※捏造満載
※内戦とか起こらずに、二年生になっています
※リィン女体化です。苦手な方はお気をつけ下さい。
※ユシリンで婚約しているのに、ルーファスさんがちょっかい出しているような感じです。でも、ルーファスさんは二人の婚約を心底喜んでいるので、からかっているくらいの気持ちです。こんな注意書き書く程では無いかもしれませんが…







士官学院の春。新入生が新たな生活に胸踊らせ、二年生が最後の学院生活に意欲を見せる季節に、士官学院全体、いや、トリスタ全体で、ある噂が囁かれていた。

「ユーシス様がご婚約なさる話、聞きまして?」
「ええもちろん!お相手はどなたなんでしょう……」
「アルバレアですもの、やはり格式高いお家柄ですわ」
「もしかして、アルフィン殿下もお歳が近いですし…」
「お二人が並ばれたら、あまりの美しさに卒倒してしまいそう!」

言わずと知れた四大名門の筆頭アルバレア公爵家次男、ユーシス・アルバレアの噂である。
貴族でありながらも貴族クラスに所属せず、Z組と呼ばれる特別クラスに籍を置く。容姿端麗、才色兼備、文武両道。彼を形容する言葉全てに当てはまり、アルバレアの名と関係を持ちたい輩は数知れず。二年目ともなれば彼の人となりから個人的な友人関係を結ぶ者も増えたが、入学当初はそれはそれは人を寄せ付けない印象が強く話しかけることすらままならなかった。
そんな彼を変えたのは、Z組というクラスだと、誰もが思っている。だが、Z組の面々はそう思っていない。
ユーシスを変えたのは、間違いなくクラスの重心である彼女ーーリィン・シュバルツァーだ。


女子生徒の盛り上がりを耳にいれないようにしながら、リィンは黙々と課題図書を読み漁っていた。エマがいれば、レポートを書くために必要な資料の相談ができるのたが、生憎部活の用事で帝都に出張中だ。生徒会の仕事が一段落したので、普段はできないことをしようと思うのだが、残念なことにレポートの期限を考えれば先にやってしまった方が楽だろう。
鎖骨近くで揺れる髪を一括りにして、本とにらめっこをする。ページを捲る右手の薬指には、一週間前まで存在していなかった細身の指輪が密かに見え隠れしているが、気付く者はいない。

この指輪の送り主は、現在春休みを利用した帰省中だ。夏休みと異なり、長期での帰省ではない。目的も領地運営ではなく、個人的な報告のようなものである。
本当は一緒に行きたいとリィンは願った。父となる人、兄となる人に挨拶行くべきだと。だが彼ーーユーシスは、まずは自分だけで行くと言って譲らなかった。父を説得してから会って欲しい、と。
納得はいかなかったけれど、リィンはユーシスの想いを優先した。シュバルツァー家は二人の婚約をとても喜んでくれたので問題ない。だがアルバレア家は、好きなので婚約を結びました、だけでは通じない世界なのだということは、一応は貴族の一端であるリィンも理解していた。
本来は決められた誰かがユーシスの伴侶となり、アルバレアを継ぐであろう兄の補佐となるか、逆に婿として家の格を上げるか。ユーシスがそれで幸せになれるならば、それでもいいかもしれない。でも、ユーシスはリィンを選んだ。決められた道を選ばなかった。なら、それ相応の努力と理由が必要だ。そうした生々しい、綺麗だけではない面を、できればリィンに見せたくないというユーシスなりの矜持を汲んで、残ることを決めたのだ。

(アルフィン殿下かぁ……確かに、二人が並ぶと凄みが増すというか)

聞かないようにしても聞こえてしまうのは仕方なく、アルフィンとユーシスが並ぶ様を想像して美男美女の真髄みたいなものだろうと納得する。貴族ではあっても出自の分からない自分よりも、なんて思ったことは一度や二度のことではないが、言葉にしたことはない。していないのに、何故かユーシスは気付いてしまって軽く小突かれる。

(ユーシスは優しすぎる)

生まれ持った性質と言うべき優しさは、彼の過ごした環境によって隠れてしまっていたけれど、言葉の端々に含まれているそれを見つける事は難しくなかった。Z組女性同士、寮で所謂恋話をした時にその事を語ったら、だからユーシスもリィンの事を好きになったのね、とアリサに言われた時は赤面した。

(はぁ、駄目だ。勉強なんて手につきそうにない)

色々と思い出してしまったせいか、レポートは一文字も進みそうになかった。これは集中して取り組むためにも、本を図書館から借りて帰ろうと決めて机に広げていた資料を片付け始める。
どれを持って帰ろうか、と本の表紙を代わる代わる眺めていると、見知った気配が近づいてきたので顔を上げた。案の定、颯爽とこちらに向かって歩いてくる人はリィンも良く知っている人物で、しかし今日ここに来るとは聞いていなかった人なので、驚きのあまり声が上擦った。

