そうして知った真実の先は

*フレユリ前提の凛々の明星
*リクエスト「ソディアがユーリを刺したことが凛々の明星にばれる話」
*凛様のみお持ち帰り可






崩れ落ちていく塔。腹を中心に広がる熱。ぼやける視界。反転する景色。
空を切って落ちていく感覚は不思議と脳に焼きつくものらしく、あれから何度も夢に見た。
悲しい夢でも恐ろしい夢でもない。
ただ、自分が落ちていくだけ。手を伸ばすこともなく、何かを掴もうとするわけでもなく。
死を意識する必要も感じなかった。
青空から遠退いて行く自分は、まさしく海の底深くに沈むに値する人間だと思っていたから。

だから、「自分を殺そうとした」ソディアを責めるつもりはない。
その意思にブレがあるのならば糾弾はしても、行為そのものを咎めるつもりは無かった。
彼女の意識の中にあの事件が影を落としていても、自分がそれを払拭する義務もない。
全ては、衝動的とは言え、過ぎていった時間を悔やむ不毛さを知っているから。
ソディアに刺された時んおことに関しては、お互いの中で、少なくともユーリの中では一応の決着がついていた。

それ故に、ザーフィアスを訪れた凛々の明星の面々の前にフレンが現れ、ユーリの胸倉を掴んだ時は、一体何事かと思ってしまうのは、仕方ないだろう。



* * *



かつかつと足音が自分の前で止まって、ユーリはいつも通り挨拶をしたつもりだった。
「よっ久しふり」と言えば、いつもフレンは呆れ混じりの笑いで「久しぶり」と返すのだ。
それなのに今日のフレンは、ユーリの顔を見た途端、険しく顔を歪ませて胸倉を掴み上げた。

「え、ちょ…フレン?」

突然の暴挙ともいえる行動にユーリは目を白黒させて、驚きの声を上げる。
二人の後ろでは、リタやカロル、エステルも目を丸くしていた。レイヴンはただ息を呑み、ジュディスは嫌疑に目を細める。

「おい、どうかしたのか?」

再度の問いかけにフレンは伏せていた顔をあげ、まっすぐにユーリを見つめた。
その瞳は、いつ見ても綺麗だとユーリは思う。
いつもは透き通っている青が深く暗い青に染まっていて、表情と相まって凄みを持たせていた。

「…ソディアから、聞いた」

フレンの口から出た名前に、思い当たる一つの事象がユーリの身体を硬直させる。

「なぜ。どうして、黙っていた」
「…言うほどの事でもねえし、言う必要もなかったからな」
「そんなことはないだろう。なぜ、君が彼女を庇う必要があったんだ」
「…フレン」

後ろで二人の成り行きを見守る仲間に聞かれて、気持の良い話ではない。
しかし咎めるように名を呼ぶのに、フレンはユーリの焦燥には気付かなかった。

「おかしいとは思ったんだ。あの時、血のついた短剣がソディアの足元に落ちていたことが」
「フレン」
「僕が君の下に辿り着いたとき、君の代わりにソディアがいた…そのおかしさに、気づくべきだった」
「やめろ、フレン」
「僕の甘さが、君が死にかけた原因だ」

何故、今さらになってソディアはフレンに事実を告げたのだろうか。
余計な事しやがって、と心の中だけで舌打ちすると、ユーリはフレンの肩を掴み返した。
それでも、フレンの言葉は止まらない。

「本当に、僕は馬鹿だ。ソディアが君をどう思っているかなんて知っていたのに、それを見て見ぬふりをしていただけだった」
「それは、全部俺達の問題だ。お前が考える必要なんてない」
「そんなわけないだろう!?君が――」

