※突然降ってきた、エリオット・グレイグ17歳の恋話
※閃の軌跡U発売前のお話です
※フィーが友情出演します



エリオット・グレイグは、かつてない危機に直面していた。

今まで体験したことの無い、そして自分には起こり得ると思わなかった事態である。

ここは学院であり、当然年齢の近い男女が集まる場であり、交友や恋愛やらは日常茶飯事だ。
とある女子生徒に狙われたマキアスに巻き込まれたこともあったし、ユーシスを崇拝する女子勢に「手紙を渡してください!」と押し付けられたことも数知れず。
最近は生徒会の一員として認識されつつあるリィンの人気が高くなったこともあり、こちらも「リィンさんって彼女とか居ないんですか?」と平民女子生徒に聞かれること、しばしば。
クロウはまああの性格なので人気が無いわけではないだろうが、一年長く在学している先輩でもあるので、違った意味で有名だ。流石に恋愛の仲介を頼まれたことは無い。
つまり、エリオットは、いわゆる「イケメン男子」に囲まれており、自分自身がその中に入るとは欠片も思っていなかったのだ。
むしろ除外してもらっても構わない。リィンやユーシスを見ていると面倒事に巻き込まれそうだし、実際にマキアスの時に巻き込まれたし。と、微妙に距離を置いていたところがあったのだ。

しかし、目の前の状況はどうだ。
平民出身の緑色の制服に身を包み、恥ずかしいのか少し顔を伏せて頬を赤く染めて。
自分より少しだけ背の低い彼女は、こう言ったのだ。

「エリオットさんは、Z組のどなたかと付き合っているんですか?」と。

さて、ここで女子勢を考えてみる。
Z組の女子は、クラスメイトの贔屓目を除いても可愛い子が揃っていると思う。
アリサは溌剌としていて気が利くし、エマはおしとやかな中に芯の強さを内包している。
フィーは特殊な過去を過ごしているため一風変わった性格ではあるが、容姿はZ組の誰にも引けをとらない。
ラウラはその強さと向上心が魅力的で、可愛いというより、綺麗で凄まじい人だ。

なるほど考えてみると、エリオットの周囲にはこれでもかと素晴らしい女性陣が揃っているわけだ。
だが、その誰とも恋人同士になりたいとか、付き合いたいと感じたことがない。
それは、クラスメイトでそうなってしまったら面倒くさいのではないか、とかの理由ではなく、
Z組の特殊な成り立ちと、身の内に入ることを許した仲間意識のせいではないかと、エリオットは納得していた。
互いを理解し高めあう、ただのクラスメイトと断じるには濃すぎる関係。
身分の違いはあれど、意識の壁がいつからか無くなっていて、あんなに苦手だった貴族生徒ともリィン、ユーシス、ラウラと共に居ることで無理に畏まる事が無くなった。

話を戻すと、少なくとも女子生徒の問いに答えるのならば、「いえ、居ません」が正解だ。
だが、そう答えた次を考える。二択だ。
一、エリオットさん私と付き合ってください。
二、Z組で彼女や彼氏がいる方はいますか。
一に関しては、リィンならば思い付かない選択肢だろう。失礼だが。
残念ながら、恋愛事に興味を持つ健全な年齢にも関わらず、そうした話題を共有したことがない。今度、リィンとマキアスあたりにふってみよう。

いけない、こうして考えが二転三転するのは現実逃避の証拠だ。
時間にして数秒足らずではあったが、エリオットにとっては数十分に及ぶ内心の整理を経て、ついに意を決して口を開いた。

「えっと……いな」
「エリオット、いた」

妙なタイミングで後ろからかけられた声は、淡々とした少女のものだった。
吃驚しすぎて、目が丸くなる。目の前の少女も驚いたようで、一歩後ずさっていた。

「フフフフィー!?どうしたの突然?」

動揺は声にも表れて、振り返った先の少女の名が掠れた。
このタイミングで遮られるなど、狙ったとしか思えない。が、フィーは首を傾げると、ふあ、と軽く欠伸をして用件を続ける。

「リィンが呼んでた。旧校舎の探索、行くって」

なるほど、呼びに来てくれたと言うことか。
旧校舎の探索に回復役は重要だと、最近はよく同行を求められる。素直に嬉しいし、エリオットとしても旧校舎の謎は気になるので、別段断る理由はない。
しかし、エリオットはリィンより先に返事を伝えなければならない人がいる。

振り返って女子生徒に……と思ったところで、固まっていた彼女が慌てたように手をふった。
そのまま、「し、失礼します!」と去っていく背を引き留めることができずら、エリオットの伸ばした手が寂しく余韻を残す。

ああ、色々とダメかもしれない。
エリオットが肩を落とすのを眺めながら、実は事態に気づいていなかったフィーは首を傾げるのであった。

こうして、エリオットの貴重な恋愛体験は、幕を閉じたのだった。