橄欖石、踊る欠片

*フレユリinディグレでほのぼのシリアス
*kikki様のみお持ち帰り可






黒装束は、葬送のためか、闇に身を隠すためか。
物陰に隠れて、気配を消す。AKUMAから放たれる血臭が、まるであたりを焼く強烈な炎のごとく強烈だ。
黒髪を一つに束ね、両手で日本刀を構える神田。
黒髪を下ろし、日本刀をまるで曲芸師の様に片手で操るユーリ。
対照的な戦闘スタイルでありながら、同じ武器にイノセンスを宿す二人。
先に動いたのは、神田だった。

駆け抜けた勢いのまま一閃した刃の軌跡はAKUMAの体を貫き、半円状の爆発を起こす。
その中、中腰姿勢のまま神田の横をすり抜けて、ユーリの刀が更にその奥のAKUMAを屠っていく。
ウィルスを受けることの無いように、巧みに敵の攻撃を避けては背後にまわり、倒す。
身軽なユーリだからこその戦法だ。
神田も無言で刀を振るい、次々と敵を切り伏せていく。

「…おい」

残りもあと少しになったころ、神田が不意に口を開いた。もう後は、油断さえしなければすぐに終わる数だ。
ユーリは短く、「何だ」とだけ返す。

「足手まといは御免だ」

それだけ言い捨てるのと、神田が最後の一体を消滅させるのは、同時。
返り血を浴びた二人は、敵の残骸の中、荒く息をする。
あたりを見回しても、もう敵の気配はない。
ちらりとだけ神田がユーリを目の端に留め、踵を返した。
どうやら帰るということらしい。
敵の血を吸い込んだ団服を握りしめて、ユーリは乾いた息を吐く。
ばれてんなぁ、と苦笑して神田の後を追った。



*****



白い扉をくぐると、薄暗い教団本部の空気が体を包みこむ。
蝋燭だけが光源の部屋にあるのは、意味の分からない魔法陣が描かれた壁画と、その前に立つ数人の鴉。
まるで監視されているかのような気持ちの悪さを感じて神田が舌打ちする。しかしその空気も、わらわらと二人に近寄ってきた同じエクソシストの仲間の声で一変した。

「ユーリ!」
「神田、おかえりなさい!」

フレンとリナリーは、一目散に駆け寄って二人を労う。
神田より数歩後ろを歩いていたユーリは、二人に手を挙げてにこやかに「ただいま」。対照的に神田は、むすっとした顔のまま通り過ぎようとする。
しかしリナリーに腕を引かれてそれも叶わず、心の中で舌打ちした。

「ユーリ、怪我はないかい?」
「大丈夫だって。ったく、お前もいい加減抱きつくなよ」

臆面も恥ずかしげもなくユーリに抱きつくフレンに、ほとほと呆れたという表情でユーリはその背中をぽんと叩く。
入団当初から二人はこんな様子なので、見慣れた光景にリナリーが嬉しそうに笑う。

「フレン、ユーリのことすっごく心配してたものね」
「くだらねえ…」

二人の、もはやじゃれついているとしか思えない光景に神田は溜息がため息をつくと、それに対して軽い声がたいして咎める気もないゆるさで神田を咎めた。

「フレンはユーリが大事なんだから、そんなこと言うなよー」
「馬鹿兎…と、モヤシか」
「何度も言うようですが、モヤシではありませんよ」

にこやかな笑顔の裏に黒い何かを背負ったアレンと、その後ろでひきつった笑みを浮かべるラビもやってくる。

「よ、お疲れさん」

ラビの声に、ユーリも片手をあげて返す。
いい加減離れろよ、と邪険に頭をはたかれて、ようやくフレンの腕がユーリから離れた。
その様子に、アレンは仕方ないですよねぇと言いながらじと目で神田を見上げる。

「同行者が神田だと、フレンも心配になりますよね?」
「おいモヤシ、てめえどういう意味だ」
「そのままの意味ですよバカンダ」
「ユウもアレンも、久しぶりなんだから喧嘩はなしなし」
「そうだよ二人とも!」

ばちばちと何故か神田とアレンの間で火花が散るのを止めたラビは、ふとユーリの腹部が目に入って、少しだけ瞠る。

「ユーリ、それ、怪我してるんさ?」
「は?」
「ちょ、ユーリ!怪我してるのか!?」
「だっ…!フレンっ、お前こんなところで脱がすな…!!」

力任せに腕を取られて、思いきり団服をめくり上げる。
すると、シャツに滲む赤い色が、じわじわとその面積を広げているのを見て、フレンはぐっとユーリを掴む手に力を込めた。

