・クロウは生きています
・騎神について本編終盤同様の知識を全員が共有しており、ヴィータとクロウ、エマとリィンが魔女と起動者の関係である事も皆知っています
・特定CPはありませんが、恋話なので誰が誰を好きみたいな勝手な捏造がいっぱいあるので気をつけてください
「で、温泉の夜の醍醐味っつーのは俗に言うコイバナってなわけだ」
夜十時。学生の男子が寝るにはまだ早い時間帯に各々話に花を咲かせていたZ組男子五名は、突然部屋の中心に立って宣言した先輩(仮)に注目した。
一人を除いてキョトリと目を丸くしているのに、まったくお前らはと溜め息をついて浪々と説き始める。
「健全な男子が六人も集まって、授業やら課題やらで貴重な夜の時間を費やすのは勿体ないだろうが。せっかくの温泉。せっかくの旅行。しかも女子抜き、だ。ここは健全な男子らしく健全な話で盛り上がるところだろ」
「授業も課題も至って健全な話だと思うが」
「健全の意味が違うだろうが!」
もっともなガイウスの指摘にも屈せず、部屋の中心で皆の視線を浴びる先輩(仮)であるクロウはどかりとソファに腰掛けた。
「さて、ここはやっぱりリィンからが順当だな。ほれ、委員長ちゃんの事でも語ってみろ少年よ」
「へ?」
思わぬ矛先を向けられて素っ頓狂な声をあげたリィンは、先程まで次の実習について話をしていたエリオットの顔をまじまじと見つめた。
僕にどうしろって言うんだよ、と視線で返されてしまったので、そもそも根本的な質問から入るべきかと首をひねった。
「ええと、なんで委員長?」
「それはあれだ、お前ら付き合ってるんだろ?」
「誰と誰が?」
「エマと、お前が」
「……」
付き合っている、というとつまりあれか。恋人同士という事か。
遅れて理解した事実に反論するべきだ。なぜなら、付き合ってなどいないのだから。
そう。付き合っていない。エマは確かに可愛いけれど、あくまで自分達の関係は起動者と魔女であって、そこに色めいた別物は存在していない筈だ。
リィンはそう思っているし、エマもそうだろう。あれ、実はそうじゃないとかあるんだろうか。
「待ってくれ。なんだか色んな誤解が…」
「二人で図書館デートとかしてるんだろこの真面目コンビ」
「いや、だから違う」
確かにエマと図書館で勉強をする事は多い。でもそれは、ラウラとギナジウムで手合わせをしたり、アリサと一緒に下校する頻度と同じくらいの筈だ。わざわざ付き合っている理由に挙げる程の事ではない筈で。
我関せず、を貫くユーシスはガイウスとのチェスに集中しており、いっそ話題に巻き込みたいとすました横顔を恨みがましく見つめるも、ユーシスのコイバナシなど一片も話題を有していないリィンはあえなく視線を戻した。
仕方なくマキアスに犠牲になってもらうことにしよう。
「マキアスは好きだろう、エマのこと」
「はぁ!?なんで此処で僕を話題に出すんだ!」
「なんとなくそうかな、と」
「それこそなんとなくだろう!意味の無い話題転換はやめたまえ!」
あながち間違っていないと思うんだけどなぁ、と唸れば、マキアスはあわてて眼鏡のブリッジを抑えていた。
「そう言えば、前にガイウスもラウラの事好きだって言ってなかったっけ?」
へえ、とクロウが感嘆なのか少し意外そうに声を上げた。
「お前さんは恋愛事に興味ないかと思ってたけど」
「恋愛感情かどうかは分からないが、何にでもひたむきに向き合うラウラを好ましいとは思っている」
チェスの手を止めて律儀に答えを返してくるガイウスの声はいつも通り優しいもので、それまでの盛り上がりはどこかに勢いを潜めていた。
