きっとどこかに居るあなたへ
*フレユリ♀で現パロ
*リクエスト「ユーリが小さい頃に離れ離れになったフレンを探すためにアイドルをしている話」
*ユーリの性格が若干違います
*神無月様のみお持ち帰り可
「大きくなっても、ずっとユーリと一緒にいたい」
「…俺も」
「離れ離れになっても、きっと僕が君を探すから」
幼い頃の約束。確認し合うように互いの手を握りながら。
今思えば他愛もない口約束にすぎなかったけれど、今日までもその約束は、自分の根幹を作っていて。
「俺だって、フレンのこと探す」
「じゃあ、約束だね」
絡めた小指。
太陽みたいな笑顔で俺の名前を呼ぶ、大事な大事な人。
幼心に焼きついた、暖かな光に包まれた大切な記憶。
スポットライトに照らされた世界に、憧れは無かった。
煌びやかな服も望まなかったし、化粧もできるだけ自分らしさを残して整えてもらって。
長い黒髪はあいつが大好きだと言っていたから、特別に気を使って、でも結うことはしないで。
テレビの向こうでも、コンサート会場でも、できるだけあいつが俺を認識できるように。
「ユーリ、準備は大丈夫?」
こんこん、と扉を叩く音と次いで聞こえた声は、マネージャーのジュディス。
年下だが、女性同士の気配りや人の感情を読むのがうまい。仕事を強制することもないし、俺の事を考えてスケジュールを組んでくれる。
それに何より、俺がこの仕事を続けている理由を知って理解し、協力してくれている。
「おう」
「あと五分だから、舞台裏に」
「了解、ジュディ。今行く」
女の割には乱雑で、男性にも引けを取らない素の口調でいられるのはジュディスの前と、オフの日だけだ。
収録中の時だけは女性らしくしなさいと言うだけで、それをジュディスは許容している。
こんなに我儘と矛盾だらけの中で、それは一体どれほど幸せなことだろう。
でも、それは自分にとって至上の幸せではない。自分にとっての幸せを文字通り『見つける』ために、ユーリは立ちあがった。
ユーリは、一般的に言われる『アイドル』の仕事をしている。
高校を卒業したあと大学に進学するつもりもなかったが、親のいないユーリは何かしら手に職をつけるなり、稼ぎがなければ生活していけない。
義務教育までは周囲に親代わりがいたために世話になっていたが、流石に高校生にまでなって負担をかけるつもりはなかった。
その時、偶然に偶然が重なって、とある道端で声をかけてきた男に連れて来られた場所が、普通の高校とは少し異なる『アイドルの養成学校』。
アイドルといっても様々で、歌手やモデル、女優に果てはグラビアアイドルと呼ばれる者まで。それぞれの望む道を目指すために日々努力を積み重ねている場所。
今までの人生に、縁もゆかりもない世界に飛び込む形となった。
そこに足を踏み入れて、ユーリが選んだ職は、モデル。
180近い長身と、少しばかり男に寄った中世的な顔立ち、長い手足と首、腰まである艶やかな黒髪。
清楚でありながらミステリアスな雰囲気を持つユーリはモデルとしては申し分なく、ファッション雑誌からビジネスマン向けの情報誌、会社の広告など、そこらの芸能人を上回る美貌を存分に発揮した。
モデルは、人付き合いはあっても、さっぱりとした関係性を築ける職場に所属できたこともあり(何故か妬む人は少ない)、仲の良い友人ができるなどおおむね良好な人間関係。
着慣れない服でのポーズに悪戦苦闘することはあっても、運動神経と平衡感覚が幼い頃から優れていることもあってすぐに撮影に入ることができ、現場の人間にも受けが良かった。
そしてそれなりに楽しい職場に慣れつつあった1年目、半年ほど経ってユーリは事務所から、モデルだけではなくテレビに出演せよ、と言い渡されたのだ。
『本日のゲストをご紹介致します。結成一年目にしてシングル5枚目の発売、本日その新曲を披露してくださいます……』
お茶の間に流れている映像とは逆、セット舞台の後ろから、次々とアーティストが階段を昇った先にその姿を見せては観客から拍手と歓迎の悲鳴が上がる。
今日収録の、某有名音楽番組に参加するアーティストの中に、ユーリの知り合いはいない。
登場も一番最後だ。列の一番後ろに控え、自分の名前が呼ばれるのを待つ。
そもそも、ユーリはアイドルとは言ってもテレビに出ることを望んでいたわけではない。
テレビに出て、作り笑いやら話を合わせるのが好きではなかったし、テレビに出てしまうと収録時間やら打ち合わせやらで、自分の自由時間が減ってしまう。