「君は…っ、相変わらず怪我を」
「た、大したことないんだって」
「それは君が決めることじゃない」

強引に医務室に連れて行かれそうになるのを察したユーリは、フレンの手を退けてアレンに必死の視線を送る。
ユーリの助けをしたくとも、先にフレンを擁護したのはリナリーだ。

「ユーリ、怪我してるなら医務室に行った方がいいわ」
「ほら、リナリーもそう言ってるし」
「だから大丈夫なんだよ!そこのお前らも、なんか言え!」
「いやぁ…まあ、君の怪我ですから」
「大人しく傷は治した方がいいさ〜」
「くそっこの裏切り者め…」

まったく援護をするつもりが無いらしい二人に、ユーリがアレンを睨む。
ちなみに、以前の任務でアレンとユーリが組んだとき、怪我したアレンを責めるリナリーを助けたユーリが、同じことをアレンに求めているという事に、アレンは気付いている。
気付いているのに、自業自得と言わんばかりに肩をすくめるのだ。
この悪魔め、と内心で毒づく。
ユーリは最後の頼みの綱とばかりに神田の隣に歩み寄った。

「とりあえず俺は、報告に行かなきゃなんねーの!それに次の任務もあるからな。ほら、行くぞ神田」
「……」

やりとりを面倒くさそうに眺めていた神田は、ユーリに促される間もなくすたすたと歩き始める。
その後ろ姿、すぐに扉の奥に消えて見えなくなった。
呆然と二人のやりとりを眺めていたラビは、はっと我に返る。

「…あれ?あの二人ってあんなに仲良かった?」
「さあ…別に仲が良いとか悪いとかいう問題でもない気がしますけど。それより、ユーリさんの次の任務って、確か単独でロシアの方じゃなかったかな…?」
「…ったく!相変わらずあいつは…!」

フレンも我に返ったのか、ユーリの消えた扉をきっと睨みつけたかと思うと、カツカツと苛立たしげに扉の向こうに消えて行った。
ユーリの後を追ったのだろう。眩しい金髪の残像だけが部屋に残った。
ラビとアレンは顔を見合わせて、くすりと笑う。

「相変わらず仲いいさーあいつら」
「僕より六つも年上とか、たまに忘れますよ」
「…アレンさん、それ、どういう意味?」

さあどういう意味でしょう、とにこやかに白髪を揺らして、リナリーに体を向ける。

「それじゃ、リナリー。僕とラビは、これから任務なので」
「いってくるさ〜」

緊張感の欠片もないラビの声と、暖かくて優しいアレンの声。
眩しい扉に消えていく背に、リナリーはありったけの気持ちを込めて見送った。

「いってらっしゃい、アレン君、ラビ!」







報告を無事に終えたユーリは、いつの間にか姿を消した神田の代わりに、いつの間にか隣にちゃっかりと陣取っているフレンに連れられて医務室への道を歩いていた。
薄暗い廊下は夜の静けさに包まれて、二人以外に人影はない。
先刻、コムイ室長への報告中に次の任務を言い渡されたユーリであったが、怪我を理由に出発の延期を認められたのだ。神田もまた単独任務に赴くこととなり、既に準備を始めているのだろう。
別れ際に、フレンには聞こえない所で「さっさと言っとけ」と釘をさされた。お前に言われる筋合いはないと言い返そうかとも思ったが、結局苦笑しか浮かべることはできず、今こうしてフレンに腕を引かれている。
なんだかんだ言って、この仲間たちの言葉に逆らうことはできない。

「…ユーリ」
「ん?」

その仲間たちの中でも筆頭でお節介な幼馴染は、蒼い瞳の中に月光を揺らめかせて、ユーリを見つめた。
優しげに微笑む顔を隠す髪が邪魔で、フレンの手が伸びる。そっと前髪をよけて、目じりを指先でなぞった。

「――おかえり……無事で、良かった」
「ああ…ただいま、フレン」

フレンの手に、ユーリの手が重なった。





(この聖戦の中で、君と離れることがどれくらい、僕の心を削っているだろう)
*****
kikki様へ、フレユリとティーンズでディグレパロをお送りします。

タイトルの「橄欖石(かんらんせき)」は西洋でいうペリドットになります。8月の誕生石ですね。
宝石言葉で「ひねくれ者の純情」。いい感じに好きな言葉です。

リクエストありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いいたします。