マスカレード・パラダイス

*フレユリでハロウィンネタ
*エステル・ヨーデルが天然出演
*モコモコ様のみお持ち帰り可






帝都ザーフィアスは、なぜだか妙に盛り上がっていた。
ユーリは、凛々の明星の面々とは数日ほど別行動で依頼を受けていたこともあり、この数週間は帝都に寄っていない。
久々にフレンの顔でも見に行くかと運動(戦闘)がてら街道を歩いて下町についてみれば、何やら家の前に南瓜、蝋燭、意味の分からない置物など。
全ての家に、というわけではないが、妙にオレンジ色やら黒色やらで統一されたそれらが異様な雰囲気を醸し出していて、思わずあたりを見回す。
別の街じゃないよな、と宿屋を確認するが、やはり自分の知っている下町のようだ。
南瓜は特に何をするわけでもなく家の前に置いてあって、丸々一個ならかなりの高級品にもなりそうだが。
一体何が起こっているのだろうか。この数週間の間に。

疑問に思いつつ、とりあえず寄るだけの下町を後にして市民街へと昇る。
そこにも、下町に比べればかなりの頻度で、南瓜が置いてあった。
こちらは更に甘いお菓子を焼く匂いや、子供が白いマントのようなものを付けて駆け回っている。

「…俺の目は、おかしくないよな」

思わず自分で自分に聞いてしまった。

結局、貴族様が住んでいる町はいつも通り素通りしたが、遠目から見る分には市民街と同じくらいからそれよりも豪華だろうということは推測がつく。
なんだ、帝都には何があったのだ。
その答えを聞く相手は何となく城にいる様な気がして、これまたいつも通り、フレンの執務室に続く木に飛び乗る。

―窓の中の人物と、ばっちりと目があった。

窓があいていなければ、カロル直伝のピッキング技術がお披露目できるところだったのだが。
待ち伏せされていたかのようなタイミングに、思わず動きが止まる。
じっとその相手を見つめれば、この数か月で精巧さを増したはずの男前の顔が、綻んで嬉しげに微笑んだ。
窓を開けて、爽やかな金髪が風に揺れる。

「ハッピーハロウィン、ユーリ!」

抱き寄せられたついでにキスをされて、思わず蹴り飛ばした。






「今日は、ハロウィンですから」
「はろーうぃん?」

なんともまた、理解不能な名前が出てきたものだ。
ユーリはエステルの部屋に置いてある飴を頂戴しつつ、何故か黒いマントに帽子、そして装飾が施された杖を手にしているエステルを見遣る。
どうやら城全体が何かしらの変装をしているようで、先ほどすれ違った騎士は甲冑の上から良くわからない紋章が刻まれた札が貼られていて、お祓いでもされたかのような様子だ。
城の中には、部屋ごとに蝙蝠やいわゆる「お化け屋敷」を模したシールが貼られており、可愛いを通り越して溜息すら出てきそうだ。
一体帝都に、いやこの城に、いったい何が降臨したのだというのか。

脳内でぐるぐるとその原因を考えていたユーリに構わず、エステルは続ける。

「はい。えっと…確か、お化けや悪魔、有名人に仮装して街を歩いて、お菓子をもらう行事だそうです」
「なんか楽しそうだな」
「お菓子を入れる袋は髑髏の顔にくり抜いたかぼちゃで、合言葉が…『トリック・オア・トリート』?」
「なんだそりゃ。呪文か何かか?」
「『お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ』ってことらしいです」
「ふーん」
「家に帰ったらかぼちゃの中に蝋燭を入れて家の前に置くと、死者が集う門への扉を開けて悪霊が子供を襲わないようにするみたいです」
「…ボンオドリってやつの時も思ったけど、なんでこう平和そうでいて不気味なのかね」

思わずため息である。
由来はまあ分かったが、それなら一体どうして、こんな行事へと発展したのだろうか。
エステルに尋ねれば、それはですね、と前置きをされて。

「ヨーデルにお話ししたところ、楽しそうだからみんなでやってみますか、と言ってくださったんです」
「あの天然殿下なわけね、つまりは…」

よく騎士あたりから苦情が来なかったものである。
貴族はまあ道楽の一環と考えているだろうし、お菓子を作って子供を歩かせるといういたってシンプルな行事だから、国の予算がどうこうという面倒くさい問題にもならなかったのだろう。
しかも、皇帝と姫様発案だ(この場合、逆に何の効力も発揮してないような気もするが)。