「ル、ルーファスさん!?」
「久しぶりだね、リィン君。驚かせてしまったようだ」
「それは驚きますよ…」

ルーファス・アルバレア。士官学院の理事の一人ではあるが、多忙な彼がこちらに足を運ぶのは久しぶりで、驚きが落ち着いたリィンは朗らかに笑む。

「今日はどうしてこちらに?御用があったんですか?」
「ああ。学院長に用事があったのでね。それに、君の顔も見ておきたかった」
「そんな、恐縮です。呼び出してもらえれば、こちらから伺ったのに」
「最愛の弟の婚約者である君を、呼びつけるなどしないさ。淑女を迎えにいくのは紳士の嗜みだからね」
「相変わらずですね」

歯の浮くような台詞に、思わず苦笑する。
ルーファスはいつもリィンに対してこのような態度で接してくるから、最初は恥ずかしさに狼狽えていたけれど、彼なりのからかいが含まれている事に気付いてからは慣れてしまっていた。だが、ユーシスが更に大人びたらこんな風になるのだろうか、と思わせる端麗な容姿には、目が奪われてしまうのは仕方ない。
それにしても、人目がある場所で婚約者などと言われてしまうと、誰か聞いていないだろうかと思わずあたりを見渡してしまう。ルーファスの存在は図書館の中に居る人は全員気付いているだろう。先程、ユーシスの婚約について噂話を展開していた女子生徒もこちらを見ている。
気付かれたらどうしよう、ごめんユーシス、と心の中で謝った。

「勉強中だったかな?」
「いえ、これから寮に戻ろうかと思っていました。ルーファスさんは、この後は?」
「残念な事に、バリアハートに戻る必要があってね。それにしても、前にも言ったのに覚えていないかな?」
「え?」

何の事だろうか、と首を傾げるが思い当たる節が無い。
申し訳ないが覚えていない事を告げると、ルーファスは心底残念そうな顔で眉を下げた。

「”義兄さん”と呼んでくれて構わないのに」
「!いや、あれはその、本気だったんですか!?」
「勿論本気に決まっているさ。これでも楽しみにしていたんだ」

それにいずれそうなるだろう?と確認するように問われたので、うう、とリィンは唸る。
ユーシスと婚約を結ぶ話を最初に報告した相手はルーファスだった。兄上ならきっと賛成してくれるだろうし、味方につけておきたいというユーシスの言葉通り、ルーファスは特に反対もせず婚約を認めてくれた。何より、実習を通じて何度か会っていたお陰でリィンの人柄をルーファスが好意的に見てくれていた。予想以上に良い反応だったので、アルバレア家の最初の関門だと緊張していた分肩透かしを食らったぐらいだ。
その時に、”義兄”と呼んでほしいと言われたのを思い出し、リィンは縮こまる。
まだ家族では無いし、図々しいというか抵抗があって口に出せないのだが、ルーファスは本気だったようだ。上目遣いに見上げると、薄い青の瞳が存外柔らかくリィンを見つめていたので、無理ですとはどうも言えない雰囲気になってしまった。
緊張で乾いた唇に、微妙にかすれた声になってしまったが、非常に小さく、ルーファスにしか聞こえないくらいの声量で、

「ル…ルーファスお義兄様…」

と呟く。囁くでもいいかもしれない。
大丈夫だろうか、不快じゃないだろうかと恐る恐る伺えば、なぜかルーファスの方が驚いたように呆けた顔をしていて。何かおかしかっただろうか、と悩んでいると、とてもとても柔らかく、深く蕩けるような声で名前を呼ばれた。

「…ユーシスではなく、私の伴侶とならないかい?」
「へっ?」

聞き間違いだろうか。

「ルーファスさん?えっと?」

冗談ですよね、と念押しして確認するように訪ねれば、本気の色をしていた瞳が和らいだ。

「あまりにも君が可愛くてね。親愛のキスは構わないかな?」

返事をする前に、軽く頬に唇が寄せられてびくりと肩が跳ねた。見ていたらしい女子生徒が黄色い悲鳴を上げるものだから、公衆の面前である恥ずかしさが沸き上がって頬が熱くなる。
触れたのはほんの一瞬で、社交界なら挨拶として別に珍しい事じゃない。だが、学院の、しかも他の生徒が居る中での触れ合いは心臓に悪すぎる。

「ルーファスさん…からかうのはやめてください…」
「ふふ、からかっているわけでは無いが…まあ、ユーシスに恨まれたくは無いからこの辺りでお暇するとしよう」

にこり、と微笑まれて脱力してしまう。ルーファスは優雅にお辞儀をすると、勉強頑張ってくれたまえ、と理事らしい言葉を残して去っていった。
後に残されたリィンは、周囲の視線が痛い程突き刺さるのを感じつつ、なるべく目立たないように本を戻して図書館を出る。

「ああもう、早く帰ってきてユーシス…」

文句を言いたいような、伝えたら伝えたで機嫌が悪くなりそうな話題だ。
バリアハートからユーシスが帰るまで後数日。
とりあえず、変な噂が立たない事だけを祈って、リィンは寮へと早足に戻っていった。



my honesty





数日後、第三学生寮に戻ってきたユーシスを出迎えたマキアスとフィーは、衝撃的な事実を口にする。

「どうやら君の兄がこの前士官学院に来たそうだが…リィンに求婚したらしいと噂がたっている」

聞くや否や、階段を静かに駆け上がるユーシスの背中にフィーはそっと拳を握った。

(リィン、ファイト。)