ラブ・キッチン
*フレユリ幼少でほのぼの
*フレンの両親が出張りすぎてて…口調とか捏造です。
*結太様のみお持ち帰り可
この頃の下町では、騎士ごっこよりも魔導士ごっこが流行っているらしい。
果てさて身近にいる騎士から一転、なぜ魔導士がそんなに脚光を浴びたかと言うと、先日帝都のすぐ近くを魔物の群が通過するという事で、アスピオの魔導士が帝都派遣された事が発端だ。
下町というのは、例えばギルドの巣窟であるダングレストの子供たちがギルドに憧れるように、一応は騎士という職業に憧れ目指すものである。やがて、騎士の中にも『悪い奴』と『良い奴』が子供なりの基準で存在し始めて、それは実際その通りでもあるし、だからこそ憧れは現実を見る目へと変わり、曲がった虚像ではない騎士団を捉える目を養うことになる。
まあそんな堅苦しい事は置いておき。魔導士というものを直接目にする機会の少ない帝都では、特に帝都の防衛線の外に弾かれる下町にとって、魔物の群よりも珍しい魔導士がやってきたのだ。
目深に被ったフード、いかにも怪しげな風体、しかし繰り出される魔術は火であったり水であったり。
万年水不足、食糧不足に悩まされている下町民にとって、魔術とは騎士よりも遠い憧れであり現実味の無いものだった。
これが使えたら、と思う人はいても、実際に使えるようになった人間はいない。
その素養も無ければ、教える人も、研究をする人もいない。
そんな暇があるならば、働くなりなんなりして自分の生活を何とかしなければならない。
子供にも大人にも共通にあったその考えは――しかし、子供たちの間ではしっかりと『遊び』として実現していた。
それが魔導士ごっこへと繋がった、という事である。
例に漏れず、下町の悪がきとして有名なユーリも、そのうちの一人であった。
騎士を父に持つフレンは、自分の父親こそが憧れであり騎士という職業以外になりたいものなど考えられなかったから、最後までそのごっこ遊びで魔術士を希望することは無かったけれど。
騎士と魔導士が連携して、魔物を倒す。
そんな他愛もない遊びが、下町で流行っていた、ある日の一コマ。
目下、ファイナス・シーフォの悩みは息子の食わず嫌いであった。
魚料理然り、野菜然り。好物がハンバーグというのは男の子らしいから良いとしても、さすがに野菜嫌いというのは成長においても何とか克服させなければいけない。
妻と一緒になってあれこれと試行錯誤してみたけれど、なかなかに手強い意地っ張りはフォークに刺すことすらしない。
「うーん…」
騎士の休日というのはなかなかに貴重で、久々の家族との時間を満喫している最中。
ソファの上でうんうんと唸っている夫に苦笑しながら鉢植えの花の手入れをしている妻。
悩みは共通して息子の事だ。しかし、より悩んでいるのは夫の方で、妻はいずれは食べるだろうから今は好きにさせればいいのにと言っている。
「いや、でもやっぱりなぁ…」
男たるもの野菜ぐらい食べられなくてどうする!と叱ってみたはいいものの、更にへそを曲げてしまい今のところ部屋に籠っている。
父親として失格かなぁ、と肩を落としながらも、いやだが息子のためを思うならここで挫けるわけにはいかないと鼓舞してみたり。
ああ、息子って難しい。
「おじさん、なにそんなに落ち込んでんだ?」
「ぉおう!?ユーリ、いきなりびっくりするじゃないか」
「ちゃんと挨拶して入ってきたよ」
おじさんが気付かないだけ、とこの頃の歳にしてはませた口調で事実を淡々と述べるのは、息子の友達のユーリ。
性はローウェルというが、宿屋の女将とハンクスさんが名付けたらしい。
下町の子供の中でも特にフレンと仲の良い彼。最近はよく遊びに来ているから、フレンを呼びに来たのだろうか。
「フレンか?」
「うん。遊ぼうと思ったんだけど、とりこみちゅうってやつか?」
「無駄に大人びた言葉使わなくていいぞ。取り込み中じゃなくて、あいつが拗ねてるだけだよ」
「拗ねてる?なんかしたのか?」
うーん、とファイナスは首をひねった。
ここで正直に言っても別に悪いことは無いだろうが、別にユーリに言ったからといってフレンの野菜嫌いが改善されるわけではない。
ユーリの好き嫌いの無さにはファイナスも感嘆するものがあるので、ユーリに言ってもらってもいいのだろうが…
「やっぱり、ここは親子としての解決を…」
「結局フレンとは遊ばない方がいいのか?困ってるんだったら、なんか手伝った方がいいか?」
「そうね。ユーリ君、今魔術のお勉強してるって聞いたのだけど」
ユーリの質問を遮る形で入ってきたのは、隣で二人の話を聞いていた妻であった。
ユーリの前までやってきて、目線の高さを同じにするように屈む。
「うん。勉強は嫌いだけど、まじゅつってやつを使えたら下町のみんなの手伝いになれるような事ができるかと思って」
「それじゃあ、魔術のお勉強に負けないくらい下町のみんなに役に立つこと、教えてあげるんだけど、どうかしら?」
「ほんとかっ!そんなのあるの!?」
ええ、と笑う妻の顔は、もう天使のようにかわいらしい。
かわいらしいのに、どこかしてやったりと言わんばかりの笑みに見える気がするのはなぜだろうか。
そんな事を考えつつ、妻に連れられて外に出ていくユーリの後姿を眺め、一体何を始めるのかなぁと天井を見上げた。
***
おいしそうな香りが鼻孔をくすぐる。
扉を閉めていても漂ってくるそれに、もぞもぞと動き出す布団の中からひょこりを金色の物体が顔を出した。