「それはそれは、ずいぶんと帝都は平和だな」
「はい。せっかくの行事ですし、下町の皆さんにも参加してもらおうと思って、私とフレンがお菓子を配りに行くんです」
「へえ。まあ、フレンならやりそうだな」

何しろ下町出身として、大いに下町の活性化に力を注いでいるフレンである。
下町の英雄と呼ばれるほどの知名度だ。彼からお菓子をもらいたいと思う子供はたくさんいるだろうし、おそらくフレンの事だろうから、お菓子の一つや二つ…

と、そこまで考えて嫌な想像にたどり着く。
お菓子。
手作り。
フレンの手作りお菓子。
方程式としてはおよそ最悪の部類である。
思わずエステルをばっと振り向いて、自分の想像が正しくないことを証明しようとしたその時、タイミングよく扉を叩く音が響いた。

「エステリーゼ様、失礼してもよろしいでしょうか?」
「え…はい、大丈夫です」

失礼します、と礼儀正しく扉を開けて一礼したフレンの目に映ったのは、なぜだかエステルに迫りよるユーリの姿。
なっ、と言葉に詰まり、かつかつと歩み寄ってユーリをエステルから引きはがした。
それを、フレンが自分からエステルを遠ざけようとする行為だと解釈して、ユーリは「何もしてねえよ」と腕を振り払う。
エステルは、そんな二人を一歩下がってくすくすと笑った。

「いや、そんな事よりフレン。お前まさか、自分から手作りお菓子プレゼントしようとか考えてないよな?」
「は?いったい何の話を…」
「ほら、今日の午後、下町に菓子を配りに行くんだろ?」
「ああ…それね。うん、エステリーゼ様と行くつもりだけれど」
「その菓子だよ。流石に城の調理人に任せてあるよな?」

もしくはエステルでもいいけど。
付け加えられた名前にむっとした顔をするフレンの真意はともかく、かなり大事な問題だ。死活問題に等しい。
しぶしぶ分かっているよと言った体で、フレンはおおげさに肩を落とした。

「お菓子は、城の調理師に任せてあるよ。大したものは作れないけれど、気持ちはこもっているから」
「ふふっ、楽しみですね。フレンの仮装もぴったりですし」

エステルは踵を返すと、卓上にあった書類をフレンに渡した。
どうやらフレンはこれを取りに来たらしく、ありがとうございます、と礼をしてユーリの腕を引っ張る。

「ちょ、何だよお前」
「エステリーゼ様、ユーリをお借りしますね」
「ええ。あ、でもわたくし、これからヨーデルの所へ行かなければなりませんので」
「わかりました」

ユーリが置いてけぼりの会話を上辺でしつつ、フレンもエステルもにこにこと笑いあう。
甚だ状況が呑み込めないが、逆らおうにも意外に強く握りしめられた手が離れることはなく、今度はユーリがしぶしぶとフレンの後に続く。

エステルと別れ、フレンの自室へたどり着いた時には、放り投げられるように部屋に連れ込まれて思わず抗議の声を上げた。

「今日はやけに扱いが荒いな」
「そうかな。いつも通りのつもりだけれど」

手甲を外し、無造作に机に置く。
どうやら今日の仕事は終わったらしく、エステルから渡された紙以外に書類らしきものは見当たらない。
先ほどフレンの部屋に入った時は良く見ていなかったが、どうやらハンガーにかかっている黒い衣装らしきものがフレンの仮装のようだ。
なんだろうかと興味深げに眺めていると、いつの間にか近くまで来ていたフレンの顔が、ぐいと寄せられる。
距離が短い。

「なんだよ」
「これくらいだったよ」
「何が」
「さっきの。君とエステリーゼ様の顔の近さ」

それだけで、フレンの言いたいことはピンとくる。
まったく、呆れるほどの独占欲だ。

「お前それ、普通は俺に対して怒るところだからな」
「そうかもね……僕の仮装、何だと思う?」
「その黒いやつだよな?」

うん、と頷いてフレンの顔が遠ざかる。
と、今度は隣に腰掛けた。
フレンの指が自分の髪をゆっくりと解いて、首筋を撫でる。
思わず身を震わせると、くすりと笑ってフレンは手を退けた。

