仰ぐ天星
*「仰ぐ紫黒」の続き。流血表現有注意。
*ユーリ受けオールキャラ。シリアス
*キロロ様のみお持ち帰り可。
ザーフィアス城を覆うエアルの乱れは、鎮静化された。
ただ、ユーリを取り戻すことはできないまま。
こちらに刃を向けたユーリの瞳は無機質で、フレン達に襲い掛かり。
結局、アレクセイが自らの野望のため、出現したザウデ不落宮に移動する様子を見てることしかでき無かった。
ユーリは、動けない仲間たちを…仲間である筈の皆を見下ろし、何を語ることもなくアレクセイに従った。
その後ろ姿は、ユーリなのに。
言いようのない悔しさが胸にこみ上げて、フレンは強く地面を叩いた。
*****
ユーリが強いことは、仲間の誰もが知っている。
一対一を得手とする戦い方も、ユーリ独特の剣筋も。
彼とそれだけ長く一緒に戦ってきた。
一匹狼でいる事も多い彼だけれど、背中を預け合ってきた。
だからこそ、今自分達が戦っている目の前の『敵』が、ユーリとは似ても似つかない事が分かる。
彼独自の戦い方じゃない。まるでエアルに操られているような。
エアルが剣を握って振り回しているような。
リタはそう分析し、レイヴンも賛同する。
見た目はユーリなのに、まるでユーリではないようだ。
しかし、それでも。
「……っ!ほんとに、強いわねっ」
レイヴンが舌打ちと共に大きく後方に跳躍し、振り向きざまに回復の矢を飛ばす。
仲間の全員が負傷して、どこからか血を流している状態だ。
長引く戦闘はまずいということは分かっているが、ザウデの起動をしているアレクセイの下にたどり着けない。
一対多でありながらも、回復ひとつせずユーリはこれまで戦い続けている。
「このまま戦い続けても埒が明かないわ。何とかして、ユーリの意識を戻さないと!」
「でも、どうするんです!?これでは近づく事もできません!」
エステルは後衛で回復に専念しつつ、ユーリの動きを止めようと術を唱えるもうまくいかず。
エアルに関してはリタになんとかしてもらうしかない。そのためにも、リタを守る形で前衛組が奮闘していた。
「ユーリを中心にエアルが動いているんじゃない…ユーリの中で術式が書き換わって…?」
「どーゆーこと?エアルがユーリを操ってるんじゃないの!?」
「違うわ、エアルじゃない。たぶん、アレクセイがユーリの力を利用して、術式を複雑に展開してるんだわ…!」
レイヴンの問いにも、ユーリから目を離すことなくリタが答える。
その時、ユーリと剣を交えていたフレンの肩口から鮮血が走る。
名を呼ぶとエステルは即座に回復術を唱え、数秒の後フレンの身体が淡い緑の光に包まれる。
何度繰り返したか分からない。だが、その間にもユーリは目標をカロルに変えて、一気に切りつけていた。
「リタ、お願いします!なんとか、ユーリを…!!」
「分かってるわ!もうちょっと、ちゃんと術式を解読しないと…!」
***
ジュディス、フレン、カロルは三人がかりでユーリの相手をしていた。
一対三とは思えないほどユーリが優勢に攻撃を繰り広げている。
それは、どうしてもユーリを本気で攻撃できないカロルがいるから。
「はあああああっ!!」
ユーリに『重い剣』と称された渾身の一撃を叩きおろすと、フレンを一瞥したユーリは無理に喰らうことなく流れるような身のこなしで衝撃を最小限にとどめる。
吹き飛ばされた風圧を利用して態勢を整えた所に容赦なく突きを繰り出されるジュディスの槍。
ユーリの髪、服、所々を破り切り裂きながらも、痛みに顔を顰めることなくユーリはジュディスに向けて攻撃をしかける。
そこに横から突撃するカロルのハンマー。しかし、どうしてもユーリを攻撃することに躊躇いがあるのか――一撃はユーリに届くことなく、風をきるだけに終わった。
「くっそ……!」
フレンが、普段の彼とはかなり異なる顔で悪態をつく。
どれだけ大きな魔獣を相手にしている時も、敵の弱点を見極め冷静に対処している彼ではなく。
ユーリの剣に押され、迷いが隙となり生まれる、そんな一瞬。
嫌な裂ける音と共に舞う赤色にフレンの態勢が崩れ、ユーリが更に踏み込んだ。
咄嗟に剣を振る。ユーリの、首をめがけて。
「フレン!」
エステルの叫び声が聞こえる。
その瞬間、右後ろから矢が放つ独特の音が聞こえ、気付いた時にはユーリの左肩に矢が突き刺さっていた。
同時に、自身の身体を柔らかな力が包み込む。エステルの癒しの術。
振り向けばエステルがリタに何かを言っており、レイヴンが次の矢を番えてこちらを狙っていた。
ユーリから距離を取り、再び剣を構えればユーリの剣もフレンに切っ先を合わせている。
肩から流れ出る血がユーリの腕を伝っている。痛々しさにこちらが顔を歪めてしまう。
「――ユーリ」
もう何度名を呼んだだろうか。
既に名を呼ぼうとも意識が戻る可能性など諦めかけているけれど。
