優しさをくれた貴方へ

*フレユリで現代設定。
*小学校くらいの時のお話。
*クリスマスの割には長くて重くて切ないですが、ほのぼのした感じも目指しました。





明日はクリスマスですね!みんな、プレゼントはお願いした?
―ゲーム欲しいってお願いした!
―俺も!
お父さんとお母さんのお手伝いをしっかりして、楽しいクリスマスにしましょうね。
―はーい!
―え、めんどーい!
―駄目だよ。ちゃんとお手伝いしないとサンタさんにプレゼント貰えないんだよ!
―だっせー!おまえサンタさんなんて信じてんのかよ!


クラスに、笑い声と叫び声が響く。
無駄に元気で、無駄に煩い。
ユーリは窓際の席で外を眺めながら、クラスの賑わいに混じれないでいた。


じゃあみんな、楽しいクリスマスを過ごしてね。ちゃんと宿題もすること!
―先生、さようなら!
はいさようなら…こら、廊下は走らないの!


穏やかで、なんて甘くて…つまらない世界。
ユーリは終礼が終わったクラスの中、一人席を立って教科書を詰める。
傍に寄ってくる友達は、いないわけではないけれど、今はそれどころじゃないだろうと理解してる。
今日はクリスマスイヴ。家族と過ごして、おいしい御馳走を食べて、プレゼントをもらう日。
そんな幸せがあと数時間で訪れるなら、一緒に帰れる友達と一緒に騒ぎながら帰路につく方が、断然楽しいだろう。
…自分なんか、よりも。

ユーリはクラスを出る。掃除もそこそこに駈け出した男子たちが、ユーリの脇を走り去っていくのを眺めながら、無表情のまま廊下を歩き、階段を下り、靴を履いて。
たくさんの子供がいる中、ユーリと言葉を交わす人は誰もいない。クラスが違うこともあるが、ユーリ自身があまり人と関わることを得手としていない所に原因はある。そしてそれは、ユーリが意識的に張っていた線だった。
友達を持っても、結局は離れて行ってしまう。
子供は誰だって、自分と同じじゃなければ、当たり前のように置いて行ってしまうから。
外で大笑いしながらはしゃぐ、男子。ませているのかそれを見ては笑う、女子。
その間を、気配を消すように無言で歩くユーリの背に、驚くほど呑気な声がかけられた。

「ローウェルさん、これから帰るの?」

…それは、違うクラスの男の子だった。金髪碧眼なんて、お伽話にでも出てくる主人公や王子様のような容姿。
当たり前だが小学生にして女子の注目の的で、様々な意味でユーリとは正反対の人物だった。
そんな彼と出会ったのは、本当に些細な、きっといつかは忘れてしまうだろう出来事がきっかけ。
だがその時から、彼はこうしてユーリに話しかけるようになった。

「…シーフォ、くん…」
「フレンでいいって言ってるのに」
「…私に、何か用?」

我ながら失礼な口調だが、校庭のど真ん中で容姿端麗な男子と話をしたいとは思わなかった。
しかしユーリのそんな気持ちを知ってか知らずか、歩調を同じくして隣に並んだ。
歩きながらも、彼は話しかけるのを止めない。

「今日、クリスマスだから、プレゼントとかお願いしたの?」
「…なんでそんなこと、お前に話さなきゃいけないんだ」
「え、いいじゃん。ローウェルさんの欲しいものって何?」
「……」
「僕は、新しい自転車ってお願いしたけど、たぶん駄目だろうなぁ…高いし」
「……」
「ゲームはだめだって言うからさ。本にしようかと思って」
「…う…さ、い」
「ローウェルさんは?あ、でも女の子だからこういうのって聞かない方が」
「うるさいっ!!」

ユーリは歯を食いしばり、ぎろりとフレンを睨みつけた。
少し幼く見える彼の顔が、驚いたようにユーリを見つめる。
その呆けた様子にますます怒りが湧いてくる気がして、ユーリはそのまま何も言わずに踵を返した。フレンが後ろから追ってくる気配はない。なぜ怒鳴られたのか分からず、きっと困惑しているだろう。だがその理由を説明するほどユーリはフレンを知っているわけではなかったし、なにより事情も知らずに話しかけてくるのに苛立った。