まだ20代も入ったばかりとしては遊びたいし、テレビに出ることによって注目を浴びるのもあまり得意ではない、むしろそれが嫌でモデルというある意味認知度に偏った職業を選んだのに。
でも、ユーリがどうしてもやりたいこと、叶えたい願いに一歩でも近づくためには、テレビに出ることは一番の近道であることを知っていたから。
嫌でも何でも、やるしかないと腹をくくった。
『――本日ラストを飾るのは、中性的な美貌と雰囲気を兼ね備えた期待のニューアーティスト、Yuri(ユーリ)!』
わあぁ、と歓声が上がる中、ユーリはぐっと腹に力を込めて眩しいステージライトと暑さを感じるほどの照明と熱気の中に足を進めていく。
『First Single、"Ring a bell"はオリコン初登場で1位を獲得した切なくも力強いメッセージソング。どのような想いを込めたのか、その由来にも注目です』
由来?由来なんて、そんな大層なものじゃないとユーリは一人ごちた。
ただ、会いたい人がいるだけ。その人にこの歌が届けば、きっとまた会えるのではないかと願っているだけ。
幼い頃離れ離れになった彼を探すためなら、嫌いなことだってなんだってやってみせる。
それが、自分が今ここにこうして居る理由。
――自分が彼に誓った、約束だから。
* * *
お疲れ様でしたと出演者通しの挨拶が交わされる中、颯爽と桃色が機材の合間と人混みを縫って揺れ、目的の黒髪を見つけると駆け足でその後ろ姿に抱きついた。
「おわっ」と口から洩れた声は女性らしさの欠片も無いが、唐突なタックルにも足と腰に力を入れて踏みとどまることで転倒を防ぐ。
まるで飼い主に縋りつくハムスターのような少女は、ぎゅっとユーリを強く抱きしめると、満足したのか腕を離して一歩距離を取る。
「ユーリ、お疲れ様でした!」
「お疲れさん。ってゆーか、どうしてお前が此処にいるんだよ」
危うく転ぶところだった、と愚痴ても、少女は照れるように笑うだけで。
悪気が差し込む余地もないほどの純粋な笑顔に、まあこいつはこういう奴だなと早々に諦めをつけて、先程まで話していた出演者に別れの挨拶を済ませて少女を伴い楽屋に戻る。
「んで、どうしてここに?」
「隣のスタジオで、収録してたんです。終わって隣を見たらユーリが居たので、ずっと聞いちゃってました」
「『ました』って…まあいいけどよ」
「ユーリ、すごく綺麗でした。撮影の時のユーリも素敵ですけど、歌っている時もまたちょっと一味違う感じです」
「一味違うって…それ、意味分かって使ってるかエステル?」
少女――エステルは両手を顔の前で合わせて、何がそんなに嬉しいのかはにかんで。
果たして聞いているのかいないのか、大丈夫です、とよく分からない答えを返した後、不意に心配げな瞳でユーリを覗き込んだ。
先ほどまで喜色で花が咲くようにうきうきとしていたのに、突然の変化に目を丸くする。
「どうかしたか?」
「えっと…。お探しの方は、見つかりました?」
恐る恐ると、でもしっかりと尋ねた彼女に、ああその事かと肩に入っていた力を抜く。
身構えていただけに、内容がすとんと胸に落ちて、エステルの心配も感じて。できるだけ笑顔で、ユーリは言った。
「まだ、だな」
「そうですか…」
「ま、気長にやるわ。続けてたら、いつかは届くって信じてるからな」
「そうなんです?」
「闇雲に探すよりも、こっちが探してるってちゃんと伝えなきゃだしな。あいつなら、きっと分かってくれる」
その前に自分が此処にいることを知ってもらわなければ、意味がないけれど。
苦笑して、まるで自分の事のように不安げな少女の頭にぽんと手を置いて。
優しく撫でれば、少女も少し安心したように頷いた。
エステルは、同じ事務所の先輩にあたる。年齢はユーリより三つほど若いが、小さい頃から子役として活躍しているため歴は断然ユーリより長い。
ユーリを姉のように慕い、またユーリ自身も無条件の好意を寄せてくるエステルを妹のように可愛がっていて。
人の醜さや卑怯さを垣間見ることもあるこの世界で、親も友人も恋人もいて、奇跡と言えるほど純粋に育った少女を、とても好ましく思っている。
ユーリが何故この世界に身を置いているかを知る数少ない人のうちの、一人でもある。
その純粋さでもってユーリの『恋人探し』を応援しているエステルは、機会があればユーリに尋ねてくるのだ。
フレンに会えましたか、と。
フレンは、いわゆる幼馴染だ。