自分だったら…他の仲間はできないだろうけれど、自分ならば最後のその時まで、彼に剣を向け続けられる。
だからこそ、誰かが倒れてしまう前にけりをつけるべきだという事は頭では理解していた。
「無駄だ。彼にはもう、君たちの声は届かない」
「アレクセイ…」
「ザウデの起動はもう間もなくだ。その前にユーリによって殺されるのが良いか、私が世界を手に入れたのを目の当たりにした後に私の手によって殺されるか。どちらか選ばせてやろう」
「冗談じゃない…!」
「アレクセイっ、ユーリを開放してください!!」
「なに、ザウデの起動が完了したら開放する。君たちの亡骸の中で、な」
アレクセイの言葉のあまりの冷たさに、フレンは手にした剣を彼に向けた。
どちらにしても、アレクセイを倒さない限りはザウデの起動は果たされ、そのアレクセイを倒すためにはユーリをどうにかしなければいけない。
全ては時間制限だ。あまり残されていない。
「…みんな、そのままで聞いて」
ユーリとアレクセイを見据えながら、後ろからリタが押し殺した声で喋りだした。
「ユーリの自由を奪ってるのは術式よ。ユーリが満月の子と関係してるなら、おそらく何かしらの核を使って術式をユーリの中に展開してる」
「核…としたら、ユーリの胸のあたりにある、あれか」
「たぶん。あれを壊すのが第一段階。壊した瞬間に、エアルが溢れだすと思う。まともにくらったら吹っ飛ぶわ。私は、ここから核の代わりにどうにかユーリのエアルを調整する術式を組む」
「ユーリが攻撃してきたら?」
「気絶させてもいいから、動きを止めて」
行くわよ、とリタの合図にフレンとジュディスが左右に分かれてユーリに肉薄する。
繰り出した剣、槍、両方がユーリに迫り、三者の影が交差した。
核を壊すことに集中し、ユーリの態勢を崩そうとフレンが技を仕掛ける。
背後に回り込んだジュディスの槍がユーリの髪を一房断ち切ると、その横を抜けてアレクセイに向かって矢が放たれた。
正確にアレクセイを狙ったそれは、届くことなくアレクセイの剣に阻まれる。
「――余興は、終わりだ」
その声は、戦闘音の轟の中ひどく呆気なく静寂を生み出し。
ドン、と深く体を揺らす音が響いたと同時に、頭上に浮かぶ巨大な魔核が雷のような音を奏でた。
空に向かって伸びる一筋の光。
目のくらむ眩しさと、空が割れるという信じられない現象に、一同が声を失い。
神々しいまでの輝きの中、かはっ、と苦しげな呻きがフレンの耳に届いて、次いで飛び込んだ光景に目を見開いた。
今までユーリが手にしていた剣――それはユーリの手には無く。
代わりに、ユーリの胸元から突き出され、フレン達が壊そうとしていた核を貫いていた。
――アレクセイの、手によって。
ユーリ、と呼ぼうとしたが音にはならず。
アレクセイの嘲笑が、ユーリに注がれる。
「お前たちも、これを壊そうとしていたのだろう?」
だから私が壊してやった。
じゅ、と重く肉と金属が擦れあう。ユーリの身体から引き抜かれた剣が転がり、血が点々と零れ落ちる。
倒れ堕ちる身体を支えようと走り出す前に、ユーリは力なく地面に崩れ落ちた。
「う、そ……」
エステルの息を呑む声が隣を駆け抜けて、ユーリの血に汚れる事を気にせずに手をかざす。
生命術式を介すエステルの力はあまり多用するべきものではないのに、エステルが一心不乱に治癒術を唱えるのを誰も止めることはできない。
ユーリが、目の前で。
死んでしまいそうな、現実が。
「アレ、ク、セイ……!!」
怒りというにはあまりにも冷たい感情のまま、睨みつける。
切り殺してしまいそうな衝動のまま剣の柄を握りしめたフレン。
しかし、か細く濁った声が押しとどめた。
「…フ、レ……」
「ユー、リ!?」
「やめ……」
「ユーリ、喋らないでください!」
薄く開いた目は、頭上を見るように促していて。
だが、フレンにそんな余裕はない。息絶えそうなユーリの姿から目を離すことはできなくて。
その代わり、レイヴンが信じられないとばかりに叫んだ。
「なんだぁ!?」
レイヴンと、ユーリの目に促され、エステル以外は頭上を仰ぐ。
そこには、黒く染まった『何か』が、顔を出して空から覗くようにこちらを侵食していた。
***
災厄がよみがえる。
堕ちる魔核、行方不明となるアレクセイ。
衝撃と共に荒れ狂う爆風と。
「ユーリ!!」
煙と傾く足場に一瞬の隙を取られ、手を伸ばしても。
「……っ」
浮遊感と同時に意識を失った体は、赤をその場に残したまま、宙へと投げ出された。
*****
キロロ様へ捧げます。
「仰ぐ紫黒」の続きをお届けしました。
ザウデまでを書こうかなぁと思っていた作品でしたので、結局ユーリがとばっちりでかわいそうな話ではありましたが…。
この後は本編通り、デュークに助けられるということで。
リクエストありがとうございました。これからも、どうぞよろしくお願いします!!