた私は、ある日一人の騎士と出会い、彼と共に旅をしました。
旅の途中は驚きの連続で、魔導器に頼らず生きる逞しい人々や、魔導器のせいで苦しむ人々、たくさんの想いと向き合い、そしてたくさんの仲間もできました。
人を信じる心、疑う心。全てが人を創り、見たくない部分だって受け入れなければいけない。
仲間は、そのことを教えてくれました。

自分にできること、自分がしなければいけないこと、自分がやりたいこと。
全部、全部、自分が考えて、答えに辿り着いた時、彼は言ってくれたのです。
良くやったな、と。
私は、自分で決めることの怖さ、責任、そしてそれを全うする勇気を、教えてもらいました。

世界を救う旅だなんて、大層なものではありません。
でも私達は、この世界が好きで、守りたいと思いました。
そこに偽りなど、ありませんでした。
結果それが、世界を滅びから一歩遠ざけただけ。

私は騎士に恋をしていると、気づきました。
しかし騎士には、幼い頃からその傍らに、親友の騎士がいました。
二人はすれ違いながらも、互いを認め、互いを信じ、背中を預け合っていました。
対照的でありながら、とてもよく似た二人。
私にとっては、二人とも光で、眩しいくらい輝いていて、そして綺麗でした。

親友の騎士は民のために心を砕き、契りを結び、人を率いていきました。
私が恋する騎士は、そんな親友のために影となりました。
自らの心を偽ることなく、信念を全うし、手の届かない所に、行って―――






ぽたり、と紙の上に涙が落ちる。
滲んだ箇所を眺めて、このまま全部消えて、無かったことになればいいのに、とどうしようもないことを考えてしまった。
紙の上は物語。時間を戻すこともできるし、やり直すことだってできる。
でも、本当の生は、そうではない。
失ったものは戻ってこないし、時間だって巻き戻せない。
大切な人が自分を呼ぶ、その声すら少しずつ消えていく。

沈んでいく思考に、ふるふると頭を振った。
このままでは書き進めることはできない。
涙の滲んでしまったこの箇所は、もう一度書き直さなければいけないだろうか。
しかし、また同じことが起きるような気がする。
涙が出なくなるまで書くことができないかもしれない。 そう思ったら、どこからか、「仕方ねぇなぁ」と呆れ混じりの苦笑が自分に向けて注がれた気がして、驚いて左右を見回す。
だが、そこには誰もいない。幻聴。いや、思い出の一端。
「…ユーリに、呆れられてしまいます」
窓を開ければ、少しはこの涙も遠慮してくれるだろうか。
こんな歳になって泣くなんて、みっともない。

花びらが舞う、風が心地よい街。
エステルは、窓枠にそっと頬杖をついて、呟いた。

「――フレン。

ユーリには、会えましたか?」


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春、という季節がやってきた。
レイヴンは目を細め、舞い散る花弁をひとつ、摘む。
寒さは嫌いなのに、この世界に四季が訪れてから、雪なんてものが各地で降るようになった。
そのせいで外に出たくないし、部屋に籠ってたら暖かくて余計外に出たくなくなる。
逆に、寒さの中冷えた身体を温めに温泉に入るのも最高だ。
エアルの影響を受けなくなった世界は、色々な楽しみももたらしてくれた。

冬眠かよ、なんてからかう様な声が聞こえた気がして、でもそれはあり得ないことで。
自嘲気味に笑う。らしくないと自分でも思う。
春なんて季節がやってきたのに。
彼がもうこの世界のどこを探しても居ないということを、未だ信じられないのだ。
元よりふらふらと出かける癖があったせいか、1日2日会わない程度は当たり前。
だから今日も、「よ。久し振り」なんて、下町でばったり会ったりして。
他愛もない話や仕事の話をしたら、「またな」と別れて。
そんな日々が続くと信じていたと言ったら大げさだろうか。少なくとも、生きる楽しみではあった。
「まったく、おっさんより早く死ぬなんて反則よ」
呟いた声は、空に消える。

ユーリの墓は、公式には無い。
死後に興味を持つような性格ではなかったし、死ぬことを覚悟して生きるような歳でも無かったから、その手のことは皆無だ。
だが、一つだけ。
あの日。ユーリが息を引き取った日。
看取ったのはレイヴンだった。
彼の最期の言葉を、聞いたのも。



「俺さ、ろくな死に方しねぇよな、きっと」
「…どうしちゃったのよ、ユーリ」
珍しく酒の話に付き合っていたユーリは、唐突にそんなことを言った。
赤い顔をして、ちびちびと酒を飲む彼の右手が、すっと前に伸びる。
「んー…ちょっと考えただけ」
「物騒なことは考えなさんな。おっさんより若いくせして」
ははっ、と笑って、ユーリはグラスをテーブルに置く。
カランと鳴る氷が、その位置を変えて浮かび上がった。
「まあ、おっさんの最期くらい看取ってやるよ」
「光栄ね。せっかくだから、世界中のありとあらゆる美女を…」
「やっぱやめたわ」
「酷い!」
レイヴンが泣き真似をしながら、残りの酒を一気に煽る。
男2人で、酒場で、死ぬ時の会話。なんて滑稽でなんて幸福。
こうやって、自分を看取ってくれるだろう人が傍にいる幸せなんて、そうそうないんじゃないだろうか。
「ま、頼むからおっさんより早く逝っちゃうのはやめてね」
「切実だな。おっさんこそどうした」
「ユーリが変なこと言うからでしょー」
笑い合って、それは当分先のことだと思っていたのは、別段可笑しなことではない筈だった。



