仰ぐ深淵

*アレユリ、ユーリ総受けシリアス
*リクエスト「ユーリ誘拐もの」
*本編の途中にかなりの捏造が含まれています。
*凪様のみお持ち帰り可






「ヨーデル様の信頼を裏切るのですか!?」

フレンの声が、廃墟に虚しく消えていく。
アレクセイの不審な動きを追ってきた先ではユーリ達もアレクセイと相対しており、予想が当たっていたことに唇を噛む。
見れば、エステルとレイヴンもいない。
信じられないと問う叫びに、アレクセイは憐れみを込めた嘲笑を送った。

「ヨーデル殿下…ああ、殿下にもご退場願わないとな」
「ばかな…っ」

嘲笑うアレクセイはフレンを一瞥すると、その視線をついとユーリへ向けた。
2年前、騎士団にいた頃はそれなりに頼もしく、未来を見据えていた瞳は暗く濁った朱色を帯びていて。
ぞくりとするような鋭い視線に、ユーリの背中を汗が伝う。

「マイロード。準備が整ったようでーす」

この場にはいない筈の人物の声は、小高い丘の上から降ってきた。
はっと全員がそちらを見ると、紺服が透き通るような青空を背に立っている。

「イエガー!」

カロルは、驚きの声をあげてその人物の名を呼ぶ。
イエガーまでもがアレクセイに組しているのか、と目を見張る一行に、アレクセイはやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。

「ご苦労。では、私は予定通りバクティオンへ行く……いや、その前に、やるべきことをやっておかねばならぬな」

愚か者の道化は、十分に役割を果たした。
ならば、もうここでやるべきことは無いだろうと踵を返そうとしたが、己の考えに待ったをかける。
やるべきことはもう一つ。そしてそれがさらなる絶望を与え、どれほど彼等を襲うだろうか。
己の計画には直接必要のないことだが、保険を掛けておくことは悪くない。
アレクセイは懐から取り出した聖核を宙に浮かべた。

「それ…聖核!?」
「大きいわね…それをどこで手に入れたの?」

訝しげに眉をひそめるリタとジュディス。

「そんなことはどうでもいいだろう。代わりと言ってはなんだが、面白い余興を見せてやろう」

アレクセイの言葉通り、掲げられた聖核が徐々に光を帯び始める。
何が起こるのか、と自然と武器を持つ手に力が入り、アレクセイの動きを注視した。

アレクセイは、ただそこに黙って立っているだけ。
何かしらの術式に反応している聖核だけが、美しい筈の翡翠色を陰らせ、異様な存在感を放っている。
――数秒、経ったその時だった。

見下すかのように全員を見下ろしていた瞳が、ユーリだけを捉え、その口元が笑みに歪む。

「ユーリ!!」

背筋を走った悪寒に、フレンも一瞬の違和感を覚えたのか、ユーリを突き飛ばそうと腕を伸ばす。
ユーリもまた危機本能の赴くままにその場から飛び退こうとしたが、一瞬遅れた判断に隙が生まれる。
ユーリを包み込むように、円形の術式が浮かび上がった。

「ユーリっ」
「ちょっと、何のよこれ!?」

反射的にアレクセイを睨みつけたフレンは、持っていた剣を構え直してアレクセイに斬りかかった。
俊足と言わんばかりの攻撃に、しかしアレクセイは己の剣を構えることなく、聖核を眼前に掲げ強烈な閃光をフレンに浴びせる。
ぐっ、と唸り声をあげてフレンは後退し、再びその場で構え。
背後では、カロルがユーリを囲む術式を叩きながら名を叫び、リタはじっとその術式を眺める。
ジュディスは槍を構え、フレンと同じく戦闘態勢に入っていた。

「どういうつもりだ、アレクセイ!」
「余興だよ。保険、とも言うべきかな?」
「ユーリを離せ」

くくく、と含み笑いが響く。
聖核がさらなる光を放つ。アレクセイはそれを握り潰すような動作と、パチンと指を鳴らした。
それと同時に、ユーリを囲う術式が空間に歪み、その姿を消していく…ユーリと共に。

「ッ、ユーリ…!」
「――…!?」

縋っていたカロルの目の前、振り返ったフレンの先で、ユーリが消え去る。
辺りを見回しても、その姿は見つからない。

「空間転位ですって…!?」
「どうしてそんな――」

仲間たちの混乱の中、フレンはきっ、とアレクセイを睨む。穏やかな青が、苛烈な光を帯びた。

「ユーリはどこだ」
「みすみす教えてやるのも面白くないだろう?」

頑張って探したまえ、と始終笑みを浮かべたまま、今度こそフレン達に背を向ける。
こらえきれない笑い声が響きわたり、フレン達を残したままアレクセイはその場を後にした。



* * *



揺れた視界。身体が一回転したような浮遊感に思わず目を瞑った。船に酔う感覚に似ていて、くらりとした眩暈に頭を押さえて辺りを見回す。
どうやらどこかの執務室のようだ。薄明かりが点いてはいるが、カーテンが外光を遮断して時間は判別できない。
そこでユーリは、自分が術式に囚われている状態であることを認識して、舌打ちをした。

「くそっ…」

生憎、リタやエステルならともかく術に関しては門外漢だ。
どうすればこれから逃げられるか、せめて術を破ることはできないか。
考えても思い浮かばない打開策に術式を殴りつけようとした時、がちゃりと扉が開いた。

