星空フーガ
*オールキャラ
名前が、その人にとって大切なものであるように。
そう願って、新たな命に名前を付ける。
親との血の繋がり。自分という自我。他者とは異なる自覚。
名前とは、全ての始まりだ。
自分が自分であることの証明。
自分も他者も、別人としての識別をする。
この名を付けたのは、自分の両親ではないのかもしれない。
それでもユーリにとって自分という存在はユーリ・ローウェルだ。
ハンクスが呼び、仲間が呼び、フレンが呼んでくれる。
記憶と共に、自分の名前は繋がっている。
それは、とても愛おしくて暖かいものだった。
「フレンって名前、すごくフレンに合ってるよね」
そんな何気ないカロルの一言に一同は食事の手を止めて、一斉に小さな首領に視線を集める。
「え、僕何か変なこと言った?」と狼狽えるカロルに、フレンは横に首を振って微笑んだ。
「そうかな?自分ではあまり考えたことは無いのだけど」
「呼び慣れてるだけじゃねえの?」
「でも前から思ってたんだ。フレンって響きがカッコいいっていうか」
「あ、それは私も思います!」
カロル、エステルに褒められ照れるフレンに、ジュディスはくすりと笑う。
「音の響きがちょうどいいのね、名は体を表すとも言うし」
「僕の名前に意味があるかは分からないけれど…両親からもらった、大切なものだよ」
「素敵ですね」
リタはちらりとその様子を見て、特に何かを言う事はしない。
ユーリも最初に口を挟んだだけで、会話に参加するつもりはなかった。
レイヴンはそんな二人を横目に、フレンの名前を褒めちぎるカロルとエステルを眺めるだけ。
「エステリーゼ様の名前は、母君が考えてくださったのですよね」
「はい。由来とかは、分からないのですけれど…」
「自分の名前の由来なんて、知ってる人はあんまりいないんじゃない?」
「そう…そうですね。それに、この名前は私にとってたった一つです」
名前か、とレイヴンは心の中で呟く。
たった一つの名前。普通に考えればそうだ。それが幸せだと思う。
レイヴンにとって、名前というのは身を偽ったり、素性を隠す手段であった。
名は捨てられるものだ。その気になれば、いくらでも。
けれど、自分にとっての当たり前が目の前の子どもたちの当たり前であってはいけないという少しばかりの正義感もある。
シュヴァーン・オルトレインは、いつ捨てても良い名前だった。
でも、レイヴンは捨てたくない。この名前には未練がある。それをこそばゆく感じる。
少年少女を微笑ましく眺めている中、ふとユーリの視線が気になってそちらを向く。
すると眉間にしわを寄せてこちらを見ているものだから、レイヴンは思わず「え、おっさんに何かついてる?」と聞いた。
ユーリは、いや、と短く返し。
「おっさんこそ、何気難しそうな顔してんだよ。皺取れなくなるぞ」
「あ、ひどいこと言うねおっさん傷つくよ?」
「もう十分なんだから、いちいちへこたれるのも止めなさいよ。見てるこっちが暗くなるわ」
「……もしかしておたくら、心配してくれてる?」
「ま、顔に出てるからな」
リタは何も言わないが、どうやらユーリと同じようだ。
会話に混ざらないと思ったら、二人してレイヴンに気を配っていたらしい。
背中がむずがゆくなる感覚に、「あー」と適当に流して頭をかく。
気配りが過ぎるのも恐ろしいものだ。
「――ユーリは、ユーリって感じだね」
「そうね。ユーリがフレンだったら、ちょっとおかしな感じがするわ」
「柔らかくて、でも芯が強い印象がありますし」
「これで、ユリウスとかだったら格好良すぎて引いちゃうよね」
「ただのユーリが一番です」
褒められてるのかどうなのか。
勝手にネタにされる己の名前に、ユーリはとりあえず無言を貫きフレンとジュディスは可笑しそうにしている。
「名前って不思議ですね。誰かが決めるものなのに、最初から決まっていたみたい」
***
「決まってたみたい、か」
寝静まった夜。
オルニオンは山に囲まれているから、暗闇にいっそう深く覆われているようで落ち着く。
そんな事を思いながら、ふらりと街の外に足を延ばしてみた。
名は体を表すという。ジュディも言っていた。
なら、自分の名前はこんな暗闇を体現したものだ。
星の光が届く、決して暗すぎない夜の闇。
「…寝れないのかい?」
「いや…」
隣に並ぶ、フレン。ユーリにとっての星の光だ。
今の気分を言葉で表すのは難しかった。だから、軽く濁すに留める。
フレンもそれ以上は聞かず、二人で空を見上げた。
「…あ、一番星だ」
「どれだよ?」
「あそこ。少し南の方に」
「んー…どれも同じに見える…」
「明らかに違うだろ。ほら、あそこの一番光ってるの」
「……お、あれか」
「見つけた?」
ああ、とユーリが頷く。
一番星。空にあって、一番強く輝く星。
名は体を表すというのなら。
フレンの名は、ユーリにとって一番星だろうと思う。
綺麗だ、と呟いた。
*****
ほのぼの、シリアス。迷いますよね…迷うんだ。
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