そわそわとしてしまうのは、その香りがあまりにも空腹の意識を誘うものであり、でも父親と喧嘩をしているから下に降りたくないという葛藤からくるもので。
降りたいお腹すいた、でも降りたくない。
ぐるぐると考えているうちに、お肉の匂いと一緒に大好きな母親の声が扉の向こうからやってきた。
「フレン?寝てるの?」
「……起きてる」
「あら、起きてるじゃない。もうお昼ご飯にするけど、降りてこない?」
「……」
「残念ねぇ、今日のお昼ご飯はユーリ君が作ってくれたのに」
ユーリ、という名前に一瞬にしてベッドから跳ね出る。
がたんと音を立てて開かれた扉の向こうには、母がエプロン姿で笑っていた。
「ほら、冷めないうちに頂きましょう?」
「……ユーリも、一緒に?」
「ええ」
なんたって、と母はぱちりとウィンクをする。
「今日のお昼ご飯は、ママとユーリ君の合作なんだから」
妻がフレンを起こしに行っている間、ファイナス・シーフォは彼女のあまりの言葉巧みさに感心していた。
目の前に並べられたのは、野菜を細かく砕いて形を分からなくしたカレー。
いつもはごろごろと大きな芋や人参が入っているが、今日は芋と肉が原型をとどめているだけで、他のものは全てほぼペースト状になっている。
それもこれも、全てユーリのアイディアだった。
妻曰く、魔術の勉強と同じように、色々なものをかけ合わせたりする柔軟な能力が料理には必要である。
妻曰く、その大事な根本の部分を学ぶには、まずは料理で実践してみるのが早く上達する。
妻曰く、料理ができると大事な人や大好きな人に、すごく喜んでもらえる。
妻曰く、すると嫌いだった魔術の勉強も大事な人へに頑張ってもらえるステップになる。
あまりの強引な論理に思わず絶句したものだが、当のユーリが納得してしまったので第三者の身としては何も言えない。
というか、何も言うなと無言の圧力をかけられている気がする。
結果、ユーリの料理の腕は子供ながらに素晴らしいものであるという事が証明された。
この際魔術とか関係なく、この子はもしかして料理が特技の一つに入るのではないかと思ってしまうほどに。
できあがったカレーは、もちろんそのほとんどは妻が作ったものであるけれども、野菜を細かく切って時間をかけて煮込むという発想はユーリによるものだった。
ユーリとしては単純に、食べられないなら分からなくすればいい、という事らしい。
肉を少し多めに入れて野菜の存在を感じさせなくすれば、フレンも喜ぶんじゃないか、と。
「これはもう、才能だな……」
しかもユーリが作ったという事実が少しでもフレンの自尊心と好奇心をくすぐったのなら、食べるだろうという事で。
あえて野菜を入れたという事には触れず、ユーリが作ったという点を強調する。
ユーリ本人は、魔術の勉強の一環だと本気で信じているあたりが子供らしくて微笑ましいが、それは違うだろうと訂正する機会はきっとないだろう。本人が気づくのを待つしかない。
「ユーリ、お前、またうちに料理しに来い」
「いいの?」
「もちろんだ。うちのに存分に教えてもらえ」
そうこうしているうちに上から妻と一緒に姿を現したフレンは、ファイナスの顔を見ると少しだけ顰め面をしたけれど、ユーリの姿に嬉しそうに隣に駆け寄っていた。
「これ、ユーリが作ったの?」
「あ、まぁな。おばさんの手伝いしただけだけど」
「すごいや、ユーリ」
おとなしく席に着く二人。妻が隣に座る。
いただきます、と行儀よく挨拶をして、フレンは大好きなカレーとたくさんのお肉と、見当たらない野菜に目を輝かせた。
一口食べて、さらに目の奥まで輝かせる。
「おいしい!」
「うん、うまい」
フレンの素直な感想に、ユーリも満足そうにスプーンを運ぶ手が躍る。
「おいしいわね。やっぱり、野菜を煮込んだのは正解ね」
妻のその言葉に、フレンの肩がぴくりと反応した。
え、今言っちゃうの?という夫の動揺は知らんぷりのまま、彼女は更に言葉を続ける。
「ユーリ君のアイディア、やっぱりいいわぁ。またおばさんのお手伝いしてくれない?」
「いいけど。邪魔じゃなかったら。楽しかったし」
「ね、フレンも、ユーリ君のご飯美味しいわよね?」
ここでユーリの名を使うとは。
ファイナスの冷や汗を余所に、フレンはじっとカレーを見つめてスプーンを口にくわえたまま固まっている。
「……フレン、やっぱり、美味しくなかったのか?」
上目遣いの心配そうな、不安そうな顔。
フレンが、ユーリのそんな表情に、否を返せるだろうか。いや、返せないだろう。俺の息子だし、とファイナスは心の中だけで苦笑する。
「…おいしい」
「そっか、良かった!」
ユーリがあまりにも嬉しそうにフレンに笑うものだから、フレンも後に引けなくなったのだろう。
野菜が入っているはずなのに美味しいそのカレーに、意地を張り続けるのも無理というものか。
スプーンですくって、一口二口。
おかわりまでして完食。
ぐりぐりと頭を撫でつけると、フレンは少しだけ嬉しそうに俯いた。
(フレンの野菜嫌い、なおって良かったな)
(あら、ユーリ君が作ったものをあの子が嫌だなんていう訳ないじゃない)
(………フレン、頑張れ)
*****
結太様へ捧げます。
フレユリ幼少なのに、ほとんどフレンパパの話でしたすみません。
最初の魔術の説明はいったいなんだったのか…笑
ほのぼのした感じに仕上がっているでしょうか…?楽しんでいただければ光栄です。
これからもどうぞ、当サイトをよろしくお願いいたします!