存在証明アインザッツ

*フレユリ中心オールキャラ
*「ユーリの父親が悪人ギルドのボスだったら」。暗め。
*ミズアキ様のみお持ち帰り可






特別、自分の父親というものを意識したことは無い。
母親とは生き別れらしいが、それもハンクスから聞いただけであって自分が知るところではないし、どこの誰か顔も分からないような父親の事を知りたいと思った記憶も無い。
要は生きていくのに必死だったし、自分には下町の皆やフレンが居たから、親の顔など知らなくても問題無かったのだ。
だから、今更親の事を知って動じる事もないと思っていた。
そもそも本当の親なのかどうかすら分からない上にそれを証明する物も無い。
そう割り切って、「お前の父親なんだ」とでも言ってくるような奴は鼻で笑ってやるくらいの気分でさえいたのだ。

でも、自分でも驚くくらいその事実はすんなりと心に収まって。
相対した奴の存在感は、言葉は、信じられないほど自分にとっての真実だと本能が告げていた。

ユーリは、手にした獲物を握りしめる。
ラピードはユーリを守るかのように足元で警戒の唸り声を上げ、今にも目の前の男の喉を食い千切ってしまいそうだ。
男は笑う。不愉快な、でもどこか懐かしい笑い方で。
懐かしいなどありえない。自分はこの男を知らないのだから。それでも、『そう』なのだ。
何の根拠もなく、何の理解もなく、ユーリは目の前の男の存在を消してしまいたいと思った。

「オレが生きているなど耐えられない。そんな目をしているな」

男は、自分を指して言った。
ユーリは睨む。ただひたすらに。憎悪などない、あるのは冷えた指先と冴えた視界だけ。
暗い中でも映える両者の色は、とてもとてもよく似ていて。
感情を排したユーリの瞳に対し、男は鋭い切っ先を思わせる瞳でユーリを見下ろした。

「信じられんという気持ちは分かるが、そうも敵意をむき出しにする必要はない」

オレはお前を害するために、ここに呼んだわけじゃないからな。
ユーリによく似た…いや、まったく異なるのに『どこか似ている』声で男は続ける。

「久しい…と言っても初めて会うな。どうだ、感動したか?」

ユーリは何も言わず。変わらぬ沈黙を貫き続きを促す。
男はもったいぶることなく、迎え入れるかのごとく両手を広げた。

「我が息子よ」



***



「貴族暗殺事件?」

オウム返しにフレンが聞いたのは、フレンがまだ物心ついた頃に起こったとある事件の事。
およそ二年に渡って続き、世界各地の貴族が何の前触れもなく行方不明になったり死亡しているのが見つかった。
帝都の貴族に限らず、帝国の勢力下にある街ならば必ず一人は被害にあっている、という程。
その事をフレンに進言したのは、フレンよりも十歳以上年上の騎士団の幹部である。
当然のことながら騎士団も事件解決に各地に派遣されたが、闇討ちに似た手法で殺されている事、そして、当の貴族が貴族出身の騎士以外に護られたくない等という御託を並べた結果、全ての暗殺が防げなかったという苦い経験をしている。その時派遣された騎士のうちの、一人だ。現在の地位は、隊長。

「ああ。最近、それに似た状況がちらほら聞こえてきている」
「それは…まだ私の所にまで報告が来ていません。詳しく聞かせていただけますか?」
「単なる噂に留めるには、どうも状況が似ていてな。私の独断で、騎士団長に報告をした方がいいと判断した」

彼曰く、どうやら最初の被害は一か月前。
ヘリオードに移り住んだ貴族の一人が、何者かに殺されて少し離れた滝で発見された。
巡回中の騎士の報告によれば、その貴族は移動途中の護衛を騎士団に任せていたが、ヘリオード手前で黒ずくめの男たちに一度狙われたのだという。その場では追い払い、念のために警護として一週間ほど騎士を駐留させたが、再び襲ってくるような気配は無く、ヘリオードを警備する騎士に事情を伝えて巡回に戻ったのだという。
その二日後、貴族は殺された。
不用意に夜中に外出をしたという理由で片付けられたが、どうもきな臭いと隊長は感じたらしい。

「…以前の事件は、どのように収束したのですか?」
「それが不思議なもんで……アレクセイが、どうやら犯人の目星をつけたからと直々に乗り込んだらしい」
「乗り込んだ?それはつまり、犯人は複数いて潜伏先があった、と?」
「その通りだ。と言っても、私はその頃はまだ下っ端だ。事件が解決した、とだけアレクセイから伝えられた」

