香水 −総一ver−
総士の匂いは俺の頭をおかしくするんだ、と一騎が言った。
一騎からそういう指摘をされるのは意外だったから、よく覚えている。その言葉が放たれたのが、身体を繋いでいる状態だったから余計に。
職業柄、体臭にはある程度気をつけていたものの、積極的に香水を購入するような趣味はない。清潔でいるのは風邪や病気に対して効果的なので、アルコール除菌シートは常に持ち歩いているが。
ただ以前、仕事で香水のプロモーションをしたことがあった。自分と一騎をイメージした香水、というコンセプトでセット販売されたもので、その時に作ってもらった香水は嫌いではない香りだったので、気が向いた時には手首のあたりに吹きつけていた。
一騎自身は、香水など一切興味が無いようだったので、あまり覚えてないだろうと思っていたが。
「ぁ、んっ、んっ」
ゆさゆさと腰の動きに合わせて、一騎の足が跳ねる。肩や腕にぶつかる引き締まった肉体を見ると、彼のまるで豹のようなしなやかな体躯を自分の好きにしているという優越感と支配欲が満たされ心地が良い。
もちろん、繋がっていることによる負担は受け入れる側の方が大きいのだから、最大限の配慮は怠らない。
「ふっ、くぅ」
一騎の両手がシーツを固く握りしめて、衝撃に耐えながらも疼く快感を散らそうともがいているのが手に取る様にわかった。
気を抜けば間抜けな声をあげてしまいそうな快感と同じくらいの喜びを、一騎の体にも心にも与えられていたら、嬉しいと思う。
「あ、〜〜ッ!!」
一騎の口が、はくはくと開けて閉じてを繰り返す。
気持ちが良すぎると声が出なくなって、ついでに酸欠にもなって。苦しくて死んでしまいそうなのに、あまりにも気持ちいいから降りてこられなくなる。
意識を飛ばしてしまった一騎が、自分の状態をそう分析していたのを思い出す。頭の中も体も弾けてどこかに飛んでいくのだ、とうっとりと言うものだから、縁起でもないことを言うなと口を尖らせてしまったが。
気持ちよくなってくれるのは嬉しい。嬉しくなはずがない。でも、無理をさせたいわけじゃない。
意識を失うのは、やりすぎだという自制心くらいは、ある……はずだ。
「一騎、息をしろ」
律動を止めて軽く頬を叩くと、ようやく息をすることを思い出した喉と肺が鈍い音を立てて上下した。
添えた手に、一騎の手が重なる。指先を握って、確かめるように頬を摺り寄せると、「そうし」と舌足らずに呟いた。
薄らと開いた一騎の目は、甘く甘く溶けて微温湯のようにどろどろと揺れている。
「僕がわかるか?」
何を問われたのかわからなかったのだろう。ふわふわと漂っていた視線が、徐々に総士へと収束して、目に光が戻った。
意識が焦点を結び、総士を見上げると、コテンと首を傾げる。
「わかる……そーしの、香り」
「ああ」
腰の位置を整えて、挿入した場所が痛まないようにゆっくりと上半身を倒した。
鼻先にキスをして、唇を食む。舌が絡まり、互いの境界線があいまいになる感覚を共有する。
「服は脱いだんだが。まだ香りは残っているのか」
「たまに、くらってする」
「なんだそれは」
「総士、もっと」
愛撫を求める一騎に、深く口付けた。親指で鎖骨をなぞり、二の腕を撫で、手を握る。指先が、一騎の存在を余すことなく伝えてくれる。
手を繋いだまま、腰を進めた。じゅく、と下腹部から濡れた音がして、口内にくぐもった嬌声が吸い込まれる。
頬を撫でると、一騎は嬉しそうに笑った。
「好き」
それは香りに対して言っているのか、と問いかけたくなったが、まあ愚問というものだろう。
だって、こんなにも愛おしい存在が、他にいるだろうか。
貪るように首に唇を寄せ、音を立てて吸いつくと、一騎は擽ったそうに身を捩る。
「んぅ、あっやぁ……」
鼻先がくっつく距離で視線を合わせると、どちらともなく目を閉じて、再び唇が触れ合った。
甘く溶けるような赤い舌を絡め合うと、そのまま香りなんてわからなくなってしまうくらい、混ざり合えることを知っていた。
「総士ぃ……好き、イイ……あ、はっ」
「ああ、僕も……っ」
ねっとりと絡みつく一騎の中が、収縮を繰り返す。奥へ奥へと雄を誘う動きに逆らえるはずも無く、奥まで一息に押し込んだ。
「〜〜っ、ああぁ!!」
一際高く啼いて、一騎は絶頂へと駆け昇った。
くん、と沿った綺麗な背中を抱き込んで、後を追いかけるように膜の中に己の欲も解放する。
「ふっ、はぁ」
「ぁ、ぁ…ぁ…ぅ…」
か細く震える身体は余韻に気を飛ばしていて、脱力したまま目を閉じて浅い呼吸を繰り返す。
ずるりと引き抜いて身体を離す間際、ふと仄かなムスクの香りが鼻孔を擽った。
ムスクは、二人共に香水に入っている香りだ。混ざり合い溶け合い、湿度を増した空気の中で、熱を分け合う二人から漂う。
「なるほど、悪くないな」
微笑んで、一騎の滑らかな黒髪に口付けた。
thanks: template