ああ、その続きは言わないで。
心優しい仲間たちが、こんなくだらない事を知る必要なんてないのに。

「君がザウデで行方不明になったのは、ソディアが君を刺したからだ!!」

フレンの悲痛な声は、叫びとなって響き渡る。

口元を手で覆うエステル。
何が何だかわからないカロル。
信じられないと驚きを隠さないリタ。
いつもの無表情で言葉を受け止めるジュディス。
諦めの混じったため息をつくレイヴン。
こちらも無表情だがぐっと拳に力を入れるパティ。
ユーリの隣、二人を見上げるラピード。

ついに知ってしまったか、とユーリは肩の力を落として、フレンの手を取った。

「ちょっと、こっち来い」

声色に含まれているのは、怒気だろうか。
フレンを連れてその場を離れるユーリ。彼の背に声をかけることもできず、仲間たちはただ消えていく二人を見つめるだけだった。



* * *



カロルはただ茫然と、聞いていることしかできなかった。
あまりにも唐突すぎる話題に、ついていくことができない。最初は一体何の話をしているのかさえ分からなかった。
少し、数秒ずつ時間が過ぎるにつれて、ようやく隣のレイヴンを見上げる。

「…えっと…」

言葉がうまく出てこない。ああ、こういう時こそ首領として一番最初に皆に声をかけてあげなきゃいけないんじゃないか。
二人の会話の内容を反芻するにつれて、この場の異様な空気に身体が震える。
ザウデ、行方不明のユーリ、お腹の傷、ナイフ、居る筈のないソディアの姿。
あの時の事は、正直忘れていたに等しかった。もう思い出しても仕方がないし、ユーリはちゃんと戻ってきた。
だから、ユーリが行方不明になった事を不可解に思う事はあってもその原因を探し出してまでどうこう、とまでは思っていなかった。

突然、つきつけられた答え。

「――とりあえず、みんな。此処にいたって仕方ないわ。移動しましょう」

縋るようにレイヴンを見ていたのかもしれない。
ぽんと肩に手を置かれ、見上げていたレイヴンの顔に苦笑が広がっていて、カロルは「そうだね」と頷いた。



(青天の霹靂、ってほどの事じゃ無いのは、心のどこかで納得がいくからだろうな)
目の前を歩くレイヴンの、悟ったような顔に問いかけていた。

「レイヴンは、気付いてたんだね」
「んー?」
「ザウデの時のこと」
「…うーん…まぁ、ちょっとだけね」

とぼけたような声には、痛いものを心の中に閉まっているような、そんな響きが混ざっていた。
勘のいいレイヴンのこと。きっとずっと前から、それこそユーリが行方不明になった時からその理由を察していて、隠したままでいたのだろう。
例えば自分がそのことに気付いたら、どうしていただろうか。
ソディアを責めていたかもしれない。誰にも本当の事を言わないユーリを怒っていたかもしれない。
色々な選択肢が浮かんでくるけれど、どれも現実味のないものだった。だって、今更そんなの、意味がない。
あの時は、ただユーリが居ない。そのことだけに打ちひしがれて、でもユーリならそんな情けない自分を叱咤するだろうから、せめて帰ってきた時に胸を張れるようにしていたくて。
帰ってきたユーリは、行方不明の理由よりも、星喰みに対抗するための方法を探す方が先決だと皆を引っ張っていったから。

「僕、全然気付かなかった。気付こうともしなかったよ」

ソディアが原因だと知ったからと言って、自分は何もできない。
ユーリを慰めるなんて筋違いだし、ソディアを責めた所でもう終わったことだ。
薄情な首領だと、なんだか自分が情けなく思える。

「それでいいんでない?」

しかしレイヴンから帰ってきたのは、能天気とも慰めともとれる言葉だった。

「少なくとも青年は、知らなくてもいいと思って何も言わなかったんだろうしねえ」

隠していたとか、内緒にしていたとかではなく。
目を見張るカロルに、気にするなと言わんばかりに肩をすくめレイヴンは続けた。

「吹聴することでもないし、お互いの中だけで解決できちゃったから言わなかったんでしょ」
「…でも、薄情だよ。僕は、首領なのに…」
「でもそこでユーリに謝るのは筋違いじゃない?おっさんだったら、別に気にしないでって思っちゃうけどね〜」