今日は、クリスマス。子供たちの夢の一日。
それをユーリは、とてもとても、嫌っていた。




「あらユーリちゃん。今日は検査の日だったっけ?」

学校から直接病院に直行したユーリは、顔馴染みの看護師に声をかけられ、顔を上げる。
優しげな風貌の看護師は、少しの間だけだがユーリを担当してくれていた。辛い検査の日に慰めてくれたこともあったし、ユーリの誕生日にプレゼントをくれたこともある。だがそれは全部、患者への配慮でユーリに対して特別なことではないと知っている。その看護師にはちゃんと夫と子供がいて、一番に愛情を注いでいるのはその人たちに対してで。
自分では、ないと分かっているから。

「うん、そう。…今日はクリスマスだから、お休みとったんだろ?」
「ええ。いつも家の事は上の子に任せちゃってるから、今日くらいはお母さんらしいことをしないとね」
「…あんたがお母さんらしいって、なんか変」
「まったくもう、減らず口ね。その口はこうしてやる!」

ふに、とユーリの頬をつねってきて、いかにも子供扱いされているそれに怒ることなくユーリは「離せ!」と笑ってみせる。そうすれば、この看護士は微笑んで頭を撫でてくれると知ってるから。
じゃあ頑張ってね、とかけられた言葉は確かに優しさに溢れていたから、ユーリもできるだけ楽しそうに笑った。

ユーリ・ローウェル、と書かれた一室。
学校の服を検査服に着替え、ユーリはベットの端に腰かける。足がつかないので空中でぶらぶらさせて、一つだけ息をついた。クリスマス。クリスマスイブ。サンタが来る日。そんな子供騙しは親のいないユーリには最早意味のないことで、早く寝るのもサンタを待つのではなく、病院の消灯が早いから。どうせ次の日に枕元に置いてあるのは子供たちに共通で配るちょっとしたお菓子だけで、それを無邪気に喜ぶほどユーリは子供ではなかった。ただ、自分を気にかけてくれている人たちに悪いから、嬉しそうに振舞うけれど、それだけ。

検査が始まるちょっと前に、担当の先生がやってきてユーリに今日の検査の説明をした。それを聞いて、いつも通りに頷き、ベットに大人しく横になる。麻酔が効いてくれば、ほんの30分ほどで検査は終わった。もう5時近くなっていたが、クリスマスということもあり面会の時間はいつもより長いらしく、窓の外にはちらほら人が出歩いているのが見える。ユーリ以外にも子供はいるから、その子たちの親らしき人もたくさんいた。それをユーリは、ただ無表情に眺めているだけだった。

少し経って、ハンクスじいさんが訪れた。思ってもみなかった訪問にユーリは驚き、そして少しだけ喜んだ。ハンクスはユーリの医療費を出してくれていて、ユーリにとっては肉親と同じくらい大事な人だった。ハンクスは、プレゼントがなくて申し訳ないと謝ったが、ユーリはそんなこと気にしてない、と首を横に振った。医療費を出してくれているだけで十分だ。それ以上は望まない。すまない、明日も来るから、と続けたハンクスに、「孫とかも来てるんだろ?そっちの相手してやれよ」、と仕方なさそうに笑った。優先されるべきは、自分ではない。ユーリは弁えていて、当たり前のことだから、当たり前のことのように言った。ただ、それだけだった。

6時になって、クリスマス会らしき音がしたから聞こえてきた。ユーリも参加するよう誘われたが断って、薬の副作用か少しだけだるい身体で鞄から教科書を取る。だがそれも長くは続かず、微かに聞こえてくる音から身を守るように布団にくるまった。
(…悲しくなんて、ない。悲しくなんてない。仕方がないんだから)
家族のぬくもりを知らなきゃ、クリスマス会なんてただの空虚にしか感じられないと理解した。たとえ好意でも、ユーリはそれを素直に受け取ることができなかった。
だから、両親のいない自分は、クリスマスなんて行事はただの普通の一日としてやり過ごすしかなかった。
…それが、ユーリを襲う痛みから逃してくれる、唯一の方法だったから。