これ以上の事は分からないが、と隊長は肩をすくめて見せた。
だが、次にはひっそりと声を低くしてフレンに耳打ちする。

「前と同じ犯人ならいい。だが、その時ヘリオードで目撃された余所者の容姿が……どうやら、ユーリ・ローウェルに似ている、という事だ」

フレンは息を呑む。少しだけ驚きに開かれた眼は、次は細められて。

「ヘリオードには、ユーリも度々訪れています。その人物が全くの余所者ならば、ユーリではない可能性もあるのでは?」
「そこまでは流石に分からないが――」

「フレン!!」

その時、ノックの音すら響かせずに飛ぶようにエステルが駆け込んできた。
あまりの唐突さに、フレンも隊長も呆気にとられる。
が、エステルは構わずフレンに駆け寄った。

「フレン、ユーリをご存知ではないですか!?」
「ユーリ?いえ、最近は会っていませんが……」
「では、やはりカロル達の言っていた事が……」

エステルは、はっと隊長の存在に気付き口元を手で隠す。

「ごめんなさい。お話し中だったんですね」
「いえ、エステリーゼ様。彼とも、今ユーリの事について話していたので」
「ユーリの事を、です?」
「はっ。実は――」

フレンは簡潔に先程の報告の事を説明する。エステルは不安げな顔を更に青くして、胸の前で手を合わせてそれに聞き入った。やがて、そうですか、と相槌を打つ。

「ユーリが依頼を受けてから戻ってこない、とカロル達が探しています。帝都からの依頼だったそうですが、デイドン砦をユーリが通った形跡が無いと言っていました」
「バウルを使っては?」
「バウルはジュディスと。別の依頼で、ダングレストまで行っていたそうです」
「ならば、デイドン砦を通らない必要は無い…いくらユーリでも、森を抜けてわざわざ遠回りすることは無い」
「下町の方も、ユーリを見てはいないと言っていました。門の騎士の方々も、ユーリらしい人物が入った記憶は無い、と」
「…僭越ながら、ヘリオードへ赴いてみてはいかがでしょうか?」

隊長が、かしこまって頭を下げたままフレンへと進言する。
フレンも同じことを考えていたため、頷いた。たとえ不確かな状況であっても、帝都にユーリがいないとするならば探してみる価値はありそうだ。
エステルも首肯し、外で凛々の明星が待っていると伝える。

「フレンは…」
「騎士団長閣下、ここは副帝陛下と共に」
「しかし」
「副帝陛下の護衛には、閣下以上の方はおりません。帝都の防衛はお任せください」

フレンは少しの逡巡を見せたが、言葉に甘えることにした。
どちらにしても、エステルの護衛は必要になる。ヘリオードに行くならば猶更。
エステルの背を追って、フレンも駆けだした。



***



ヘリオードとダングレストの間、トルビキア大陸中央部は鬱蒼とした密林だ。
姿を隠すにも、『それらしい』アジトを作るにも最低な場所であり――ユーリは、いわゆるそのアジトの一つに案内されていた。目の前に座る、いかにも首領の風体をした男。黒い髪に、威圧感を覆すような見た目の若さ。
自分を『息子』と言い放った男を、ユ―リは鼻で笑う。

「冗談が過ぎるぜ、おっさん。俺とあんたが親子?戯言も程度ってもんがあるぜ」
「その言い方も、昔のオレにそっくりだ」
「そうかい」
「歳は23くらいだろう。母親の名前は知っているか?」
「生憎知らねえよ。知る必要もねえ」
「お前が生まれたと同時に死んだからだろ?お前の母親の出身は帝都だったからな。確か、あのあたりで姿を見せなくなった」「……」

ユーリが纏う空気が重くなる。常人ならば。エステルやカロルならば、あまりの重圧に恐怖を覚える程に。
目の前の男は、そんなユーリにただ笑うだけだ。不快になる笑みを浮かべるだけ。

「どうだ、信じたか?」
「……あんた、何者だ」
「言っただろう。お前の父親さ」
「違う。それ以前があんだろ?」
「くくっ頭の切れは悪くないな。常に冷静であろうとすることは悪くねえ」