「――どうやら、目が覚めたようだな」
「…ってめぇ…アレクセイ!!」
「そう怒鳴らないでくれたまえ」

歪んだ笑みは変わらず、まるで子供を諭すような口調でユーリの眼前に歩み寄る。
術式の中、宙に浮いた状態のユーリは頭一つ高い所で、アレクセイを見下ろす。

「そう警戒しないでほしい。君は、私の忠実なる人形となるだけだ」
「誰がそんなもんになるかよ」
「それは残念だ。君のその力を、ぜひとも我が野望に使わせてもらいたい」
「…お前、何言ってんだ?」

どうやらアレクセイは、自分を使って何かを企んでいるようだ。エステルもまた同じだろう。
だが自分は、エステルのようなエアルに干渉する能力を持っているわけでもない。いたって普通の、人間のはず。

「君は、自分がどこで生まれどのような血筋なのか…疑問に思ったことはないかい?」
「はぁ?そんなもん、普通に下町で…」
「君の母は、列記とした皇族の血筋だ。相当前に、分家として別れた方だがね」
「なに……?」

唐突な話題に、思考がついていかない。
それはつまり、自分がエステルと同じ、ヒュラッセインに連なるものだと、アレクセイは言っているのだろうか。
そんな、それは。

「冗談も休み休み言え。俺が皇族?ホラ話にも程度がある」
「信じられないだろうが、事実だ…私も君を調べていて、まさかその事実に行きあたるとは思わなかった」

心底驚いたと語るアレクセイの目は、本気だ。嘘をついているようには見えない。
だが、、そんなことを突然言われても信じろと言う方が無理な話。
ユーリは吐き捨てるように否定の言葉を口にした。

「そもそも俺には、エステルのような大層な力があるわけじゃない。お前が俺を使って何をしようと…」
「なるほど。言葉で説明するよりも、実際に体感してもらった方が分かりやすい、ということかな?」

ならば、とアレクセイは手に持っていた、ユーリを捉えた時と似た形状の聖核に手を掲げ、何か操作を始める。
先ほどの事もあり、ユーリは警戒に眉を寄せ――どくり、と波打つ心臓に身体を強張らせた。
身体の奥から何かが突き破って暴れ出すような、自分でコントロールできない気持ちの悪い何か。
自然と息が荒くなり、囲う術式に縋るように手をついて身体を支える。
どこからかも分からない、得体のしれない力が四肢の末端まで走りぬけるような、感覚。
自分の体から飛び出て、精神力や体力を奪っていく。

「君は、姫様のような膨大なエアルを自在に操る、真に満月の子の力を持っているわけではない。君の中には、ただ膨大なエアルがどこからも干渉されないまま蓄積し、そして今以上のエアルを蓄えることができる。 まさに、満月の子のコピーのような存在だ」

苦しさに胸を押さえるユーリを見上げ、アレクセイは歓喜と狂気の混じった声で続ける。

「私の知識、そしてこの聖核で、君のその力を存分に有効利用してあげよう」

にやり、と音に聞こえそうなほど口の端が上がる。
それを視界の端にうっすらと捉え、顔を上げようと試みる。が、一際大きな動悸が襲ってきて。
ぐらりと足から力が抜けるままに、膝をついた。

「ぅっあぁ……」
「君の力をそのままにしておくには勿体ない。さあ、決めるといい」

呼吸が荒くなるにつれ、視界に霞がかかる。
このままではいけないと思うのに身体は言うことを聞かない。
せめてこの術式から出れれば、と思考のどこかが判断するが、目も開けていられないような鈍痛に再び思考は停止する。
ユーリは、せめてもの抵抗にアレクセイを睨みつけた。

仕方がないなとばかりに大仰に空を仰ぎ、アレクセイは手元の聖核を操作する。
すると、ユーリはぴくりと息をつめ、目を見開いて。

「はっ、……ぁ」

焦点を失った瞳がゆるゆると閉ざされ、くたりと身体が弛緩した。
取り囲む術式も、ユーリの身体に吸い込まれるようにその紋様が集約していく。
完全に意識を失ったユーリの身体は、術式が消えると同時に床に倒れ伏すようにしていて。

それを見つめていたアレクセイは、やがてその深い赤瞳を紅に変えた。
さて、どうやって趣向を凝らそうか。
その身体を、エアルを蓄積して放出するだけの機械にしておくつもりはない。
操り、仲間たちと闘わせるのも一興。
その時は、自分の親衛隊服を着せようか。絶望に瞳を染める凛々の明星の面々を思い浮かべると、笑いが止まらないようだ、と。

「楽しそうではないか…なあ、ユーリ・ローウェル君?」

ユーリを抱き上げて、次に彼が目を開けた時の暗く深い深淵の瞳を想像した。





(それはなんと甘美な美しさであろうか)
*****
アレクセイ…お前…口調がわからないよ…!
と呟きながら書きました。アレユリ?アレユリ…だ、大丈夫ですよねアレユリですよね?
深夜テンションで変な方向に話が曲がらないように自制しました。アレユリって一歩間違えるとなんか危険だと言う事を認識。

凪様のみお持ち帰り可です。
凪様、リクエストありがとうございました^^遅くなってしまいすみません。
これからも、当サイトをどうぞよろしくお願いいたします!