ユーリとは違い両親に恵まれていたフレンは、ユーリをよく家に招いたり兄妹だと言いながら一緒にいた。
実際は誕生日から言えば姉弟だが、それを訂正してもフレンの中には兄妹でいたいという妙に頑固なこだわりがあるらしかったので、最終的には兄妹に落ち着いたが。
ずっと一緒にいた、といっても過言ではないほど二人は行動を共にし、まるでフレンはユーリを守る騎士のようだとか小さな恋人たちだとか言われたが、どれもユーリにとっては嬉しい称号だったので、
言葉に出すことはあまりなかったがいつまでもフレンの傍にいたいと思っていて。
フレンと離れ離れになったのは、まだ10にもならない幼い頃。
突然、正しく忽然と姿を消したフレン。探しても、子供であったユーリにはどうしようもなくて。
それ以来、口約束でしかない一つの約束を胸に、ずっとフレンを探している。
正直、ユーリはこの世界で本当にフレンを探すことができるか確信が持てていない。
これは、自分が探しだすと言うよりも、相手に探し当ててもらう、という手法だから。
でもいつかは、きっとフレンなら、と。根拠もないが、心の支えにしている不思議な確信で。
何もしないより、絶対に前に進んでいるから。
「くれぐれも、無理は禁物、です!」
「わかったわかった」
もう、と頬を膨らませる少女を宥めて、次の仕事があるというエステルの背を見送った。
* * *
「約束、か…」
まったく女々しいな、と女性の身でそんなことを思いながら、ユーリは事務所の扉を開けた。
(余談だがユーリの口調や思考が男らしいのは、言葉を覚える幼少時に、周りにいた人間がみんな男だったためである)
こじんまりとした事務所兼休憩部屋は、今のところユーリがくつろげる唯一の場所。
以前にストーカーに付きまとわれた経験から、自宅よりも事務所の方が安全なのである。
入口近くに設置された、いわゆるファンレターの箱の中身を手に取り、目を通し始める。
インターネットが普及した現代でも、昔ながらの手書きを好む人も多く、こうやって事務所には毎日、何らかの手紙やら小包やらが届く。
小包に関しては危険性を考慮して手を触れないが、手紙に関しては一度検査をする人間が安全性を調べた後のもの。
それらの裏面、差出人の住所と名前に、望んでいるものはなく、ユーリは溜息をついて肩を落とした。
――わかってはいるが、先は長そうだ。
「あら、また彼からの手紙は無かったの?」
「んー…そーみてー」
奥から顔を出したのは、ジュディス。
彼女にも、フレンの事は話してある。
「残念ね。でも、今日の番組は全国放送だわ。…明日には、もっとたくさん来るんじゃないかしら?」
「そんなかにフレンのがあればな…」
フレンが、ああいった歌番組を見るかも分からない。
昔から妙に古めかしいものが好きというか、現代っ子とは少し年代の異なる真面目さがその性格に含まれていた彼だから、最新の音楽情報番組など勉強の妨げにしかならないとか思っているかもしれない。
あまり興味がなかったらどうしよう…とマイナス方面に向かった思考に頭をかくと、隣でくすりとジュディスが笑った。
大方、かわいいわねとか思ってるのだろうとユーリは踏んで特に反応は返さないまま、手に持っていた手紙を箱にしまい直した。
「えっと…明日はなんだっけか」
「午前に、ルービースタジオで雑誌の表紙の撮影。午後は今のところ、大きな予定はないわね」
「了解。じゃ、明日に備えますかね」
時計を見ると、既に夜中の11時を回っていて。
うーん、と背伸びをして、幼い頃のフレンの姿を思い浮かべた。
幼い笑顔、太陽の光を受けて輝く光みたいな金色。青空よりも澄んだ瞳。
自分の歌が、音が、彼に届けば。
(いつか、いつかきっと)
*****
神無月様、リクエストありがとうございました!
リクエスト頂いた神無月様のみお持ち帰り可です。
シリアスほのぼの風味でお送りしました。
悩みました。フレンを登場させるか否かで…
登場バージョンも考えはしたんですが、そうすると、ユーリの心情描写が薄くなることに気がついたんです。
なんか、それはリクエストの趣旨に合わないのでは、と思ってカットしました。
もしフレンの登場を望んでいらっしゃったら…
神無月様、ごめんなさい(土下座)
もし、「私はフレンにも登場して欲しかったんじゃぁあ」ということでしたら、言ってくださればフレン登場の続編も書きますので!
その時はおもいっきり趣味とありがちに走るかもしれませんが、それでも宜しければ^^