・Z組が存続したまま2年生になっています。
・閃の後夜祭で、エマと踊りました(2年生になっても、エマとリィンが付き合っています)
・Z組男子は全員仲が良いですが、特にリィンとユーシスが一部の女子から人気が出る程仲が良いです*注意
・本人たちは至って普通のつもり
・エマは、リィンとユーシスが仲が良いのをとても微笑ましく思っています。最早公認。
・リィンにとって、エマは恋人。ユーシスは背中を預ける仲間で親友。ここ大事!
・閃の軌跡の後を勝手に妄想しました。一応、碧の軌跡に準拠。
・閃の終わりが始まり過ぎて、過酷な未来しか見出せず、幸せな学園生活が読みたかったんだ……
『ユーシス・アルバレア、後夜祭で踊りたい男子NO.1!T組の男子勢に大差で圧勝!』
『次いで、リィン・シュバルツァーも2位でランクイン!さすが生徒会副委員長の人気は恋人がいても健在!』
「……」
「ユーシス、やっぱり人気だな」
のほほんとした声が妙に癪に障り、持っていた生徒新聞を勢いよく握りつぶして放り投げる。
ちなみに、屋上のベンチから。
「ちょ、下に人いないよな!?」
「知るか」
足を組んで、これでもかという程不機嫌オーラを纏うのは、今日の生徒新聞一面を飾ったユーシス・アルバレア。
隣には、同じく一面で、しかしユーシスよりは小さく名を連ねている、リィン・シュバルツァー。
リィンが買ってきたフィッシュフライを二人でつまみながら、生徒会までの時間を過ごしていた途中である。
生徒会長エマ・ミルスティンは、トワ前生徒会長より指名された現在の生徒会長だ。
そして、副生徒会長リィンと恋仲でもある。
1年生から2年生に上がるまでに色々な困難が立ちはだかったZ組だが、学生として変わらず籍を置く事を許され、
入学した時とは少しばかり異なる環境で、しかし充実した平和な学園生活を送っている。
ユーシスもまた、生徒会の一員として活動している。
専らリィンと二人で生徒会に寄せられる要望をこなして、エマの手伝いをしているといった状況だ。
「捨てる事無いだろ。良いじゃないか、人気NO.1」
「面白がってるだろう貴様」
「半分はな」
素直に頷けば、憮然とした顔で黙り込む。眉間に皺が寄っているため、ユーシスをよく知らない人間ならば萎縮してしまうだろうが、
普通の親友より何倍も濃い付き合いをしていれば、それが単なる意地っ張りの不貞腐れであると分かるため。
ぐりぐりと人差し指で眉間を付けば、流石にイラっとしたのかフィッシュフライが強引にリィンの口に押し込まれた。
「俺が人気である事については異論はない」
「(さすが…)じゃあ何がそんなに気に入らないんだ?」
「昨日から、やたらと視線を感じる」
なるほど、とリィンはもぐもぐとフィッシュフライを味わいながら頷いた。
つまりは、この記事がさらにユーシス目当ての女子の闘志に火をつけて、1日中追い掛け回されることを危惧しているのだろう。
ダンスを申し込んだ相手を、無下に断ったりはしない。
ちゃんと紳士的に、完璧な貴族の振る舞いで、リィンよりもはるかにソツなく断りを入れるだろう。
直接話せば傲慢で上から目線でもちゃんと返してくれるユーシスだが、遠巻きに色々と言われるのを嫌う性格だ。
そういった声に耳を傾ける必要は無いとリィンに言ってくれたことはあるが、やはり雑音は雑音。
精神的に嫌になるのは、分からなくない。
「…まあ、後夜祭までは耐えるしかないんじゃないか?もしくは、ラウラと一緒に踊るとか」
「何故そこでラウラが出てくるのか分からんが…」
「だってラウラとユーシス、お似合いじゃないか。ユーシスだって、ラウラが相手だったら何の問題も無いだろ?」
