cry for you
*フレユリでシリアス
*リクエスト「フレン・ユーリラスボス化」
*メア様のみお持ち帰り可
まるで闇の中にうずくまった子供みたいだと、フレンはその背を抱きしめた。
黒くて冷たくて、凍りついてしまいそうなその背中。
いつもは、細い髪がするりと指をすり抜ける感触が好きでたまらないのに、それすらも零れ落ちていく様に酷い焦燥を覚える。
水面に映った月が夜の闇に溶けていくように。
月に照らされた星がその寿命を終えて消えてしまうように。
君が僕の隣から遠く離れてしまうのだったら、この世界を敵に回すなんて苦ではなかった。
ずっとお互いを支え続けてきた誓いは、切り捨てるにはとても重く、だからこそ心のどこかに溜まった黒い染みのように広がり。
重荷ではないこれを、何と形容すればいいのだろう。
理想を追いかけていった先で何も掴めなかったような、挫折感。
理想を追い求めていった先で遠ざかっていく、虚無感。
理想を砕くには十分すぎる現実を目の当たりにした、焦燥感。
結局自分には、大事な彼の背を守るだけしかできなかった。
理想を追い求めて、それを叶えるだけの力を努力を以て手に入れた、大事な大事な幼馴染。
一緒にいた時間よりも、離れていて、衝突した時間の方が長かったのに。
隣にいるよりも、その背を預けて預けられて。
後ろを振り向くなんて柄じゃなかったから、お互い前を見て生きてきて。
だから自分の根幹は、彼が前を見るために必要なことをする、というそれだけ。
――どうして、と問うのは誰に対してだろう。
星喰みが覆う空を前に、人間の愚かさに同じ人間である自分が断罪を与えようなんて間違っているのは分かっている。
四半世紀も生きていない自分が、こんな決断をしてしまう矛盾と理不尽さも。
それでも、この世界を、皆が生きていて、フレンが守ろうとしている世界を守るためには。
こうするしか無かったのではなくて、自分がこうすれば良いと思った。
「……フレン」
風のないこの場所で、しかし声は反響し、一つの呟きすら逃さずに相手へと届いた。
見慣れたユーリの後ろ姿に、やっと見つけたという安堵と、辿り着いた決意を告げる想いとが湧きあがる。
呼吸すら響きそうな空間で、フレンは口を開いた。
距離は、開いたまま。
「探したよ、ユーリ。君が消えてしまって…ずっと、皆探していた」
「悪かったな」
探さなくても良かったのに、と言外に潜んだ言葉に、フレンは眉を寄せた。
「…どうして君は、そうなんだ」
「……」
「何もかも背負おうとする。君一人が、この世界の犠牲になる必要がどこにある?」
「犠牲だなんて…そんな大層なもんじゃない」
ただ、明日が欲しいだけなのだ。
自分の大切な人たちが、笑って生きていける明日が。
そのためには、今の世界ではだめだ。このままでは、いずれ人は同じことを繰り返す。
「繰り返させるのは、腐った人間たちだ」
より良い明日を求める人はたくさんいるのに、それを阻むのは今生きる人間。
自らの利益に固執して、人を人とも見ない輩。それを罰することのできない制度。
全ての因果は絡まって、旧い体制の悪い側面のみが受け継がれてさらに肥大した結果の、現在。
――どうしてを問うのは、有形無形の世界に対して。
「君はいつも、たくさんの人を守りたいと願ってる」
「俺は、そんな博愛主義じゃないぜ?」
「君の瞳に写るのは、僕には見えない人たちだ。僕一人の力だけじゃ、到底叶えられない未来の半分は、君が居てくれたからこそ描けるものなんだ」
まるで光と影のようだと称される事を、厭ったことは一度もない。
そうありたいと願ったのは、まぎれもない自分たちだから。
「僕にとって、僕の隣は君の場所でも、君にとってはそうじゃないんだろう?」
「……」
無言は肯定か、否定を紡ぐ沈黙か。
探るようにお互いを見つめて。ユーリの黒い瞳が、フレンの蒼い瞳が、交わされる。
視線を逸らすことはしない。互いが何を考えているのか、手に取るように分かる時じゃない。
きっとフレンなら、ユーリなら、そう考えて考えを巡らせて。
口を開いたのは、ユーリだった。
「…あの時の誓いは、忘れちゃいないぜ」
「そうか」
「だから、そのためには世界を変えるべきだと思った。この世界を構成する人間を」
「そうか」
「傲慢だよ…俺だって、アレクセイとなんら変わりない」