レイヴンの言う事も分からないではないし、ユーリだったらきっと「くだらないこと」と一蹴してしまうだろう。
それはカロルにだって予想できる。でも、もっと根本的な問題として、自分がとても薄情で仲間想いではないと感じてしまう面もあるのだ。
ユーリの秘密を全部共有したいとか、そんな大それたことを言っているのではない。
でも、今の今まで思いつくこともせず、考えようと思ったこともないなんて。

「だから、そう深く考えなさんな。ユーリがカロルに望んでんのは、そういう暗い過去を振り返ることじゃないと思うよー?」

本当にカロルには関係ない、ユーリとソディア、そしてフレンの問題なのだ。
自分たちが口を出すものでもないし、知ったからと言って関係が変わるものでもない。
(…僕が気まずい思いなんて顔に出したら、ユーリに失礼だよね)
窺うような、問う様な顔をしていれば、きっとユーリは気まずくて逆に何も言わなくなるだろう。
それは、駄目。絶対に駄目だ。だから、いつも通り接すればいい。
ユーリの過去の一つや二つ、受け止められるくらい、広い心を持たなければ。

「…そうだよね」

ありがとレイヴン、とようやく笑顔になったカロルに、レイヴンはわしゃわしゃと頭を撫でておくことにした。



* * *



「リタ姐は、特にショックを受けている様子じゃなさそうじゃの」

あのあと、散り散りになった仲間の誰についていくこともせず、リタは一人部屋に戻っていた。
宿屋の一室。女性部屋として取った部屋には、今リタとパティとエステルの三人しかいない。
リタはぼんやりと、エステルは大丈夫だろうかと考えていたところだった。

「…まぁ、驚いたのは驚いたけどね。だからって、別に私がどうこうってわけじゃないし」

リタの言う事は、もっともだった。
これは、ユーリとソディア、そしてフレンの三人の間に生じた問題だ。
もともと他人との関係を割り切って考えているリタにとって、エステルの事はともかく、三人のいざこざに首を突っ込むつもりはなかった。
パティも同じことを考えているのだろう。頷いて、どさりとベットに寝転がった。

「それにしても、わざわざ今更フレンに告げるとは、ソディアは何を考えてるのかのう…」
「何あんた、知ってたわけ?ユーリとあいつのこと」

その一言で、聡明なリタは考えるに至ったのだろう。
相変わらず頭の回転が速いとパティは思いながら、リタの質問に答える。

「知っておったよ。本人たちから聞いていたからの」
「何それ。私達はまるっきり蚊帳の外だったってわけね」

気に入らないわ、と怒るところがそことは、なんともリタらしい。
苦笑して、パティはエステルを見遣った。

どうやら懸念していたとおり、一番ショックを受けているのはエステルのようだ。
彼女のユーリに対する恋心を知らない仲間はいないだろう。
エステルのことだ。ソディアに復讐なんてバカなことを考えはしないだろうが、何も知らなかったことに対して思考が追い付いていないだろうと踏んでいた。

「エステル…どうしようにも、栓ないことじゃ」
「そうよ。あいつの油断を、別にエステルが気にすることじゃないわ」

油断。そう、油断だろう。
まさかソディアのユーリに対する憎しみがそこまでとは、誰も思っていなかった。
ユーリ自身が一番驚いたことだろう。向けられる憎しみに慣れているとは言え、それが明確な力を持って自分を襲ったことはなかったに違いない。
だから、油断していた。タイミングも、アレクセイを倒してすぐという時だった。
それを卑怯だと考えれば、それこそ意味のない怒りが湧いてくるだけ。際限のない、止めるもののない輪にはまってしまうだけ。