「……」
こいつの思考回路が分からない、と顔に出してリィンを見るが、本人の目は本気だ。
確かに、ラウラに申し込むのは、色々と波風が立たない一番の最適かもしれない。
同じZ組というのもあるし、二人とも貴族という微妙な立場と、あくまで仲の良いクラスメイトという形を通すことができる。
断言しても良いが、ラウラがユーシスのことを好きなど有り得ない。ユーシスもまた誰か特定の恋人を作りたいと思っていない。
リィンが言う「お似合い」というのも、恋人同士ではなく、あくまで容姿やら雰囲気やらのこいつらしい大雑把な理由だろう。
「…お前についての記事は、なんとも思わないのか」
「エマと踊るってもう決めてるしな」
1年の時の、恋事に疎い鈍感男はどこに行ったというのか。
エマという恋人ができてからは、あっさりと周囲にそれを打ち明けた上に隠すことなく二人で生徒会に所属し。
正直同じ場に居るユーシスが異分子だ。と思っているが、どうもリィンの隣を離れがたく思っている自分に、エマが微笑みながら
「一緒に生徒会の仕事をしませんか?」と手を差し出されて。
自分でも驚くほど呆気なく、エマよりも長くリィンと共に行動している。
残り一つとなったフィッシュフライの箱を手に取って、リィンに中身を渡す。
ありがとう、と遠慮なくそれを受け取ったリィンは、残っていた小さな欠片を咀嚼して「あーあ」と空を仰いだ。
紺色の髪が、夕暮れの空色に染められて、少しだけ赤い。
声に少しだけ悲しげなものが混ざっているような気がして、ユーシスは躊躇うことなく、くしゃりとリィンの髪を撫でた。
見た目より硬い質の髪を丁寧に手で梳けば、流れる時間は穏やかで気持ちがいい。
重力に従って後ろに落ちた前髪。空を見上げる瞳には赤い色が映りこんで、色々と思い出したくないものも思い出す。
こちらを見ればいいと思いながらその横顔を見つめていると、くすりとリィンの双眸が柔らかく笑んだ。
「いつも、ユーシスの手は優しいな」
気持ちいい、と目を閉じて。
されるがままにしている様子を見ると、こいつは本当に質が悪いと思う。心底悪態をつきたい。
だが、こうやって何の飾りもなく、感じたことを素直に言葉にする彼の優しさを、得難い幸せだと知っている。
手放せない、例え離れても、ずっと忘れたくない宝物のような感情。
「…だとしたら、お前が、俺をそう変えたんだ」
貴族という微妙な立場の中、それでも誇りを失わず、自らの未来を選び取っていく強さを持つことができているのは、
間違いなくリィンのおかげだ。
決して明るすぎることなく、自然と隣に寄り添って、時には背を預け、時には溶け込む光。
エマも、そんなリィンに惹かれたのだ。
性別は違えど、二人とも、同じようにリィンを大事だと思っているのだ。
「そっか」
目は閉じたまま。
受け入れる言葉に、自然と手が離れる。
もたれかかるようにベンチに背を預けていたのを、ゆっくりと身を起こしていく。
穏やかな灰色の瞳は、今度はゆっくりとユーシスを映しながら、笑みと共に細められた。
満足そうにユーシスも笑う。少しだけ皮肉めいた、それでも優しい笑顔。
顔を見合わせていたら、腹の底から笑いの衝動が沸きあがってきて、二人して吹き出してしまった。
「ははっ…こんな夕暮れ時に男二人で……っ」
「やめろ、これ以上っ…笑わせるつもりか…!」
ひとしきり笑って、最初に復活したのはユーシスの方。
立ち上がって、「生徒会室に戻るぞ」とリィンを促す。
まだ笑いが収まりきれていないもう一人は、お腹をさすりながら後に続いた。
ベンチには新聞が一つ、残されたまま。