エステルを物扱いしたアレクセイを許すなんて、到底できない。
だから、アレクセイとは別の道で、世界を変える方法を目指した。
星喰みを倒して、人々が笑っていられる世界を作るために。
そのための犠牲に選んだのが、自分の命だけじゃ足りなくて。
ユーリは、思ってしまったのだ。
暗い部分がその想いの赴くままに告げてくる。
「どうせなら、この世界にとって必要ないと思える人を道連れにしてしまえばいいじゃないか」、と。
「――俺は、最低だ」
ラゴウやキュモールを殺した時以上に、暗く染まった塊が心の奥深くに溜まっていく。
「…そんなことないよ」
ユーリは、はっと顔を上げた。
交わされた筈の視線はいつの間にか逸らされていたことに気付いて、意識が引き戻される。
ユーリにとって光を体現したようなフレンは、苦笑と共に言葉を続けた。
「君がいなくなって、気付いたんだ。僕にとって、世界と天秤にかけても、君の方が大事だってことを」
その方が最低だと思わないかい?と肩をすくめて、フレンは二歩、ユーリとの距離を縮める。
「結局、君との誓いは、僕が君の隣に立つ理由を何とかして得たいと思っていたからなんだ。世界とか大事なものとか、全部、君一人の前には取るに足らないもので。
僕は、君が世界に敵対するなら」
一度、そこで言葉を区切った。
ユーリの黒曜石のような深く夜海色の瞳が、陽の光を浴びて輝く様を切り取ったフレンの碧眼を見つめていた。
彼に笑い返して、フレンは心の底から愛おしい名を呼んだ。
「僕が、ユーリの味方になる」
僕が、ユーリの望みを叶えてあげる。ユーリが僕の背を守ってくれたように。
「なっ…」
絶句するユーリに歩み寄って、フレンはその身体を抱きしめた。
大の男二人がするにはあまりにも幼い、どこか切なさを覚える包容を。
しかし、ユーリはフレンの腕の中で身じろぎしたかと思うと、ぐっとフレンの肩を掴んで引き剥がした。
「お前っ…言ってる意味分かってんのかよ!?」
「勿論だよ……僕も、この命を捧げる」
「駄目だ、絶対に駄目だ!!何のために、俺がこんなこと考えてるんだと思って…っ!」
「君を一人になんてさせない。君だけが背負わなくていい」
それは、信頼する仲間と敵対するユーリが、たった一人で背負おうとした罰。
命を奪うならば、いつか自分の命を絶たれる覚悟を決めていたから。
自分勝手な考えに、フレンをつき合わせる気はなかった。
「俺は、俺がこうするべきだと思ったんだ!お前が死ぬ必要なんてない!!」
「だったら、僕も僕の好きなようにさせてもらうよ。僕が、僕自身の心で判断したから、此処にいるんだ」
決心は固いのだと、フレンの瞳は告げていた。
居た堪れない気持ちと、やり場のない怒りのような悲しさに、ユーリはフレンに背を向ける。
大好きなフレンの瞳に、こんな想いをぶつけられるなんて、不甲斐無さすぎる。
…フレンが隣に居てくれることに、少なからず安堵をおぼえてしまう自分への嫌悪も。
背を向けてしまったユーリを、フレンは再度抱きしめた。
今度は背後から、優しく。まるで闇の中に蹲っている子供を、出てきても大丈夫だよとあやすように。
ぬくもりを分け与えて、どうか自分の言葉を受け入れてくれますようにと願いながら。
やがて、ぽつりとユーリはつぶやいた。
「おまえは、ばかだ」
「そうかもしれないな」
少なくとも、ユーリに関しては馬鹿になれる気がする。
そう思っただけで口には出さず、一層強く抱きしめて、ユーリの耳元で囁いた。
「だから、僕だけはずっと、君を離さないよ」
誓いよりも何よりも、君が傍にいる方が大事なのだと。
光と影のように、君がいなければ、僕は生きている意味なんて感じないんだ。
(かつての仲間たちと敵対するなら、僕が、俺が、裏切りものになる)
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リクエスト、「フレユリでラスボス化」をお送りしました。
ええもう、皆様の想像力任せな感が^^
二人ともラスボスって、どんなシチュエーションだろうなぁと考えながら書きました。
リクエストに…沿えてる、よな?←
メア様のみお持ち帰り可です。
メア様、素敵なリクエストありがとうございました!これからも当サイトをよろしくお願い致します!