その時、病室をノックする音が響いた。
こんな時に誰だろうかとユーリは眉を寄せ、「どうぞ」と促し電気を点ける。
すると、病室にひょこりと現れたのは、この場に来る筈のない人物だった。

「あ、ローウェルさんの病室ここで合ってた!良かったぁ…あ、でもちゃんと名前書いてあるもんね」
「…お、ま…なんで、ここに…」
「あのあと急いで追いかけたら、君がここに入ってくのを見たからさ。病院の人に聞いて、知ったんだ」

フレンはユーリの傍に寄ると、ここ座るね、と椅子に腰かけてベットの上のユーリの視線の高さを合わせる。
にこりと笑ってフレンは手に持っていた袋をユーリに差し出してきて、ユーリはどうしていいのか分からず袋とフレンを交互に見て。
眉を寄せてしまったユーリの手を取って、フレンは袋を掌に乗せた。さほど大きいものではなかったが、少しだけ重いその中身に検討がつかず、それ以前に何でこんなものを渡されるんだと困惑して頭はパニック状態だ。

「えっと、その…メリークリスマス!」
「クリスマスって…お前、何で私に…」
「さっき、欲しいもの聞きそびれちゃったからさ。僕が選んだからローウェルさんが好きかどうか分からないけど…せっかくだから、貰ってよ」
「そ、な…プレゼントなんて、貰うほど…友達でもなんでもない」
「それじゃ、今から友達になろうよ!僕の事も、フレンって呼んで。僕もローウェルさんの事、ユーリって呼んでいいかな?」

あまりにも突然の展開に、ユーリは何と返せばいいのか分からず口を閉じる。友達?自分とフレンが?どうしてそんな展開になったんだ。そもそも何でこんな、プレゼントなんて。

「…ダメ?」
「ぅ……あ、あぁ…いい、よ」

なんともたどたどしい、情けないほど小さな声。フレンは耳ざとく拾ったらしく、先程よりも満面の笑みを浮かべて心底ほっとしたと言うように胸をなで下ろした。

「良かったぁ…」
「…なんで、そんなにほっとするんだ…」
「だって、嫌われてたらどうしようって思ってたから。嬉しい。僕、ユーリと友達になりたかったんだ!」

こうしてずかずかと人の心に入ってくる。驚きから少しずつ冷静になってきたユーリの思考は、フレンを危険視していた。友達なんて作っても、結局は離れていくぞ、と。

「…やめろよ、友達なんて。名前で呼びたいなら、好きにすればいい。ただ、これはいらない」

両手に乗った『プレゼント』をフレンに差し出し、ユーリは「さっさと帰れ」と突き放す。
これにはフレンも驚いたようで、プレゼントを押し返しながら、

「ユーリのためのプレゼントだから、ユーリが貰ってよ」
「私のためなんて…尚更、必要ない。家族にあげるものだろう、プレゼントは」
「家族にもあげるけど、友達にもあげるんだ。ユーリは僕の大事な友達だから、ちゃんとユーリのために選んできたんだ」

だから開けてみて、とフレンは微笑む。その微笑みがあまりにも自然で純粋で、ユーリは断るにも断れなくなり、仕方なしにプレゼントを開けてみることにした。
赤とピンクのリボンを解いて、包装紙を丁寧に開けていく。姿が見えたそれを手にとって、ユーリは目を丸くした。それは、とても淡い水色で縁どられた、時計だった。

「すごくかわいくて綺麗で、ユーリなら好きそうって思ったんだ」
「……」
「よ、喜んでもらえた、かな…?」

まるで子犬のように輝かせながらも不安げに揺れる瞳に、ユーリは可笑しくなって思わずくすりと笑った。
こんな、ろくにしゃべったこともない奴を友達と言って、プレゼントまでくれて。
それも、とても純粋で真っ直ぐな、きれいな想い。優しくて淡くて…夢が叶ったみたいに、嬉しくて。

「…ありがとう、フレン」

自分だけのプレゼントを貰ったの、初めてなんだ。
続けた言葉は、少しだけ涙でかすれた。






(フレンが一番はじめにくれた、優しくて温かい想い。自分の、宝物)
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