再びチェスに戻ってしまったガイウスの背に、恋話というより仲間としてZ組は皆お互いにどこかしら惹かれ合っているものがあるから、一般的な恋愛事情とは少し離れた意識があるのかもしれないと思い至る。
例えばZ組が、実習という目的を持たず単なる貴族と平民の混合を試すクラス、というだけであったら、ここまで成長はしなかったかもしれない。きっとトールズ生として先輩達と変わらない生活を送って卒業し、仲の良い友人をたくさん得ていただろう。それが良いとか悪いとかではないけれど、リィンはZ組に選ばれて、Z組を選んで本当に良かったと思っている。
ここでしか得られないものの重みは、きっと貴族クラスに所属していては得られなかったであろうから。
「そう言えばさぁ…」
そんなことをしんみりと考えていたリィンの思考を遮って、のんびりと切り出したのはエリオットだった。
「クロウってヴィータさんと付き合ってるの?」
ぶっ。
吹き出す音が誰から発せられたのかは全員分かっていたが、意に介せずあえて話題に乗って来たのは先程まで沈黙を貫いていたユーシスだ。
「俺は、トワ会長を慕っていると思っていたが」
「あ、僕もそう思ってたんだけどね。この前、帝都でヴィータさんと一緒に買い物してたでしょ?」
げっほげっっほ。
やまない指摘の嵐に得意の突っ込みを返す暇もなく、クロウはうずくまって咳き込んでいた。
大丈夫かな、と思いつつも、エリオットの言葉に先日写真部のレックスから貰った写真が脳裏を過って鞄に手を伸ばした。確かまだ持っていた筈だ。
「あ、あった」
「なんだ?」
「これ、レックスに貰ったんだよな。ヴィータさんとクロウのツーショッ」
ト、と語尾がかき消される勢いで写真を奪われ、気付いた時には数歩離れた場所でクロウが写真を手に佇んでいた。
「ぁああんのやろぅ…妙ににやにやしてやがると思ったら…!!」
決して写真を折らないように持っているあたりは律儀というか。
ふ、とユーシスがクロウの姿を鼻で笑う。
「図星ということか」
「ちがーーーう!!」
断固違う、と丁寧にリィンに写真を返しながら、クロウは頭を抱えた。
「俺とヴィータは!起動者と魔女だから!恋愛感情とかゼロだから!!」
「あちらはあるかもしれんぞ」
「無いわっ!」
こうも断言するという事は無いのかもなぁと素直に受け取るリィンとは正反対に、こうも動揺するという事は図星なのだろうなと半眼になるマキアスは端から見れば対照的だ。ついでガイウスは、ふむ、と首を傾げた。
「つまり、トワ会長が好きなのか」
「そこから離れろ!トワの事はそりゃ嫌いじゃないが、少なくとも恋愛感情云々は…!」
「ちょ、クロウ興奮し過ぎだから!声大きいから!」
一応は旅館なので、他の客が居るかもしれない。
配慮を兼ねてどうどうと落ち着かせれば、クロウはぐぬぬと苦し紛れに腕を下ろした。
「お前ら俺の話は別にどうでもいいだろ、お前らの話を聞かせろ」
「いいじゃないか、トワ会長。一生懸命だし可愛いし、クロウだってそう思うだろ?」
「思うけど違う意味で頼りがいがありすぎて恋愛対象にならんわ!」
「でも確かに、トワ会長って人気あるよねぇ」
エリオットが枕に顎を乗せながら、ぱたぱたと足をぶらつかせた。
「いっぱい甘やかせてあげられる人がいいんじゃない?」
「確かに、いつも気を張っていそうだからな。恋人には甘えたり弱い所を見せたりできる人が合いそうだ」
「包容力がある人かぁ…」
マキアスとエリオットのほのぼのとした会話を尻目に、がくりと肩を下ろしたクロウの隣に座ってリィンはぽんと腕を叩いた。
「ま、自分で撒いた種だから」
「うるせー」