そう考えれば済むことなのに、エステルはどうやら違うようで。
リタとパティの言葉に立ちあがったか次の瞬間、何を思ったのか突然扉を開けて部屋を出ていってしまった。

「ちょっ…エステル!」
「エステルの好きにさせてやるのじゃ」

リタが驚いてエステルの後を追おうとするのに、パティは待ったをかけた。
エステルの気持ちに整理をつけるには、エステル自身が納得しなければ意味がない。

リタは、エステルを追うべきだとパティに反論しようとしたが、鋭い視線に何も言えずぐっと手に力を入れるだけに留めた。
エステルは、きっとユーリに直接問いただしに行くのだろう。それが間違ったこととは思えないし、エステルなりのやり方だ。
でも、ユーリの返答如何でエステルが傷つくのは嫌だった。もちろんあのユーリが、そこに意識が向かないとは思えないのだが。

「……」

エステルが出ていった扉の先を見つめる。
願わくば、優しい彼女が傷つくことのないように。



* * *



ザウデの頂上から落ちて、行方不明になっていたユーリ。
その時の恐怖も、周りの焦燥と悲壮に満ちた感情の波紋も、全部覚えている。
ユーリを探すよう指示を出すフレン。あの高さから海に落ちたのだから助からないなんて誰一人思っていなかったから、一生懸命探した。
来る日も来る日も、ただ無事に帰ってくることを祈って。
だからユーリがひょっこりと下町に現れたとき。ラピードが駆けて行った先、夜の闇に紛れたユーリの姿を見つけたとき。
胸が詰まりそうなほど嬉しくて喜びでいっぱいで…彼の事が好きなんだと、自覚した。
怪我をしていた彼のお腹の傷に疑問に思ったのは確かだったけれど、あのときはユーリが無事だったという事実だけで胸がいっぱいで。
それ以外の事はどうでもよくて、ただ目の前の大好きな人の腕の中に飛び込んで、生存を祝った。

『君がザウデで行方不明になったのは、ソディアが君を刺したからだ!!』

フレンの言葉に、あの時のお腹の傷はそれが原因だったのかと、信じられない気持ちが溢れて。
口元を覆う手がなければ、どうして、とユーリに詰め寄ってしまいそうだった。
何故教えてくれなかったのかと。何か一言でも言ってくれれば、何かができたかもしれないのに。
ユーリが傷つく必要なんて、なかったかもしれないのに。
ソディアがフレンに心酔していたのは、もちろん知っている。彼女がフレンを見る目は尊敬と誇りに輝いていて、フレンが悲しむ様な事をソディアがするとは思えなかった。

「…そ…だ……も、お……」

ユーリを探して歩いていたその時、思考に沈んでいた意識を引き上げる声が微かに届いて。
はっと顔を上げたエステルは、声のする場所を探すために息を潜めた。

「わかってる…で……」

フレンの声もする。足音をなるべく立てないように歩いていると、一つの扉の奥から、二人の声が聞こえてきた。
以前にも同じ様に、エステルは二人の会話を盗み聞いてしまったことがある。
その時の後悔を知っているのに、二人の言葉に耳を傾けている自分が、酷く愚かで情けない気がした。

「お前だってわかってんだろ。もう終わったことだ。今更あのねーちゃんを咎めるなんて、意味の無いことする必要はねえ」
「そうだ。でも、君が怪我を負ったのはソディアだけの責任じゃない。彼女を止めることができなかった、僕の責任でもあるんだ」
「っの…分からず屋!!」

がつんッ、と痛そうな音が響いて、フレンのうめき声が聞こえる。どうやら、ユーリがフレンを殴ったらしい。
あまりに大きな音に、一瞬びくりと身を竦ませるが、エステルは次いで聞こえてきた言葉に胸を締め付けられるような気がした。

「これは誰の責任でも罰でもねぇ!!あいつが何言ったのか知らねーが、俺は気にしちゃいないんだから、いい加減にしろ!!」

『誰の 責任でも ない』
そう、これは自分が立ち入って聞く話じゃない。
ユーリは優しいから、自分たちが傷つくことを考えてソディアに関しては一切の事を伏せていたのだ。
教えてくれればよかったなんて思うのは、傲慢だ。だってユーリはこれ以上ないほど仲間の事を考えているから。
誰の責任でもない。あえて言うなら、ソディアとユーリ、二人だけの間にある溝という責任。
そこに誰も巻き込む必要がないとユーリが思うのは、当たり前の話だ。