「すまねぇ」
それが、ユーリの遺言だった。



ハルルの街から、帝都まではすぐだ。
前はよく歩いていた道だし、魔物の脅威が増えたとは言え、仮にも自分は凛々の明星の一員。
滅多なことでは後れをとらない。
軽い旅荷物を肩にかけ、レイヴンは大木に語りかけるように言った。

「フレン…ユーリには、ちゃんと会えたか?」


…next


フレン・シーフォは、優秀な人間だ。
人柄も、頭脳も、態度も、人格も。その全てが、人々を導くに足りうるもの。
それが世間の評価。

だが、自分達は知っている。
フレンが、ユーリが死んだ後、一度も「本当に」笑わなくなったことを。
時折、遠い別の世界を見るような、眼差しを虚空に向けていたことを。



「ちびっこ、行くわよ」
「ちょっと待って…できた!」
がさごそと音を立てて何をしているのかと思えば、どうやら墓の周りの草をきれいにしていたらしい。
こまめな性格は昔から変わらない。変わったのは、無駄に伸びた背ぐらいだろうかと、久しぶりに再会を果たした少年を前にして思う。
「…別にあんたが綺麗にしなくてもいいんじゃないの?」
「そうなんだけど…なんか、思わず、ね」
右腕で頭をかく仕草も、変わっていない。癖なのだ。
こうして変わらないものも、人もいるけれど。
居なくなってしまった人もいる。もうそれなりに月日は経ったので、感慨深く思うだけだけれど。

この墓は、フレンのものだ。
ユーリ亡き後、見ていてこっちの胸が苦しくなる程働き通しだった彼は、1年も経たずして後を追った。
やっとユーリやフレンと同じ歳になったのに、とカロルが涙ながらに叫んでいた。
エステルはユーリの時に流した涙と同じくらいの涙を流して、でも気丈にも「ゆっくり休んでください」とまるで母親のように声をかけていた。
レイヴンは何も言わなかった。悲しげに伏せた瞼と、一文字に引き結んだ唇が、その想いを語っていたけれど。
ジュディスとパティは現れなかった。おそらくどこからか見ていたかもしれないが、それはその場にいる自分が知るところではなかった。ユーリの時は、どうだっただろう。ちらりと姿だけ見せて、いつものように微笑んでいたかもしれない。
リタは――こんなに涙が出るとは思わず、自分でも驚いていた。
ユーリの時ほどではない。だが、付き合い自体は他のメンバーよりも浅かったにも関わらず、こうも涙が流れてくるのは…ユーリが居なくなった後のフレンを見ていたからかもしれない。
魔導器に代わるエネルギーとその効率化を急いだ彼は、騎士団への武器転用も含めて、リタの元を度々訪れていた。だから、会う機会も多かった。
言葉を交わす度に、まるで死に急ぐような彼の行動を、諌めたこともあった。
心配してくれてありがとう、なんて余裕こいて返していたけれど、身体も、精神的にも限界なのは目に見えていた。
そしていつも最後に、彼はこう言うのだ。
「ユーリが、待ってるから」、と。



「リタ、どうしたの?」
「…んー…何でもないわ、行きましょ」
「あ、うん」
すたすたとカロルの横を歩き過ぎる。
墓の周りに立つ灯は、以前のようなエアルを基にしたものではない。
自然界の熱エネルギーを転換し、炎のような光を発光するエネルギーになっている。
技術は、平等にその恩恵にあずかれるようになったのだ。
この世界のいく末を彼らが見ることはかなわないけれど、それでもここまで世界が立ち直ったのは、間違いなく彼ら二人の、そして自分たちの功績。
次に会った時には、胸を張って「先に逝くんじゃないわよ馬鹿」と罵ってやることに決めている。

リタは、肩より下まで伸びた髪を手で押さえ、空に問いかけた。

「あの馬鹿二人は…まあ、心配しなくても会えてるか」


…next


そよ風が吹く、丘の上。
そこから見る景色は、懐かしい思い出と共に、苦い言葉も思い出させる。
いつも君は、自分の事を影だと言っていたけど。
僕にとっては、君が光だった。

「…やあ、ユーリ」

遅くなって悪かった。

こちらに背を向けて座っているユーリ。
僕はそっと、彼に寄りかかるように背を合わせて、腰をおろした。

君の背中からほんのり伝わる温かさに、涙がこみ上げそうだった。





それは、遠い未来のお話






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5000hitありがとうございました!
御礼小説の割には暗いものでしたが、これくらいが大好きです。読むのも好き。
フレンより先にユーリが死ぬだろうな、と思っています。でも後追いするような弱い人間ではいてほしくない。
そして、結婚して子供も作ってなフレンが理想です。根っこの部分にユーリの存在が大きく在って、でもそれを受けて入れてくれる器の大きい奥さんと結婚してくれればいい。
いちゃいちゃフレユリも良いですが、やっぱりつかず離れずも素敵。

看取るのはレイヴンかなっていうのは、私がフレユリを書く上での前提になります。
レイユリとかじゃなくて、なんていうのかこう…死に間際を見せてもいいなって、ユーリが思うのは、レイヴンだけなんじゃないかと、思っていて。
あ、だめだこれ以上キャラの死に際を語るのもどうかと思うので自嘲する^^

ともあれ、本当に5000HITありがとうございました!皆様愛してます!!