(リィンとユーシスとラウラ、15歳くらい)



ひゅ、と風を切る音と共に、模擬刀が宙を舞った。
これで三勝六敗。女性相手に情けないとは言うなかれ。相手は大陸に名を轟かせる偉大なアルゼイド流派の後継者なのだ。
勿論リィンだって東方武術の中でも一二を争う八葉一刀流に師事しており、ユーシスは名は無くとも帝国で古くより皇帝を守護するべく培われてきた宮廷剣術を学んでいる。
決して同じ年頃の子息子女に劣るような腕ではない。むしろ、ユーシスに至っては当代一の使い手と名高いルーファス・アルバレアに直接教えを乞うているのだ。無様な負けは矜持が許さない。
とは言え、そんな男子二人を圧倒的に上回っているラウラを前に、いくら矜持と言えども純粋な体力で負けていてはぐうの音も出なかった。

「情けないな、リィン」
「それを言うならユーシスだって同じだろ。二勝六敗」
「くっ…」

男二人が言い合いをしている傍、ラウラは手にした得物を両手に、少しだけ息を切らしながら嬉し気に顔を赤らめている。
ラウラとしては、本気で力を出して十分に渡り合ってくれる二人と稽古をするのが楽しくて仕方がないのだ。

「さあ、次はユーシス、そなたの番だ」
「…ラウラ、連戦だろ?さすがにちょっと休まないか?」
「何を言う。まだまだ私は大丈夫だ!」

元気にラウラが宣言すると、何故かとなりでバドがワォン!と同意した。
流石に空気を読んでくれと半眼になってしまうリィンの視線を受けていると、バドはぴくり鼻を天に向けて走り出してしまった。あれ?とリィンもそちらに振り向くと、母が籠を手に坂を上がってきているところで。

「母さん、お帰りなさい」
「ただいま、リィン。そろそろお昼になりますから、ちょうど良いところで上がっていらっしゃいな」

母の言葉に、どちらとなく顔を見合わせたリィンとユーシスは視線だけで言葉を交わした。
即ち、このタイミングを逃してはいけない。

「ラウラ、今から始めるとお昼を過ぎてしまうかもしれないから、ここで一旦終わりにしよう」
「お前とやっていたら、それこそ日が暮れそうだ」

少しだけ眉をハの字にしたラウラは、仕方ないと剣を鞘に納めた。

「仕方ない。私も、リィンの母上のお昼を食べ損ねたくないな」
「あら嬉しい。ラウラちゃん、手伝ってもらってもいいかしら?」
「わ、私がですか…!?」

おや、とリィンは疑問を抱く。ラウラが狼狽えるなんて、なかなか珍しい。基本的には何事にも挑戦するのが好きな性格だから、料理だって興味を持って取り組むかと思っていたのだが。

「そう言えば…ラウラが料理をしているところを見た事がない」

剣術どころか料理すら子供の腕にしてはレベルが高いユーシスは、そっとリィンの隣までやってきて呟いた。

「確かに、ラウラが厨房に立つ姿を見る事って無かったな。気付かなかった」
「少し意外だが、あの狼狽えようだと、料理は苦手なのかもしれん」

意外と言ったユーシスの手前、リィンはなるほどなと一瞬でも思ってしまった自分を振り払った。
どうやら、母とラウラの攻防は未だ続いているらしい。
おそらく母が勝つ。というか、うまいことラウラが手伝ってくれるように誘導する。そんな強かさが母の魅力の一つであるし、ラウラがそれを上回る事は無さそうだ。
今日のお昼は何かなぁ、と平和に背伸びをして、ユーシスと一緒に家に入ることにした。