「さて、なんでしょう?」
「…さあな」
「つれないなぁ」
「あ、でも、せっかくだからドンみたいな格好しても面白いんじゃね?」
「…それは流石に怒られるし、色々と駄目だろう」
「はは、それもそっか」

軽く笑って流すと、フレンは突然ユーリの首筋に唇を寄せる。
歯を立てるように柔らかいそこを唇で挟んで、すぐに離した。
びくりとユーリの体が跳ね、とっさに首筋を抑える。
フレンを見れば、にんまりといった笑顔で「わかった?」と尋ねた。

「……セクハラ男か」
「違うよ、吸血鬼」
「きゅうけつき…?ってあれか、幽霊みたいなやつか?」
「厳密に言えば違うらしいけどね。おとぎ話では結構よく出てくるみたいだよ」
「俺の記憶が正しければ、確か吸血鬼って、タキシードに長い犬歯とかじゃなかったか?」
「身も蓋もないけど、まあ間違ってはいないよ。でも、どうやら顔に包帯を巻くらしいんだよね」
「…あれだな、怖さの演出ってやつか」
「そういうところは鋭いね、ユーリは」

楽しくないなぁと不貞腐れるフレンに、何が楽しいんだよと返せば。

「続きは、帰ってからね?」

その続きの内容に、思わず顔が赤くなったのは言うまでもない。


夜の時間帯に入る、数十分前。
下町に繰り出したエステル、フレン、そして何故かユーリも一緒に、お菓子を配り歩いた。
ユーリは特別仮装はしていないが(様々な思惑の元、聖騎士衣装に着替えさせられそうになったのは余談だ)、お菓子を作ることでほぼ免除を勝ち取り、あくまで二人の護衛を兼ねた随伴人として収まっている。

とりっくおあとりーと!と声高にお菓子をねだる子供達に、エステルは天使の衣装にぴったりの笑顔でお菓子を渡し、フレンは恐ろしいほどに似合う吸血鬼の衣装に身を包んで、どうぞと丁寧にカボチャバッグに入れていた。唯一口元と目元だけ空いている。
吸血鬼というより、ただの包帯紳士である。似合いすぎて怖いくらいだ。唯一、伸びた犬歯だけが吸血鬼らしさを醸し出しているが、子供たちにしてみれば包帯男には違いないので問題ないだろう。要は仮装ができていればいいのであろうし。

そんなこんなで時間も過ぎ、そろそろ帰ろうかと言い出した時、見慣れた一行が姿を現した。

「あ、エステルー!!」
「ふふ、かわいいわね」

カロル、ジュディス、そしてその後ろからリタもやってくる。
どうやらカロルとリタがマントを付けているあたり、このイベントに参加しているようだ。
素直にお菓子頂戴、とエステルにせがむカロルとは違い、リタは恥ずかしそうである。
フレンをつっついて、リタに声をかけてやれよと耳打ちした。
するとフレンは、ゆったりとした足取りでリタに歩み寄り、紳士然と礼をする。

『御嬢さん。お困りならば、わたくしが助けて差し上げましょう』

「うわっ、フレンノリノリだね」
「カロル…小声でな」
という会話が成されているのは、リタとフレンには聞こえない。

『ほら御嬢さん、何がそんなに怖いのですか?』
「こっ、こ…」
『お菓子でもいかがですか?それとも、この包帯を取って差し上げ』
「怖くなんてないわよっ!スプラッシュ!!」

ざばあ、と頭上から降ってくる水をもろにかぶるフレンに、ユーリはお腹を抱えて笑い出す。
エステルとカロルはおろおろと、ジュディスも楽しそうに微笑んで、当のリタはぜえはあと荒い息のまま顔を赤くするのであった。





「まあ災難だったな。どんまい」
「まったくね…大丈夫、君で温めてもらうから」

*****
モコモコ様へ捧げます。
書いていたらどんどん楽しくなりました…
リクエスト内容にちゃんと添えているか不安ですが><
甘いところはちゃんと出せたかと思います。
リクエストありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いいたします!