ラビンング・ユー

*青空の唄番外編 バレンタイン
*ほのぼの甘です
*本編後なので、恋人同士





バレンタイン。その意味は、昔も今も変わっていないけれど、世の女の子たちがその日をどう過ごすかは大きく変わっている。好きな男の子に、女の子が勇気を振り絞ってチョコレートを渡す。それはある意味古典的で、もちろん話のネタにはなるが実際にそんなことをして憧れの男の子に告白する女の子が、いったいどれだけ居ると言うのだろうか。
高校に入学してから、バレンタインというものを身近に感じ始めた。というのも、ユーリの中にあったバレンタインの固定観念を覆し、クラスの皆にお菓子を作ってきたり女子同士でお菓子を作ってきて食べ比べ、なんて行事に様変わりしていたからだ。
少なくともユーリにとって、バレンタインは自分が美味しい思いをすることができる一大イベントであった。無類の甘いモノ好きであることは周りも承知で、ユーリの作ってきたお菓子を食べたいがために交換を申し出る女子の多さとなれば、10個程度チョコレートをもらった男の子を軽く凌ぐほどで。
ユーリのモテっぷりに嫉妬も湧かねえ、と零していたのはアシェットだっただろうか。
そんな彼もユーリのお菓子を堪能しようと、毎年口約束でも予約をしているから、ちゃっかりしている。
今年も相当貰うんだろうな、とユーリの後ろ姿を呆と眺めるフレン。

「…なぁフレン、さっきからかなり視線を感じるんだけど」

くるりと振り向いたユーリは、どうしたんだと言わんばかりに眉を寄せてフレンを見た。
そんなにずっと見ていただろうか、と思いつつ、フレンはにこやかに答える。

「今年も、バレンタインすごいんだろうなって」
「お前がな。ったく、なにを呑気に…」
「僕じゃなくて、ユーリがだよ」

贔屓目に見なくても、ユーリは可愛い。
いや、綺麗、という言葉の方が似合うだろうか。
中性的な顔立ちでありながら時折見せる女性らしい仕草が好きでたまらない。一度想いを告白してからはそれを一層自覚して。
他の男になんて渡すものか、と牽制することもしばしば。それがどれだけこのバレンタインという危険な行事に予防線を張れたかはわからないが、昨年よりはユーリにチョコをねだる男子は減るだろう。いや、近寄る前に妨害する気は満々だが。

「ユーリのチョコは人気だから、できたら僕だけに作ってほしいよ」
「…お前、そんなこと考えてたのか」

ユーリは、呆れ混じりに食材を切る手を止める。

「フレンだって毎年かなりの数もらってんじゃん」
「僕はユーリ以外に貰ったチョコ、食べたことなよ」
「…は?」

なんだか聞いてはいけないことを聞いた気がして、ユーリは思わず素っ頓狂な声を上げる。
(なんだこいつ、今とんでもなく薄情なこと言わなかったか?)

「だから、ユーリ以外に貰ったお菓子は、食べたことない」
「おまっ、それ…!じゃあ、あの量のチョコ、どうしてたんだよ!?」
「親とか、友達とか、箱だけ捨ててあげてた」

事も無げに言い切ったフレンに信じられないと重いため息をつく。

「…王子様みたいな顔して、やることえげつないのな。お前…」
「君は知ってるだろう?僕が、チョコレート嫌いなの」
「そりゃそうだけどさ…」

フレンはチョコレートがあまり得意ではない。ケーキにしたり、お菓子の一部としてのチョコレートは好きだが、塊としてのチョコレート単品は、どうも苦手としているらしい。
そのことを知っているのは、ユーリの他には、彼の両親と友人数人くらいだろうか?
ユーリが作るのは、チョコレートケーキであったり、アップルパイであったり、フレンの事を考慮して考えたバレンタイン『プレゼント』になるし、いつも目の前で美味しそうに頬張っていた。
だから毎年チョコレートをもらってどうしているのだろうとは思っていたが…まさか食べていないとは思わず、彼に想いを寄せる女子たちに半ば同情してしまう。

「ね、だから、僕にだけ」

何が「だから」なのか分からなかったが、ユーリは食材を切る手を再開しつつ、

「毎年、フレンには特別に作ってるだろ」
「違うよ。そういう意味じゃなくて、他に誰とも交換とかしないで」
「却下。少なくとも、エステルとリタには作る」
「女の子同士は別にいいよ。ただ、僕以外の男には、ユーリのお菓子を食べさせたくないんだ」

はっきりと言いきったフレンに、驚く。
ここまで露骨に独占欲を発揮することは珍しくて、何かあったのではと変に疑ってしまいそうだ。

「…まぁ、いいけどさ。どうかしたか?お前がそんなこと言うなんて」
「んー…ユーリが好きすぎて、どうにかなっちゃいそう」
「っ…そりゃどーも!」
「照れて乱暴になるところも可愛い」
「うるさいっ」

ユーリが投げた台拭きが、べちゃりとフレンの頭にヒットする。

「ちょっと…流石に酷いんじゃないか?」
「だったらフレンも、誰からもチョコ貰うなよ!!」

勢いにのって叫ぶような声だが、内容が思っていたのより斜め上をいっていて、フレンはぽかんと口を開ける。
その表情に、自分が何を言ったのかがじわじわと恥ずかしさとともにやってきて、ユーリは一瞬にして顔を赤く染める。
「い、今の無し!」と慌てて繕っても、フレンはそれこそ蕩けるかと思うような笑みを浮かべて。

「嬉しいなぁ、君がそんな風に思ってくれてるなんて」

全身に幸せオーラを纏ったフレンは、そのまま夕食の準備をすべくテーブルを拭き始めた。







(ユーリの事が好きすぎてどうしよう)
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