男は、立ち上がってユーリと少しだけ距離を縮めた。ラピードの唸り声が警戒心を強める。

「オレは、ギルド『天狼闇屋』首領。俗な言い方ならば、雇われ暗殺者ってとこだ」
「はっ。まともなモンじゃねぇな」
「そうか?お前がしたことと大して変わらないと思わないか?生きていてほしくないという誰かの願いをかなえ、報酬を貰う。殺すってのは俺たちの信念だ。それで救われる奴が居るんならな」

目が据わる。
鞘から刀身が見えるのではないかという程、張り詰めた空気が場を満たした。
手は冷えているのに、身体が熱を帯びていた。
冴えた空気が、ユーリの五感を鋭敏にさせる。物音一つ無い事で均衡を保たれた空間は、人を殺す瞬間に似ていた。

「……なぜ、俺をここに連れてきた」
「仲間にするためだ」
「断る。俺は、ギルド凛々の明星の一員」
「知ってるさ。だが、そこでお前の信念がどこまで貫き通せる?その『必要』がいつか来た時、お前はどうする?」
「斬って、出ていくだけだ」
「甘い。大甘だ。全てが自分の思い通りになると過信した奴の台詞だ」
「何と言われようと、俺の居場所は俺が決める」
「失われる可能性を恐れながら、失う事を諦める。お前には、耐えられないよ」
「それも、俺が決める事だっ!」

ユーリが、鞘を投げた。
荒々しい一閃を、凪いだ一閃が迎撃する。
刃の擦れ合う音が響く瞬間には、両者は既に地を蹴っていた。



***



カロル、ジュディス、エステルとフレンは、全力疾走と言わんばかりに森の中を駆け抜ける。

ヘリオードでユーリの目撃情報の後得た、最近ギルド・ドゥ・マルシェの人間が見かけたという一団が潜伏しているアジト。
藍色と黒を基調とした服と、狼の影をギルドシンボルとする一団。カロルは、まさかと声を上げた
ギルド天狼闇屋。暗殺を主とする、ユニオンの中で有名なギルド。少数精鋭であり、暗殺という生業からユニオンに加盟はしていなかったが、知名度の高さはかなり上の部類に入る。それも、悪い意味で。
ユーリと一体どういう関係が、と訝しむ四人ではあったが、ともかくユーリがいるのならばまた何かしらの厄介事に巻き込まれている可能性がある。
そしてその予感は――的中した。


「ユーリ!!」

エステルの悲鳴と、ユーリの左肩から血飛沫が舞うのは同時だった。
利き腕の損傷に、ユーリの態勢が崩れる。
エステルを除いた三人は、一気にユーリを斬ったと思われる男と間合いを詰め、攻撃に入る。

「てめぇら、ユーリの仲間か!」

轟と一発、咆哮に似た叫びが放たれ三人は後方へと退却する。
尋常ではない存在感を放つ男に、手に持つ獲物がかたりと震えた。
男の仲間だろか。二つの影が男の背後に姿を現し、すぐ後に消える。

「こいつを迎えに来たか」
「貴方は、一体……」
「帝国騎士団長フレン・シーフォか。残念なことに、お前の暗殺依頼は来てないな」

男は、自らの獲物である刀で肩を叩くしぐさをする。

――その動作があまりにも。彼に、ユーリに似ていて。

フレンは、一瞬よぎった考えを、しかしあり得ないと打ち払う。

「ギルド天狼闇屋。私たちのエースに、何の用だったのかしら?」
「こりゃいい女だな。こんな汚い所にわざわざこいつの迎えとは、愛されてんじゃねえか」
「あら、敵に褒めてもらっても嬉しくないわ。でも、私に免じて質問くらいには答えてくれてもいいのではなくて?」
「そうだな。でも用っつってもな。真実のお披露目ってやつだ」

何のことだと眉をひそめる。その合間を縫うように呻き声が聞こえて。
エステルが回復を終えたのか、ユーリが起き上がっていた。

「てめぇ勝手な事言うんじゃねえ……」
「なんだ、お仲間には知られたくないか?」

男はユーリを、蔑むように、愛おしむように、期待するように見下ろした。

「『お前が決める』んだろ?だったら、楽しみにしておいてやる」

ま、オレはいつでも歓迎だ。
そう言い残して、男はゆったりとした歩みでユーリ達の間を縫い外へと進んでいく。
その後ろ姿に、フレンは混乱している中でも、毅然と言い放った。