盗み聞きがばれない様に、そっと部屋を後にすることにした。
胸元を握りしめていた手にはいつの間にか力が入っていて、皴ができている。
とぼとぼと歩いていたら、見慣れた橙色の服装が視界に入って、足を止める。
先ほどまで一緒にいたリタは、とても痛そうな、探るような視線でこちらを見ていて。
エステルは、「心配をおかけしました」と微笑んだ。ちゃんと笑えているだろうか、と自問しながら。

「…あいつに、会ってきたの?」

控えめに尋ねられ、エステルは首を横に振る。
それに、そう、とだけリタは返して、そのまま二人して元の道を引き返した。
エステルの隣に並んだリタの横顔を見て、なんだかほっとする。

「――ソディアは、きっと後悔しているんでしょうね。自分がしてしまったことを」
「後悔するくらいならやらなきゃいーのに。こんな今更暴露されたって、こっちが迷惑なだけでしょ?」

その辛辣なもの言いに、エステルはそうかもしれないと思いながらも、ソディアの気持ちもわからないでは無かった。
大切な人を守ろうと思う気持ち。それが行き過ぎてしまった果ての後悔。憎んだ、憎まれていると思っていた相手に許された自分。

「それでも、ユーリはすべて許してしまうから。だから、苦しいんだと思います」

貫き通すことのできない中途半端な意思ならば、最初から持つなと。
でも、それを貫き通すためなら、背中を押すことをためらわないユーリ。自分が傷つくことを厭わないユーリ。
まるで手の届かない思想の持ち主だからこそ、苦しいのだ。認知できるのに、理解できないから。

「…とにかく。エステルが心配することなんて何もないし、むしろこんな気分を味あわせたフレンに一発やらないと気がすまないわ」

グーを握って豪語するリタに、エステルは声を立てて笑って。
そうですね、なんて肯定すると、リタもほっと息をついてエステルに笑い返すのだった。



* * *



そんな二人の少女の微笑ましい光景を遠くから見詰めていたレイヴンは、手すりに肘をついて薄く笑んだ。
どうやら少女も少年も、心配せずとも明日には普通どおり、ユーリに接するだろう。
むしろ厄介なのは、隣で笑いながら帝都の町並みを眺めているジュディスなんじゃないかと思う。

相変わらずの美貌に浮かんだ頬笑みは、正直に言って怖い。槍で後ろから刺されそうな勢いだ。それこそ笑えないが。
実際レイヴンは、ジュディスはとっくにあの行方不明事件の真相を知っているものだと思っていた。
しかし彼女の態度を見る分には、今初めて知ったか、確証に至ったかのどちらかで。
大方、何も言わずにいたユーリに対する怒りだろうが、静かに発せられる怒気に女性の底知れない怖さを覚え、とりあえずは沈黙を貫くことにした。

そして、リタとエステルの姿が見えなくなって数分。
徐にジュディスは口を開いた。

「ひどいわよね。おじさまも、パティもかしら?」
「ひ、ひどいって何が?」
「知っていたのに、言わなかったのでしょう?仲間はずれは嫌いなの、私」

どんな子どもの論理だと思わないでもないが、ジュディスにとっては、ソディア云々よりも、レイヴンが知っていたのに黙っていたこと方が腹立たしいらしい。

「ユーリも、私達の事を思ってのことでしょうけど」

癪だわ、なんて言いながら笑って細められた目は、どちらかというと呆れ混じりのものでレイヴンはほっと胸をなで下ろす。
ジュディスに睨まれるのは、いただけない。

「言ってどうこうって話じゃないしね。副官ちゃんは反省してるみたいだし、ユーリは言わずもがな」

ソディアがどう思ってどう行動しようとも、フレンとユーリはお互いを信頼している。
ソディアの一途に一人を思う頑なさを、ユーリは嫌っていなかっただろう。だからこそ、ソディアに期待していた面も微々たるものかもしれないが、あったはずだ。
それを貫くための行動に、ユーリを排除することが含まれているなら、甘んじてそれを受けていたかもしれない。
だが、彼女は後悔をし、そして真実を目の当たりにしたのだ。
フレンにはユーリが不可欠で、その隣に立つことが、いかに難しいことなのかを。

