(ユーシスとリィンとラウラ。15歳くらい)
今日のユミルは豪雪なので、大人に外出禁止令を出された子供達は応接間で静かに本を読み漁っていた。
暖炉には火が灯っているが、寒くないように三人で座るには大きいソファに身を寄せ合う。
やはり三人では大きいブランケットを分け合いながら、ラウラを真ん中にしてそれぞれの好きな本に夢中になった。
幸い、リィンもユーシスもラウラも本が好きだ。
三人の中では、ユーシスが一番多くの事を知っている。帝国の歴史から近代技術の発展、数学や言語に至るまで、たくさんの知識を、家庭教師とルーファスさんと本から学んだと言っていた。
リィンは、伝承や神話といった本が特に好きらしく、外国の歴史について詳しかった。どうやら、妹に読み聞かせるために物語調のものを選んでいたら好みも似た物になっていったらしい。
ラウラは、やっぱり剣術の本が好きだ。帝国に古くから伝わる流派、外国の武術、自らの祖先の事。本で読むより話を聞く方が多かったけれど、こうして静かに知識を得ていくというのも悪くない。
ユミルに来るまであまり自分自身の嗜好を気にした事はなかったけれど、剣の腕を磨く以外に好きな事は何かと聞かれたら、本を読む事かもしれないと思うようになった。
それもリィンとユーシスに影響されている事は間違いないが。
随分と長い間集中していたらしく、朝食をとってから既に二時間近く経っていた。
うん、と背筋を伸ばすように手を上げていると、リィンも本から目を離して時計を見上げた。
「もうこんな時間か。二人共、何か飲むか?」
「そうだな」
「私も欲しいと思っていたところだ」
二人の返答に、リィンは栞を挟んで本をソファに置き、キッチンに居るであろう母の元へと小走りで去っていった。
ぬくもりが失われたブランケットを少しだけ引き上げて、ラウラも同じように本をテーブルに置く。
「ユミルが雪深いというのは聞いていたが、思っていた以上によく降るみたいだ」
窓の外では、深々と降り積もる雪がやみそうな気配は無かった。
「北には、アイゼンガルド連峰だ。物好きが登山に訪れるらしいが、ユミルで登山客のチェックもするらしいな」
「そうなのか」
初めて聞く話だ。どちらかと言うと、アイゼンガルド連峰には強い敵が多く、腕試しの場所として知られていると父に聞いた事がある。
「遭難者が出ても問題だからな。関所のような役割をユミルは果たしているというわけだ」
「へえ…やはりユーシスは物知りだな」
「ふん。それほどでもない、これくらい」
必ずこうやって大した事無いと言うけれど、ラウラにしてみれば十分大した事ある知識量だ。
雑学程度でも、きちんと正しくユーシスなら理解していると信じているから、素直に感嘆を覚える。
そんな話をしているうちに、マグカップを三つ、両手で抱えたリィンが部屋に戻ってきた。
言ってくれれば手伝ったのに、と立ち上がれば、大丈夫だと危なげない手つきでテーブルに置いた。
ほかほかと湯気が立っている、ミルクティーだ。
「ありがとう、リィン」
「ありがたく頂こう」
「ああ、後で母さんに御礼を言っておいてくれ」
一口、ミルクと砂糖の甘みが紅茶と溶け合って、身体が暖まるような気がした。
少しだけ苦みのような、辛いような気がするのはなんだろう。
「初めて飲むかな?ジンジャーっていう植物を茶葉と一緒に濾してるんだ。身体が温まる薬草みたいなものかな」
ラウラの疑問を顔から読み取ったのか、リィンが丁寧に説明してくれる。
「そんなものがあるのか…」
「バリアハートには無いな。このあたり特有なのか?」
「どうだろう。でも、小さい頃から冬にはよく飲んでるよ。暖まる効果があるから、寒い地域ならではなのかもしれない」
詳しくは母さんか父さんに聞いた方がいいかも、と苦笑して、リィンは再びラウラの横に身を滑り込ませる。
温もりがまた、隣に戻ってきた。
今日はたくさんの新しい知識が増えた。
ユーシスも、ジンジャーとやらの事は知らなかったみたいだから、今頃薬草か料理の本でも読もうかと思っているに違いない。
二人に挟まれながら、ラウラは両手でカップを持って、こういうゆっくりとした時間もいいなと窓の外の雪に感謝した。