あの頃の僕達に必要だった事

*フレユリでほのぼの
*未宇様のみお持ち帰り可






「久しぶりだというのに、君はまた…」
「おーフレン。ちょうどいいところに」
「ちょうどいいところに、じゃないだろう!」

人の気も知らないで、といくら怒鳴ったところでユーリはけろりとした顔で手を上げる。
顔色は良いし、体調に問題は無いと言っていたテッドの言葉は違っていない。
だが、今ユーリがこんな場所―一般的に病室と言われるところ―に居るのだから、心配にもなる。
その上、服から覗く肩から脇腹にかけてが包帯で覆われている。
大怪我ではないらしいが、血相を変えてやってきたこっちの身としてはこのへらへらとした出迎えにイラッともくるわけで。

「…無事そうだな。僕は仕事に戻る」
「連れねぇなあ」
「君が井戸での作業中に落ちたというから急いで駆けてきたんだ」
「そりゃご苦労さん。で、ちょっと頼みごとがあるんだけど」
「それなのに君は……頼みごと?」
「ああ」

フレンは怪訝な顔を隠すことなくユーリを見つめた。
ユーリの頼み事など、厄介事と同義か逆にこちらが心配してしまうような酷い何かなのか。
滅多に頼み事などされないから、どちらか測りかねる。

「嫌なら言えよ?」
「何をそんな前置く必要があるんだ、君らしくない」
「うるせ。ちょっと確認したいだけだよ」
「だから、一体何が言いたいんだ君は」
「あーだから…」

ユーリは、どうしようかと首をひねる。
頼み事とか言っておいて渋るとはどういう意味だとフレンが問う前に、思い切ったように口を開いた。

「ちょっと、俺の事抱きしめてみろ」
「は?」

即答だ。ユーリらしからぬ言葉を聞いたような気がする。というか、それしか聞いていない気がする。
フレンの反応はもっともだとユーリも思ったのだろう、そうだよな、と頭をかいた。

「あー、やっぱ気にすんな」
「…なんだろう僕は仕事に疲れてるのかな。ユーリ、ちょっともう一回言ってみてくれるか」
「なんかお前のその反応ムカつくな!言わねえよ!」
「そう言わずに」

もう一回言われれば、もしかしたら内容を理解できるかもしれない。
フレンは至って真面目に申し出てみたつもりだったが、ユーリは顔を赤くするどころかもう面倒くさいとばかりに不機嫌だ。
これはつまり照れているという事だろうか、と思ってはみるが、やはり先程の頼みが衝撃的過ぎる。

「君の口から信じられない言葉が聞こえた気がする」
「覚えてんじゃねえか!もう言わないさっさと仕事戻れお前」
「せっかくの貴重な機会だ。もう一回」
「さっきと同じ反応だろどうせ」

どうやら、間髪入れずに返した「は?」が気に食わなかったらしい。
もうしないから、と諌めれば、ユーリはじっとフレンを見上げて手を広げる。

「ほれ」
「僕は犬か…」
「二度目はあるが、三度目は無いぜ」
「それは貴重な機会だね」

ユーリの頭を抱きかかえるようにして腕を回す。そういえば甲冑を付けたままだから、もしかしたら痛いかもしれない。
とフレンが思っていたところ案の定痛かったのか、ユーリがフレンを引きはがした。
脱げ、と命じられるままに仕方ないなと装備を外して、もう一度抱きしめる。
今度は、息が服を通して感じられるくらい、強く。
ユーリの腕もフレンの背に回っていて、抱き締めてほしいと言ったのは本音なのだなと実感する。
あまりない。ユーリがこんな風に甘えることは。
それは誰に対してもそうであるから、別段フレンだけという訳じゃない。
でも、最近は会ってもなかったし、下町に居るという話は聞いていても会いに行くには忙しさに期を外していた。

十分堪能するべくユーリの黒髪に手を差し入れてフレンはそっと撫でる。
口づけを落とし首の後ろに手を置いて、もう片方は頭を抱えるように。
ユーリは静かに上下するフレンの胸にずっと額を置いたまま。
子供が親の鼓動を探る仕草に似ていて、フレンはくすぐったさに眉を寄せる。
困ったようにではなく、慈しむように。