「結局は今さらだって、ジュディスちゃんもわかってるっしょ?」
「そうね。でも、おじさまも知っていたなら教えてくれれば良かったのに」

(そんなことしたら、ソディアを本気で串刺しにするかもしれないくらい、ジュディスちゃんはユーリの事が好きでしょ)
思っても口には出さず、レイヴンは「もう時効にしてちょうだいよ」と冗談めかしてウィンクを送る。
ジュディスは、それにくすりと笑って、何も言わずにテラスを後にした。

おそらく、女性陣は女性陣で色々と話したい欝憤の一つや二つ、あるだろう。
ユーリ、ソディア、フレンだけの問題とはいえ、あのときユーリが消えて困り果てたのは事実。フレンにいたっては、彼の方が死にそうな顔をして、手がかり一つ見つからないユーリを探し続けていた。
だがそれも、もう一年近く前の話だ。流石にそれを掘り返して、今さら大事にしたところで残るのは後味の悪さだけであるし。
何故ソディアが今になってフレンにそれを伝えたのは謎なところだが、おそらく未だに引きずっているだけだろう。

「もーう。折角の休日が台無しじゃない」

これは今夜は青年二人を酔いつぶれるまで飲まして、騎士団長に奢ってもらうのが道理だろう。
迂闊にも全員の前で公言したフレンに、この気まずい空気の責任を取ってもらわなければ。

(まぁ、存分に悩んでぶつかればいいじゃない)

それができることが、若者の特権なのだから。



* * *



殴った右頬は腫れて、ちょっとでも触ると痛みが走る。
原因を作ったユーリは隣のソファで横になっていて、寝ているのかどうなのか、目をつぶっていた。
先ほどまでの激情はもう納まり、怒りも憤りも湧いてこなかった。
ユーリはこうして生きて自分の隣にいるのだし、真実を知ったからと言ってソディアが信頼できなくなったわけじゃない。
結局、今までとなんら変わりないのだ。それなのに、今更明かされた真実が信じられなくてユーリに詰め寄って、あまつさえエステリーゼ達の前で言ってしまったのだ。
その後悔の方が、身に重く降りかかる。

はぁ、とため息をついて。
項垂れていると、ぱちりと目を開けたユーリがそっけなく呟いた。

「お前、真面目すぎ」
「うん…分かってはいるんだけどね」
「あいつらだって子供じゃないんだ。心配する必要なんてないだろ」
「……」

判ってはいるが、納得というか、気持ちの収まりがつかないのだろう。
まったく、と渋々ならがも身体を起こし、フレンの頭に手刀を落とす。
「痛いよ」と不満げに眉を寄せた顔に、ユーリは目を細めて笑った。
その笑顔が酷く綺麗で、フレンは吸い込まれるような感覚に酔う。

「これで、この話は終わりだ。みんなのとこ、行こうぜ」

誘われるように頷いたフレンの額に、ユーリはそっと口付を落とした。





(で、結局。事の発端は何処にいるんだよ)
*****
凛様、お待たせいたしました。遅くなってしまい申し訳ありませんっ…!
凛々の明星の面々の反応が見てみたい、との事でしたので、私なりに皆がどのような行動をとるかを想像しました。
ED後を想定して書いたので、皆が結構大人な反応になりましたが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
リクエストくださり、ありがとうございました!これからも、どうぞこの辺境サイトをよろしくお願い致します!