「貴方たちが、貴族殺害の犯人ですか」

男は、フレンのまっすぐな瞳を一瞥するだけで、手をひらひらと振った。
その仕草すらも、幼馴染とよく似ている気がした。











ユーリの傷の手当てを終え、一行はヘリオードに宿をとった。
アジトからずっと口をきかないユーリに、伺うような視線を送るだけのエステルではあったが、一番に口を開いてユーリを問い正したのはカロルだった。それも、ユーリの勝手な行動についてだけ。
こつり、と鳴らされた拳に、さすがのユーリも口が引きつって「悪かった」と謝罪する。
しかし何があったのかという問いに答えを返すことは無かった。
フレンは感じるのだ。答えなかったのでは無く、答えられなかった、と。
だから皆の居る場で彼を追い立てることはしなかったし、凛々の明星もそこはフレンに任せることに決めた。

「仲間だって事、忘れてないよね?」

カロルだけは確認するように、ユーリを見つめた。ユーリは、頷く。分かってる、悪かった。そう言って。
今までぼやけていた視界が明るくなったような気がして、ユーリは苦笑した。
カロルやジュディスの顔を、まともに見れていなかった。自分が言った言葉を、自分が信じていなくてどうする。
その安堵とも言える感情が顔に出たらしく、ほっと一息つく三人。フレンだけは固い顔のまま、ユーリを見つめていたけれど。
とりあえず休んでて、と首領の一言でその場は解散となり、カロルは仕事の確認をしに行くとジュディスと共に部屋を後にした。エステルは別の部屋をとっているので、おやすみなさい、と微笑んで出ていく。部屋には、フレンとユーリの二人だけになった。
ユーリが座るベッドに、並ぶように腰掛ける。ぎしりと軋む音が響いて、ユーリは訥々と喋りだした。

「なんて言っていいか、俺も良く分かんねぇ」
「君が言いたくない事だったら、別にいいんじゃないか」
「随分融通が利くな」
「何も君の全てを暴こうというつもりじゃないから」

くしゃり、とユーリの頭を撫でる。無意識の行動だったが、振り払われることは無かった。
横顔は明らかに憔悴しているから、無理に話をする必要は無いと考えていた。
ただ、気にかかることがあって、それをユーリに尋ねるべきかを悩む。今のユーリから、明確な答えが返ってくるとも思えない。ならば、無理にこじ開けるような真似をする必要は無い
けれど、どうしても今聞かなければいけない気がして、フレンはユーリの頭を自分の肩に預けさせ、ユーリの頭にこつりと自分のを乗せる。

「あの男は……君と、印象が良く似ていた」

手を握った。フレンから。
これから聴く事を、許してほしいと。

「何の根拠もないただの推測だ。でも、君の事は僕が一番よく知っていると思っているから」

握った手の指先が、絡み合う。
ユーリは、何かに耐えるように唇を噛んでいた。
ああやはりこの先を続けるべきではないかもしれない。

「……ごめん、忘れて」
「たぶん、そうなんだ」

何の主語もなく、ユーリが囁いた。握った指先は、異常なまでに冷えていた。

「俺だって、信じたくはない。でも、あいつが何であんな事やってるか、分かっちまう自分が……」

信じられない。
フレンにとってはあまりにも断片的すぎて、きっと理解はできないだろう。特に、後半部分は。
男の誘いに、少しでも『理解』を示しそうになってしまった自分に、吐き気がする。
俯いて、ユーリはフレンの胸に額を押し付けた。泣きそうなほどに瞼は熱かったけれど、込み上げてくるものは決してそんな綺麗なものじゃない。
フレンは、ただユーリの好きにさせていた。
彼の気が落ち着くならば、それでいいと。

ユーリの言っている事の半分は、自分の理解の及ばないところだったけれど。
ただ、自分にだってユーリに伝えられることがあった。
仲間である事がユーリの心の支えになっている凛々の明星は、何があったってユーリの事を見捨てたりしない。
だから自分に役目はもっと別で。
ユーリにとって、フレンという存在が、

「君の隣にも、背中にも、僕が居るだろう」






(君はいったいいくつの悪夢を見ればよいのか)

*****
ミズアキ様へ捧げます。
この、試行錯誤がうかがえる感じ、すみません…!
リクエストに沿うことができているでしょうか?
書き甲斐のあるむずかしさに、自分の力量が及んでいない気がしてなりません…
少しでも楽しんで頂ければ恐縮です><
これからもどうぞよろしくお願いいたします!