チョコレートはお好きですか?
*現代設定 ハロウィン
*フレユリ
*たいして甘くはない、ほのぼのとした話
世の子供たちに人気のイベントが、今年もやってきた。
仮装よりもお菓子。悪戯よりもお菓子。
「ユーリ!お菓子ちょうだい!」
そう叫びながら、扉を叩く事も忘れたお子様たちが、ユーリのお菓子を目当てに訪れた。
本日…数える事すら面倒臭くなるほどの回数。
ユーリの料理が美味しい事は、近所に住む誰もが知っていると言っていいほど。
そのため、毎年のように子供達はユーリにお菓子をせがむのである。
大人数が来たなぁと思いながら、キッチンで未だエプロン姿のユーリは、
ソファでくつろいでいるフレンに視線をやった。
フレンは、そんなユーリの視線を受けて、代わりに子供達の元へ歩み寄る。
「さて、合言葉は何かな?」
「トリック・オア・トリート!」
子供たちの元気な返事に思わず苦笑して、フレンは机の上に置いてあるユーリ手作りのチョコレートケーキを子供たちに差し出した。
途端、子供たちの目が輝く。
よほど嬉しいのだ、とユーリは照れ隠しも含んだ笑みを浮かべた。
「ユーリ!ありがとう!」
「美味しそう…ユーリ、本当に上手ね」
「ユーリのお菓子ってだけで自慢できるんだぜ」
「すぐ食べたいけど、食べるの勿体ない」
「ユーリ、もう一個!」
調子のいい子供たちに、フレンは微笑みながらユーリに声をかけた。
「ユーリ、もう一個だって」
「だーめ。一人一個だよ!」
「えーっ」とがっかりしたような大合唱が聞こえてくるが、フレンがそれをなだめている様子を見て、ユーリは目の前のケーキに集中する。
もう少しで、完成のそのケーキは、実は今日で三つ目。
朝からほぼ連続で作り続けているが、殊料理に関しては無限の集中力を発揮するユーリは、苦に思う事も無く、思うままにケーキを作り続けている。
寧ろ…ケーキを作り続けなければ、次から次へと子供たちがやってくるから、という理由も無いわけではないのだが。
「残念そうだったね」
少しして、ほぼ完成に近づいたケーキを皿に盛っていると、フレンがキッチンのカウンターに肘をついて寄りかかっていた。
「ま、仕方がないってことで」
「ユーリ、疲れてないの?」
「全然。まだ作るし」
完成間近のケーキを前にして、まだ作るらしい。
フレンは、出来上がっていくそれをじっと見つめて、ふと時計が目に入った。
「ユーリ、ちょっと休みなよ。紅茶淹れるからさ」
「あー…じゃ、折角だし。お願い」
フレンの紅茶上手いんだよなー、と顔を綻ばせながらてきぱきと作業を終わらせていくユーリは可愛らしくハートのチョコレートを型抜きしていて、「それバレンタインじゃないの?」と思わずフレンは聞いていた。
するとユーリは、あーん、という仕草をして、フレンの口元にチョコレートを持っていく。
「…ん。おいしい。流石だね」
「ハートなのは、ただ単に型がこれしかなかった」
ユーリは、小さ目のチョコレートを摘むと今度は自分の口に持っていく。
指をなめる仕草が…実に女の子っぽい。
「……ユーリは、お菓子を作る時は女の子だよね」
「何それ。普段は女じゃないって?」
「その口調のせいだよ。直しなっていつも言ってるのに」
「面倒くさい。それに、今はフレンしか居ないし」
まったくもう、とフレンは紅茶の入ったカップにお湯を注いだ。
口の中には、甘すぎないチョコレートの味が広がっていた。
(何で付き合ってないんだよ二人とも!)
*****