chapter : lastShine like a stars in the sky

 総士の子供ができたら、私はもう叔母になるのね。
 何気なく食堂に落とされた乙姫の一言。一騎特製海賊カレーに舌鼓を打っていた剣司は、危うくカレーを逆流させる大惨事に陥りかけた。
「げっっほ……!なにがなんだって!?」
 慌てて胃に水を流し込んで息を整える。隣で同じくカレーを食していた甲洋が背中を摩り、乙姫に問うような視線を送った。
 小麦粉と砂糖、チョコレートチップを混ぜたシンプルな食後のデザートと珈琲を完食し、乙姫は二人に微笑む。
「まだ十五になったばかりなのにもう叔母さんなんて、ちょっと複雑だなって思って」
「それは……ま、そうかもね」
「総士と一騎の子供は可愛いに違いないけれど、もうちょっと待ってくれたら私の叔母としての威厳が上がると思うの」
「ほう……」
「そうね。あと三年は待ってもらいたいかなぁ。その方が、一騎も子供を育てる前に色々と経験できて良いでしょう?」
「経験」
 経験を言葉通りの意味で捉えるべきか、それとも裏の意味を邪推すべきか。二択になっている時点で純粋さを失ってしまった大人二人は、揃って腕を組み唸った。
 あの寵愛っぷりじゃすぐできそうだけど、とは言わないでおく。
「そうと決まれば海神様にもお願いしなきゃ!」
 おいおい神様にお願いすることなのか、という剣司のツッコミは発されることない。
 両手を机について立ち上がりかけた彼女は勇んで出ていくのかと思ったが、突然、あ、と声を上げた。
「でも、それで遅くなっちゃったらなぁ……」
 悩ましいと眉を寄せて座りなおす。真剣に悩んでいる手前吹き出すのは失礼なので、二人は内心で苦笑した。
 なんだかんだで、この子も二人の子供を待ち侘びているのである。

chapter : lastDance with a Lance!

 剣を扱えるようになりたいとは言ったものの、武器は剣に限ったものじゃない。例えば総士が得手とする弓。剣司はピストル。海賊団の中での割合としては剣が一番多いものの、いくつか武器の扱い方を教えてもらう中で、一つ気になるものを見つけた。
「ランス?」
「というより、槍に近いかな。中距離を保って、斬るより突くってイメージ」
 接近戦を渋る総士の求めもあって、剣以外の武器を試していた矢先のこと。奪った宝の中に一目で業物とわかる槍が混ざっており、だが形状が珍しく誰も手にしていない物があると握らせてもらった。
「結構長い」
「一騎の背丈はあるかな? でも軽くて丈夫だから、扱いやすいとは思うよ」
「だが、槍はバランス感覚が優れている必要があるだろう」
 総士の疑問に、宝を管理する任に就いている衛が首を傾げた。
「一騎なら、剣みたいに重い武器よりは、身軽さを活かして体幹を鍛える方が良いんじゃないかと思ってさ。それに、あの長さがあれば威嚇にも使える」
「なるほど」
 よく一騎を理解している観察眼に、素直に感嘆の声をあげた。そんな総士の態度に、衛は少し驚いたように小さな目を瞠り、嬉しそうに頷く。
「総士、良かったねぇ。一騎と両想いになれて」
「は?」
「うん。僕は今の総士の方が好きだな。前より全然良いよ。一騎のおかげだね」
 混乱する総士を他所に、一人嬉しそうな納得顔の衛の考えていることがわからず今度は総士が眉を寄せた。ちなみに一騎は、槍に夢中で二人の会話を聞いてもいない。
「衛、それはどういう意味だ」
「え、そのまんまの意味だけど」
「だから、そのままとはどういう」
「総士!」
 いろいろと試した結果、どうやら槍が馴染んだらしい様子の一騎が総士の元に跳ねるように戻ってきた。まるで新しい好きなものを見つけた子犬みたいだ。
「俺、これにする。すごく使いやすいし、これで戦えるようになりたい!」
「……ああ。僕も、良いと思う」
 総士のお墨付きをもらえたことが余程嬉しかったのか、常に無いほど頬を紅潮させた一騎が「ありがとう」と笑っていた。それに応える総士の顔も、衛が知る限りではかつてないほど緩んでいる。お花畑が見えそうだ。
 誰に学ぶか、どれくらいの稽古が良いか。師事する際には総士が立ち会うとか、話し始めた二人はすでに二人きりの世界だ。
 金庫の鍵を閉め、宝物庫の扉を厳重に封じ、鍵番を務める衛はその後ろ姿を優しく見守る。

 新しい季節は、すぐそこに迫っていた。

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