何かあったのかもしれないが、あえて問うことはせずに、ユーリの包帯の原因を考えてみた。
井戸を修理していた時に落ちたと聞いた。落ちて気を失って、急いでひっぱりあげられたら全身怪我だらけだったと。
掘ったばかりの井戸だったから、強度だってしっかりはしていないし、おそらく滑車か何かに捕まった拍子にそれごと落ちたのだろう。
幸い深さは大したことなかった事と、下の方は穴が広めに作られていたおかげで、挟まれるなどの情けない事態にはならなかったようだが。

いい加減息も苦しいだろうとユーリの背を叩けば、目が覚めたばかりの瞳でユーリは笑った。

「あー、やっぱお前っていいな」

あったかい、と感心する様に、本当に子供みたいだとフレンは苦笑する。
もともとフレンの方が体温が高めなのだ。幼い頃から、抱きしめるのはフレンの役目だった。

「で、この頼み事の理由は聞いてもいいのかな」
「大した理由じゃないさ。忙しい団長様はもう帰らなくていいのか?」
「こんな君は滅多にお目にかかれないから、どうせならもう今日は帰らないって選択肢もあるかもしれない」
「やめとけ、俺が殿下に大目玉くらっちまう」

例え下町でも、天然殿下はフレンの居場所をしっかり掴んでそうだ。
ユーリは常々そう思っていて、案外フレンはそのあたりを分かっていないようだ。
ヨーデルはフレンの事を心から信頼しているし、頼りにしているからこそ、意外とユーリには厳しい。

「ありがとな、フレン。ほら、帰った帰った」
「随分じゃないか。じゃあ僕の頼み事を聞いてくれ」
「やなこった!」

これはもう喋る気はないのだろう。
悪戯をしている子供のようだ。さっきからユーリの事を子供としか表現していないくらいには。
らしくないと言うよりも、なんだか幼い頃にでも戻った気分になる。
はた、と部屋の窓から下に目が行った。


幼少の頃。暗く狭い部屋。水の音。包帯。
気が付いて一番にしたこと。


既視感だった。

「なるほどね」

フレンは一人納得して、不思議そうな顔に微笑んだ。
今度はフレンから手を広げて、ユーリを迎える態勢をとる。

「…どうしたんだ、お前?」
「ほら、僕の胸に飛び込んでおいで」
「お断りだ!」
「そう言わずに」

ね、とフレンは待たずに自分からユーリをぎゅっと抱きしめた。



*****



暗い水の音の中、僕たちは身を寄せ合っていた。
ユーリは水の音が嫌いだった。
潜在的な恐怖だと言っていた。只の水の音ではこうならないから、おそらく暗いという環境も影響しているのだろう。
フレンの体温に縋って、その暖かさに安心すると笑っていた。
随分と昔の事だし、今はもう覚えてもいないかもしれないけれど。

ユーリがフレンを頼りにしてくるのは、いつも彼にとって漠然とした不安が押し寄せてきた時だった。
明確な恐怖には強くても、形の無い忍び寄るような闇に怯えない子供はいないけれど。
フレンの傍にいれば、何も怖くない。抱きしめて抱きしめられて、頼ってくれて嬉しくて。

「…ユーリは、変わらないね」
「そうか?」
「僕も変わらないけれど」
「そうそう変わる奴もいないだろ」
「だね」

でも、こうやって甘えてくれるのもたまにはいいな。
爽やかな笑顔でさらりと恥ずかしい事を言うフレンを、こいつこそ変わってないと思いながら。
ユーリは、フレンの柔らかな金髪が視界いっぱいに閉じ込めて、呟いた。





(俺がお前を必要としてるとき、いつだってどこからでも、お前はやってくるんだ)


*****
未宇様へ捧げます。
甘い…甘い…と精一杯心の中で呟きながら。甘くなってるか…ほのぼの…ギャグになってるような気も…(汗)
リクエストありがとうございました!楽しんでいただければ光栄です。
これからもどうぞよろしくお願いいたします!